現状の裏返し“notAの呪縛”

しかし、ワークショップを始めてみると“新しい発想”のビジョンはなかなか出てきません。いろいろなアイデアは出るのですが、どれも“現状の裏返し”的なものばかりです。現在認識している不満や障壁に目を向けて、それを「こうでなかったらいいのに…」と単純に裏返したものがビジョンとして出てきてしまうのでした。

このように、現状Aに対して、それを否定する「notA」という形の発想をしてしまいやすい思考の特性を、私は“notAの呪縛”と呼んでいます。

「notA」は多くの場合、否定はしても、現状からスタートする発想であることに変わりはなく、真に未来を切り拓く力を持った創造的なアイデアではありません。
イノベーティブな発想が大切だとよく言われますが、そもそもイノベーティブな思考の状態になること自体が、実際にはかなり難しいことなのですね。

思いの源泉であるDNAを再確認する

不満の種の“正体”を明らかにする

では、どうしたら“notAの呪縛”を超えていけるのでしょうか。

“not A”の呪縛を超えるためには、望ましくない現状(A)に対して、主観的、感情的に反応するのではなく、現状(A)をできるだけ客観的に認識しようとすることが大切です。目の前に不満の種となるような葛藤や困難が存在する時に、「それをなくせば良くなる」と考えるのではなく、「これらの葛藤や困難は何か理由や原因があって生まれてきているはずだ。その力学や構造を解明しよう」という方向に思考を深めていくのです。

Aを感情的に拒否するのではなく、Aに向き合い、その“正体”を明らかにすることで、Aに縛られるのではなく、Aを超えていく視点が生まれるのです。

自分たちのルーツや思いの源泉に立ち帰る

もうひとつは、「自分たちのルーツや思いの源泉に立ち帰る」ことです。

どの企業にも日常的には無自覚ながら、創業から脈々と受け継がれているDNAのようなものがあります。
事業が迷走するときというのは、自分たちの強みであり、思いの源泉であるDNAを見失って近視眼的になり、目の前のことに場当たり的に対応してしまっていることが多いようです。

そのDNAを再確認することで、変えてはならないものや、逆に変えるべきものが明確になるでしょう。
未来のヒントは往々にして、過去のDNAの中に隠れているのです。

“notAの呪縛“は、それとは気づかずに陥ってしまいやすい罠なのですが、その呪縛を解くカギは、現状についての”前提“をしっかりと掘り下げて、問い直すことにあるのです。