地方分権が進み、各自治体が独自色を打ち出して競い合う時代が到来している中では、人事評価制度においても同様に、形を「横並び」でつくればよいというものではなくなっています。
制度は、形をつくるだけでなく、その制度をうまく活用して人材や組織の活力を高めることが重要です。もし運用面の努力を怠れば、制度が形骸化して、かえって組織の活力が削がれてしまうことにもなりかねません。

「自律的にチャレンジする仕事のし方」に転換していく

民間企業においても目標管理制度は、いまや標準的なものとして定着していますが、その導入期には多くの混乱や失敗例が見られました。

一番難しいのは、「職員の自律性やチャレンジ意欲が育っていない中で導入しても、うまく機能しない」ということです。
目標管理は「一人ひとりの職員が、自分で仕事の目的や目標を考え、その達成に向かって、自律的に行動する」ことや「目標へ向けてチャレンジすること」を重視する制度です。

これまで自治体の仕事では、必ずしも自律性やチャレンジは求められてこなかったのも事実でしょう。
公務員の方と話していると、「これまでは言われたことをやるだけでよかった」「仕事内容が法律で規定されており、改善の余地が少ない」「ルーチンワークが多く、目標をつくれない」というような声をよく聞きます。

ただし、現在のように変化の大きな時代では、これまでの仕事のし方では限界があります。これからは、法律などで決められたルーチン業務を遂行するだけではなく、各自治体のめざす姿や方針に沿って自らの仕事を問い直し、地域に対して戦略的に新たな価値提供をしていくような仕事のし方に転換していく必要があるでしょう。
目標管理は、まさにこのような「自律的にチャレンジする仕事のし方」に転換していくために活用できる制度なのです。

ある自治体のケース

ある自治体のケースです。この自治体では他自治体と同様に目標管理制度の導入を検討していました。ただし、形だけ制度を導入してもうまくいかないと考えた職員課のメンバーは、制度(ハード)の導入と併せて、制度をうまく使いこなせるような職員の「自律性の醸成」、さらには「目標に向かってチャレンジするような風土の醸成」にも取り組むことにしました。

具体的には、制度の導入にあたって、キーマンとなる部課長層の制度に対する理解の促進を非常にていねいなプロセスで行ないました。

通常、制度の導入では、大規模な説明会が開かれ、制度の運用のし方(How to)を説明することが多いのですが、この自治体では、小さな単位で対話型の説明会をたくさん開催し、「目標とは何か?」「なぜ目標にチャレンジする働き方に転換する必要があるのか?」といった、制度のそもそもの思想や導入の意図(Why)に焦点をあて、管理職の人たちとディスカッションを積み重ねていきました。

一方的に説明を聞くだけの場合とは違って、このような対話型の場の中では、さまざまな意見や疑問なども出てきます。そのような声をきちんと取り上げ、そもそもに立ち返って制度の意図を確認していく中で、“なぜ、何のために、目標管理を活用するのか”という「本来の意図」が少しずつ浸透していったのです。

管理職の中からは、この制度を活用して自部署の活力を高めたいと考える、制度の「積極的な使い手」となるような人も現れ出しました。仕事のし方の転換には、まだまだ時間がかかりますが、このように形だけの導入・運営にならないための努力を継続していくことで、制度を生かすマネジメントのし方が少しずつ定着していきます。

まとめ

目標管理は、使い方によって毒にも薬にもなる制度です。
制度の導入を機に、組織や職員の自律性や活力を引き出すために制度を積極的に活用する運用策を補ってみてはいかがでしょうか。