ここでは、部門をつなぐ「人のバリューチェーン」構築を糸口にして仕事の全体最適化を進め、各部が全体の流れを見渡しながら価値づくりを積み重ねていく、顧客価値創造のトータルプロセスを前後編にわたってご紹介していきます。

【価値の連鎖をつくり出す5つのプロセス】

1.部門を越えて協力する基盤づくり
2.めざす姿を一緒に考え、提供価値を明確にする
3.本流、支流の仕事の流れを見直す
4.「つなぎ」を見直し、強くする
5.改善レベルから仕組みにしていく

この5つのプロセスは、進め方の手順というより、どういう条件をどのように積み重ねていけば目的の状態にたどり着けるのか、をデザインしていく考え方に基づいています。

難しい課題の解決に向けて、まず事実・実態を確かめ、バラバラになった人とコトをみんなで見ながら、めざすかたちに組み直していく。「最適化」という正解のないゴールを探って試行錯誤していく行程には、その自発的な推進力を支える「意思ある人のつながり」が基盤として不可欠です。

この初期条件が満たされることが、次のプロセスの開始条件になります。このように条件を積み上げていくプロセスのデザインが、風土を入口にして課題に取り組むスコラ・コンサルトのアプローチの特徴になっています。

現場が価値を高め合い、自律的に連携していくトータルシステムをつくる

マイケル・ポーターが唱えたバリューチェーンは、「事業活動の一連の流れは、各部がつくり出す価値が付加されていく“価値の連鎖”である」といった概念です。

多くの企業では、効率化のための分業が過度に進んだことで部門(工程)間に壁ができ、その結果、チェーンとしての“つなぎの機能”が欠落するという問題を抱えています。

気がつけば現場では、全体や前後工程の情報を取る、仕事の受け渡し・受け取りを調整するなど、“つなぎ”の手間が削られることで部分最適化が進み、「価値の付加」ではなく「互いの負荷」のほうが大きくなっているのが実情です。

個々が手元の仕事の処理だけに集中する、機械的な作業チェーンは、変化に疎い、顧客ニーズに対する反応や対応が遅くなる、問題が解消されない、生産性が下がる、社員の成長が阻まれるなどの問題を引き起こします。

設計図(プロセス図)はあっても実際の現場では、つながりがもろくなってしまったバリューのチェーン。それを血の通ったものにしていくカギは、思いの通い合う「人のつながり」にあります。その中身は、顧客価値を高める目的のもとに協力していくオープンな当事者のネットワークです。それを基盤として、各部の仕事を相互の目で見直し、サービス全体としてのめざす方向を共有することで、一体となって顧客に選ばれる価値のつくり込みに挑戦していくのです。

以下に、その取り組みのプロセスをみていきましょう。

1.部門を越えて協力する基盤づくりのプロセス

多くの人は、職場や部署間の連携が大切だとは思っていても、日常的には目の前の仕事をこなすことに手一杯で考える余裕もないのが現実です。まずは、立ち止まって、今の状態をみんなで見る、個々が抱いている「このままでいいのかな」という漠然とした思いを話し合ってみることから始めます。

(1)モヤモヤ出しで現状認識を共有、自分の壁に気づく

ざっくばらんに話をするミーティングの場を設け、それぞれが日々の仕事の中で感じていること、お互いに対して感じていること(おかしいと思うこと、もっとこうしたほうが商品・サービスがよりよくなると思うこと)、普段は言葉にしないで呑み込んでいることを出し合ってみます。

仕事に関する一人ひとりの違和感を徹底して出し合うことで、それぞれの現状についての認識を理解していきます。このときの大事なルールは「自分のこと(ところのこと)は棚に上げて」話すこと。「あなたには言われたくない」と言われそう、「相手のことを言ったら、こちらも言われるから言わないでおこう」といった心理的な壁を取り除く仕掛けです。

話し合いを重ねていくと、自分と同じように考えている人がいることに気づき、これからについて一緒に考える仲間の存在も見えてきます。

また、他所からの意見を聞くことで、部分しか見えていなかった部門や会社全体の状況が見えてきて、自分の中の壁にも気づきます。自部署を中心にして物事をとらえていた視点を変え、相手の立場で考えてみるきっかけになるのです。

(2)相手の事情と仕事の中身を知る

他部署の人の話を聞く、聞いたことについて考えるだけではわからないこともたくさんあります。そこで、実際に他部署の職場に行ってみる。さらに、そこで一緒に仕事をしてみることで、リアルな仕事の状況が体感できます。

それまでは、お互いが前後工程の仕事を見て理解していないがゆえに生じている、一方的な不満がありました。相手が見ている景色を自分の目で実地に見てみると、「だから今までこうだったんだな」「こうすればもっとやりやすくなりそうだな」と、相手への理解や気遣いが生まれてきます。

ある企業では若手主催で、オフサイトミーティングから派生した他職場見学を「交差研修」と名づけ、仕事のフロー図にそって流れの一連を体感する活動を自主的に行なっています。それまでは他部への不満や文句ばかりが出ていたのですが、交差研修をきっかけに、「自工程の先を考えた仕事をしよう」という意識と動きが起こり始めたといいます。

互いが互いのために働き合い、全体として良くなっていくというプラスの相互作用は、机上論ではなく、実際に仕事の流れを現地でたどって体感的に知ることから始まります。そうした体験を通じて、思いが通い始め、部門間コミュニケーションのための現場感覚に基づいた共通言語を持てるようになるのです。

2.めざす姿を一緒に考え、提供価値を明確にするプロセス

上から与えられたビジョンをスローガンとして捉えるのでなく、一人ひとりが考える。個人~職場~部門~会社~社会というように枠を広げてめざす姿を考えることで、今の仕事をどのように変えていくことが顧客価値を高めることなのか、がイメージできるようになっていきます。

 

(1)未来について語り合う

自分と仕事に向き合いながら、グループで個人のビジョンを考えてみます。仕事を通して成し得たいこと、この仕事、職場でどんな価値を提供していきたいか、などをあらためて考えてみる。さらに自分の部門や事業に枠を広げて、どうなりたいのかを考えてみます。

(2)今あるビジョンと自分のビジョンを重ねる

次に、すでに出されている会社のビジョンは“どんな意図や意味を持っているのか”を突き詰めていくことで、自分たちの役割や具体的な目標が見えてきます。与えられたビジョンをひも解き、自分が考えたこととつなぎ合わせていくことで、単なるスローガンだった言葉にも意味が生まれ、ビジョンが自分事になっていきます。

このような“一緒に考える”ことの積み重ねによって、自分たちでこの仕事や組織をどうしていきたいかというチームとしての意思が生まれ、当事者意識を持って仕事を見直していけるメンバーも増えていきます。

まずは、仕事の意味や価値、めざす姿をしっかり腹に落とすことで視野を広げた「人のつながり」をつくること。価値創造としての仕事は、この基盤の上に展開されていくのです。

▼参考事例
持続する風土改革の軌跡

次回の後編では、「本流、支流の仕事の流れを見直す」「つなぎを見直し、強くする」「改善レベルから仕組みへ」の各プロセスをご紹介します。

後編はこちら