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もしも5年前、改革に着手していなかったら
パークホテル東京(後編)
「知恵とつながり」で進める現場発のイノベーション

2017年10月12日

 

パークホテル東京を一躍有名にした「アートプロジェクト」の取り組みは、震災後の厳しい経営状況の中、現場の知恵でホテルの未来コンセプトをつくってほしい、という社長の意思でスタートしました。
中心メンバーは、宿泊、料飲、マーケティング・広報などの現場を預かる複数部門のミドルマネジャーです。

取り組みの詳細については別の機会に譲ることにして、ここでは、予算にも人手にも余裕がなく、商品戦略も未経験の彼らがいかにして今日の成果にたどり着いたのか、ポイントになる条件や進め方についてふれてみます。


●「強み」を新たな武器にする取り組みは、どのように進められたのか


1.「こっちへ行こう」を決める

「東京発のデザインホテル」というパークホテル東京の開業時の特徴は、10年を経過して鮮度を失い始めていました。これから先を小手先で勝負するのではなく、新たな魅力、独自性で勝ち残っていくために、メンバーは「自分たちの強みを生かした、未来あるコンセプト」の議論に集中しました。そして、もともと海外からの旅客に強いという特徴を掘り下げ、見直していった結果、たどり着いたのが「海外に向けて日本の素晴らしさを伝えたい」という思いです。そこから〈日本の美意識が体感できる時空間〉という新たな方向性が生まれました。表現手段は、ホテルという空間を生かした「アート」です。

 

2.やれることから「まずやってみる」

そもそも予算がないという制約もあったのですが、アイデアを試してみる段階では、大掛かりなプランにすると、承認に時間がかかるだけではなく、決定にも実行にも慎重になります。メンバーは「まずやってみて糸口を探る」ことにして、アトリウムでの若手作家のアート作品の展示、音楽イベントなど、実行可能なものから手をつけていきました。

しかし、ホテルとしてのメインの宿泊にはインパクトを持てないまま。「アーティストルーム」は、「展示企画で売れた作品の絵を部屋の壁に描いてみたらどうだろう、部屋そのものを表現の場にしてみないか?」というアイデアを、まず1室で試してみたことから始まりました。プロジェクトがスタートしたその年、2012年12月のことでした。

 

3.お金をかけないイベント、PR

トライアルの過程で培われていったのが、画廊や画商、デザイン制作会社、アーティストなど協力者とのつながりです。
メンバーは全国各地に足を運んで人に会い、一緒にアイデアを出して日本の美意識の表現としてのアート空間をつくっていくプロセスを大事にしてくれる賛同者、受発注関係を超えたプロジェクトパートナーを増やしていきました。

 

<予算がないぶん、今あるものを駆使して「三方よし」の関係になるように知恵を絞る>

のちに31階の部屋すべてを多種多様なアーティストルームにすることができたのは、アートを介して育くまれたネットワークのおかげです。アーティストルームのPRやアートイベントの集客は、ネットワークの口コミや紹介、SNSなどが力を発揮します。ユニークなアーティストルームの試みは、部屋数が増えていくにつれてメディアにも多数取り上げられるようになりました。

海外でも著名なブロガーが注目し、宿泊した客が体験記として紹介する。
「そこにしかない」ホテルの際立つ魅力は話題となって独り歩きを始め、顧客と情報が好循環するようになりました。


●トップによる3つの後押しとリーダーシップ


アートプロジェクトのメンバーがこの大胆なチャレンジに踏み切ることができた背景には、柳瀬連太郎社長の後押しがあります。
具体的には、

1)変化のための余白となる時間を確保する
2)知恵を生み出すための制約を設ける
3)トライ&エラーを日常の仕事にビルトインする

などの現場の力を引き出すスポンサーシップです。

よくあるのは、日常業務とは異なる新規の取り組みに対しても、「ムダな時間を取るな。早期に結果を出せ。最終的な判断は私がする」といった短期目標達成型のマネジメントをしてしまうケース。
同ホテルのプロジェクトでは、これとはまったく逆のスタンスで取り組みを見守ってくれるトップの存在があったことで、現場リーダーが“任された責任と情熱”をもって頑張り抜くことができました。

トップのスポンサーシップというバックアップがあればこそ、プロジェクトの中身は「ホテルの未来をつくる」戦略的な取り組みになり、また、次世代リーダーが経営視点を学びながら、当事者として攻めの取り組みにすることができたのです。


ふり返ってみると、プロジェクトの立ち上げからコンセプトづくり、やってみる・動いてみる試行錯誤の繰り返し…の過程では、要所要所に、メンバーの背中を押すことになる社長の決断がありました。

実際に「あれがなかったら、できなかった」とリーダーが語る、心を強くしてくれた「社長の言葉」とはどんなものだったのでしょうか。

「考えるための時間を取れ 」

そもそもプロジェクトは、「自分たちで考えてみろ」という柳瀬社長の言葉で始まりました。
新しいコンセプトはホテルの未来を託すことになるものだけに、そう簡単には見つかりません。数十時間にわたる議論と、数カ月間のトライ・検証を積み重ねてきた手応えの上に、メンバーが見いだした方向性なのです。
柳瀬社長は、現場のリーダーたちに対して、考え抜き、動き、試してみるための時間を投資したのです。

「単価は決して下げてはいけない」

知恵が生まれるためには、制約が必要です。
柳瀬社長が唯一設けた「単価を下げない」という条件は、アーティストルームという「勝てる一品」の生みの母になりました。
価格を下げれば当面の稼働率は確保できるでしょう。
しかし、自他を分ける存在性、来店動機となるだけの価値をお客様に認めてもらえなければ、ジリ貧になって長くは続きません。
安易に目先の利益に走らず、本気で価値づくりの知恵出しに集中するためには、こうした明確な方針が不可欠なのです。

「客室の壁に絵? やってみたらいいいじゃないか」

ホテル業界ではメンテナンスの都合上、「全客室が同一内容であること」が常識です。
部屋の内装や装備品が一つひとつ異なるアーティストルームを設けること、しかも壁に直接絵を描くことについては、社内の過半数の人たちが難色を示しました。

どこまでやるのか、プロジェクトの成果を現実の形に落とし込んでいく最終局面です。
そのとき、柳瀬社長は「やってみてから決めればいいじゃないか」と、即座にGOサインを出しました。
社内評価よりも、まずはお客様の反応を見てから決めればいいという判断基準を示したのです。


結果として、アーティストルームの宿泊客は部屋をひとつの作品として大事に扱ってくれるため、部屋のダメージは通常の部屋よりもむしろ少なくなっています。


●スタンダードを満たしながら「どこにもないもので勝つ」ハイブリッド型の戦略


2012年、私は部門のリーダーたちが現場の力でビジネスを革新していくためのお手伝いを始めました。
あれから5年、パークホテル東京業界内で高い評価を受け、ジャパン・ツーリズム・アワードを受賞した今を“満開の花”にたとえるなら、私は、そのタネを探し出し、タネが育つ地力を高めて発芽を促していくサポート役だったと言えるでしょう。

アートプロジェクトの戦略は、A面(現状の改善)とB面(イノベーション)を現場が同時に進めていくハイブリッド型です。
A面では、他のホテルがやっていることは同等またはそれ以上にやる。
サービスや品質のレベルでグローバルチェーンに“負けない”ための戦略です。
そして、B面では、自分たちにしかできない、ここにしかない取組みに知恵を出す。
独立系ホテルとして“勝つ”ための、勝つことで持続していくための戦略です。

〈日本の美意識が体感できる時空間〉というホテルの新たなコンセプトは、何年かかっても圧倒的な差異化によって勝ち残っていくホテルにすると決めた、経営とプロジェクトメンバーの覚悟と努力の結晶です。
それを形にしたのが「アーティストルーム」でした。

めざす方向と、それを具体的に表す一品。そこにお客様の評価がついてくれば、会社の流れは一気に変わっていきます。
リスクを取った経営だけが手にする自信、働く人たちにとっての仕事の意味が伝わっていくからです。

パークホテル東京は、利用者にとっての魅力も、業界におけるポジションも、そして仕事の仕方も働き方も、4年前とはまったく別のホテルになりました。

2014年以降の取材件数は、年間で150回を超えています。
今では独自のアートイベントに2000人もの、宿泊以外のお客様を動員するだけの知名度をもち、協力者のネットワークも広がっています。

こうした明日への土台づくりがあればこそ、ますますインバウンドが増加する2020年をさらなる飛躍のチャンスとして迎えることができ、〈日本の美意識が体感できる時空間〉というバリューをもって商機をものにすることができるのです。


時代も世界も混沌としていて、産業界にもこれからどんな環境変化が待ち受けているのか誰にもわかりません。
しかし、本業と組織が変わり続けるための体幹の強さと自律神経を獲得した企業は、持てるものを生かし、多様なパートナーとつながっていくチームの力で、新たな困難も打開していくに違いありません。


自ら変わり続ける企業になる。これが私たちの支援のゴールです。

岡村 衡一郎

岡村 衡一郎(おかむら こういちろう)

顧客満足度を高める要因、低下させる要因を企業風土・体質面からとらえ、業績向上につなげていくアプローチに持ち味を発揮。

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