「変えなければならないもの」と「変えてはいけないもの」を峻別する

特に大切なのは、私たち日本人独自のものである日本的なものを大事にしながら、その中で何を捨てて何を残すのか。そこをきちんと峻別して取り組むことが今日の変革の要件ではないかと私は思っています。
風土・体質の問題についても同様に「変えなければならないもの」と「変えてはいけないもの」を峻別する必要があります。それを前提にして、“変えなければならないもの、変えることが可能なもの”を改革していくのが「風土・体質改革」なのです。

日本的経営の特性と言えるものに、かつて家族主義と表現されたような独特の濃密な人間関係があります。組織の中でそうした人間関係を培う役割を果たしていたのは、社員旅行や運動会、あるいは会社帰りに寄る居酒屋などのインフォーマルな場でした。けれど今ではそれも若い世代には疎んじられて、生活や意識の近代化が進んでいく中で、仕事を離れて個人同士が直にふれあう機会は失われようとしています。
濃密な人間関係の中には確かに公私の区別があいまいな、プライバシーを侵すようなネガティブな側面も同居しています。しかし、それに対する反発によって半面にある良さまで失くし、人間関係が薄っぺらなものになっていき、それとともに書類に書けない情報の交換機能が失われていくのは問題です。隣の席の人と口もきかない、表面的にナアナアでつきあう人間関係の中では決して信頼は培われません。

変えるべき要素は何なのか、何を大事に残していくのか、そこを区別しながら人と人の向き合い方、関わり方を変えていくことが風土・体質改革の中身です。そして、お互いがきちんと向き合うことで信頼が育っていく温かい人間関係、中身の濃い人間関係をつくっていこうというのが私たちの主張であり、願いでもあるのです。

みんなの知恵と協力によってしか多様で最適な答えは求められない

環境の変化が激しい今のような時代は、昔と違って変革自体も複雑になっています。かつてのようにセオリーに頼るだけでは変革は進みません。
複雑な状況の中では、みんなの知恵と協力によってしか多様で最適な答えは求められません。状況が複雑になり変化が激しくなればなるほど、スピーディに局面を打開していける組織、つまり、それを可能にするメンバー相互の関わり方や結びつきなどの要素がより重要な意味を持つようになってきます。
これは、変革全体における風土・体質改革の位置づけもそれだけ大きくなっていることを意味していますし、時にはそれが変革を決定づける要因にもなるのです。

といっても、風土・体質改革をそんなふうに位置づけて見ている人は、まだ部分にすぎません。この正月の新聞での提言内容を見ても、風土・体質を変えながら変革を進めることが大事だという認識が一般化しているとは決して言えない状況です。
むしろ、いまだに多くの人が風土・体質というのは変えられない、変えられるとは思っていないのが実情なのです。しかし、「人と人の向き合い方、関わり方を変える」ことが「体質を変える」ことにつながるという認識さえしっかりもてば、風土・体質は変えられるものなのです。
そのことをもっと多くの人に理解してもらうことが、今の私たちの最大の課題だと思っています。