業績と働きがいが結びついている企業の本質的な違い

日本の企業の中にも決して数は多くないかもしれませんが、お客様の「支持の証である儲け」と「支持を生み出す源泉をつくる社員の仕事の進化」とが、好循環している企業が存在します。会社を成長の場ととらえて変化することを楽しむ社員、儲けを仕事の努力の結晶と考えて経営に取り組む経営者のいる企業です。

モデルの一つと言えるメーカーA社は、年間売上の11%以上、総労働時間の11%以上を新商品や新用途の開発投資に充て、社内ではなく、顧客の見ている先に思いを巡らすことを大原則として経営しています。
もう一つのモデルである通販ビジネスB社は、熱意を持っておすすめできない商品は販売しないことを前提として、売上のためだけの新商品は投入せず、自分も欲しくなる新商品を、業界平均の2倍の時間をかけて開発しています。
また、ある販売会社では、上司評価ではなくお客様のアンケート評価で人事評価を行ない、上司の顔色よりもお客様の満足を求めることに焦点が当たるその仕組みを、思いを込めて運用しています。

いずれの取り組みも、商品・サービスをよりよくするという意味においては、業界の一般常識を超えるレベルを実現していると言えるのではないでしょうか。

業績と働きがいが対立構造になってしまう企業と、業績と働きがいが結びついている企業の本質的な違いは、商品・サービスを改善・革新していくプロセスへのこだわり度合い、商品・サービスの突き詰め方に表われる、というのが私の経験上での見方です。

自慢の一品づくり

そこで、商品・サービスづくりのプロセスを焦点にして、ユーザー目線で見直し考え抜くことで、自分たちの商品・サービスに新たな魅力を見つけ、「愛着と熱意と自信を持って」提案や販売ができる状態をつくろう――と考え、行なってきたのが「自慢の一品づくり」です。

ある歯科医院では、歯のメンテナンスサービスを新たな目的来店性にすることを決め、衛生士と医者とスタッフが一丸となって、取り組んでいます。結果として、約7割の顧客が、治療ではなく予防のために通っています。メンテナンスをサービスの主体にしたことで、「生涯を通して自分の歯で過ごすために通う場所」という歯科医院としての存在意義も明らかになりました。そして、「生涯自分の歯で過ごす人を増やしていくこと」が医院スタッフの働きがいになり、その充実 感が、来院者への応対や虫歯治療で終わらせないためのアドバイスやサポートの充実につながっています。

あるホテルでは「日本の美意識が体感できる時空間」をコンセプトに、和の美を表現する部屋そのものの創作をアーティストに依頼しました。これが「アーティストルーム」というホテル自慢の一品になっています。差異化の難しい業界にあって、この商品をマーケットに発信することでホテルの独自性を高めることができました。そして、「このホテルにしてよかった」「日本に来てよかった」という海外からの宿泊客のひと言が社員の働きがいにつながっています。さらに今もまだまだ、日本の良さを表現することを軸に、食事、応対、イベントのブラッシュアップを続けています。

業績と働きがいを結びつける突破口としての「一品」へのこだわりは、企てる、つくる、売るという部門の役割を超えて商品・サービスの価値を深めることからスタートします。そこを深めるプロセスを通して、自社の事業のこれからの存在意義を明らかにし、役割を超えて存在意義を共有していくことが、さらにまた自分たちの商品・サービスの価値を新たにつくり出す動きにつながっていきます。
まず一つ、現場が心から自慢できる一品をつくることが変化の足場となり、次の一品、また次の一品へと広がり、業績と働きがいの好循環をつくります。

働きがいのない仕事には決していい結果がついてこない―。
16年前の私がいつか証明したいと思っていたことが、今ではかなり自信を持って言えるようになっています。