授業は生徒が主役

先日、「NPO法人カタリバ」が主催する高校生を対象とした授業の見学に行ってきました。

▼NPO法人カタリバ
http://www.katariba.net/

カタリバは、「すべての若者たちが、将来に希望を持ち、前向きに生きていくことができる社会を実現する」という目的を掲げ、「高校生へのキャリア学習機会」を提供している特定非営利活動法人です。
ホームページを見ると、カタリバのミッションと題するページに下記の記述があります。

2人に1人が「自分は人並みの能力はない」と言い
3人に1人が「孤独を感じる」と言う。
5人に3人が「自分はダメな人間だ」と思っていて、
5人に4人がなんだか疲れている。
そして、5人に3人が「自分が参加しても社会は変わらない」 と言う。
※〈カタリバホームページより抜粋〉

これが、日本の未来を創る若者の現実で、積極的に社会に参加できない若者が増えているということです。
こういった高校生に、少しでも自信をもって、少しでも意志ある日常を送ってもらい、自分の力で進路選びができるようになることで、自律した責任ある大人が増えてほしい。
これがカタリバの皆さんの思いなのだそうです。

このような高い志をもつNPO法人カタリバは、20代の職員と大学生を中心としたボランティアで運営されています。
通称キャストと呼ばれている大学生を中心としたボランティアスタッフ総勢30名以上が力を合わせて一学年(200名以上)全員を対象に、2時間にわたって授業を進めていきます。
この授業は、決まった内容のプログラムではなく、先生の希望や生徒の特色、実施学年などの諸条件に併せてハンドメイドでつくり上げていきます。プランニングや打合わせ、キャストが生徒と向き合う練習などを含めると、その準備に授業時間の数十倍もの時間をあてているそうです。

200名を超える生徒ですから、時間が経過するに従って、ちらほらと授業の輪から外れていく生徒も出始めます。それでも、キャストたちはそっと生徒に寄り添って、やさしく語りかけ、話をゆっくりと聞いていきます。考えに考え尽くされたプログラムを決して押しつけることはせず、一人ひとりの生徒に合わせて進めていきます。
この授業を目の当たりにしたとき、この場は「生徒が主役」なんだと実感しました。一見当たり前に思えることですが、実践していくことは容易ではないこともまた、感じたのです。

「大人の社会から何かと問題視されている若者(高校生)ですが、本当は誰もが生きることに真剣で、前向きになっていけるきっかけが少ないだけなんです」
「こういった高校生たちは、私たちが本気で向き合っているかということにとても敏感で、いつも真剣勝負でなければ、決して心を開いてくれないんです」

これは、明らかに数年前は高校生だったと思われる職員の方の言葉です。人と人との関わりの中でしか人は成長しない、人と向き合うということはその人の成長に影響を与えるほどの真剣勝負なんだと、改めて気づかされました。
未来を創る人の育成について、社会や企業は評論や問題意識に留まらず、どれだけ真剣勝負で向き合い、実践をしているのか。
カタリバの取組みは、一人の大人として、何かアタマをハンマーでなぐられたような衝撃でした。

地域におけるナナメの関係

親や先生というタテの関係(大人の組織では上司)では本音が言いにくい。友達というヨコの関係(大人の組織では同僚)では真面目な話は照れくさくてできない。
「地域におけるナナメの関係(=人生の先輩)」は、先入観のない関係だからこそ、普段話さないような本音を口にすることができる。カタリバは、従来の地域社会が持っていた役割に近い、ナナメの関係を高校の授業の場に導入することで若者に成長の機会を提供しています。

私たち大人の世界では、目の前のすべきことに追われ、タテとヨコの関係を維持することで精一杯というのが現状なのではないでしょうか。
身のまわりにある「地域におけるナナメの関係」を見渡してみる余裕が少しあれば、自分の本音を少し語り、そこから人と人がつながり、何かに貢献していくことができる、そんな地域社会のプラスのサイクルが動き出す可能性があるかもしれません。