〈人と行動をつなぐ技術〉<br/>無意識のうちに行動を制約する「悪玉プログラム」|コラム|スコラ・コンサルト
〈人と行動をつなぐ技術〉<br/>無意識のうちに行動を制約する「悪玉プログラム」

〈人と行動をつなぐ技術〉
無意識のうちに行動を制約する「悪玉プログラム」

三好 博幸 | 2019.12.13

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〈人と行動をつなぐ技術〉<br/>無意識のうちに行動を制約する「悪玉プログラム」

前回の「自ら動く『当事者』を増やすには」に続いて、今回は、潜在的な当事者の行動に影響を与えている「組織の判断・行動パターン(=行動プログラム)」について取り上げてみたいと思います。


時代環境が変わると「悪玉化」する古いプログラム



企業に属する個人は、日々の仕事の生活を通じて無意識のうちに、その組織特有の「行動プログラム」(判断基準や行動パターン)を身につけることで組織の一員になっていきます。この行動プログラムは本来、組織を動かすうえで必要であるがゆえに習慣化し、定式化された文化でもあります。

しかし、経営環境の変化や、組織のめざす目的が変わることによって、今までは良しとされた行動プログラムが「悪玉化」し、実態や目的にそぐわない、あるいは逆に組織進化の足を引っ張る、などの弊害が生じるようになります。これを私は「悪玉行動プログラム」と呼んでいます。

悪玉化した行動プログラムが個人の行動やパフォーマンスにどのような悪影響を及ぼすか、実際にあった事例を紹介します。

スタッフ部門のSさんは、業務革新に向けたある施策の全社展開を検討するよう部長から指示を受けました。
その施策は自分にとっても目新しいもので中身がよくわからないうえ、なぜ部長がその展開を指示してきたのか背景もよくわかりませんでした。とりあえずSさんは施策についての情報を集めながら、部長の意図をあれこれ推測し、当たりをつけて仕事を進めることにしました。

展開現場である支店に施策についての意見聴取をしてみたところ、「なんのためにそれをするのか?」という質問が数多く寄せられ、推測にもとづくSさんの回答では理解を示してもらえませんでした。このままでは施策が進まないとSさんは思い、意を決して部長に、指示の背景や意図をもう一度よく確認することにしました。指示を受けてから、すでに2カ月が過ぎようとしていました。

Sさんには「一を聞いて十を知るのが有能」という悪玉行動プログラムが働いていました。上司の簡潔な(あるいは大雑把すぎる)指示を受けるだけで、残り9割は自分で推測して動く。上司の腹を読める社員が優秀であるという常識、暗黙の価値観が組織には定着していたのです。指示された「一(いち)」のこと以外について上司に聞き返そうものなら、「できないヤツ」と思われて評価が下がるという不安から、確認したいことがあっても部長に聞くことができなかったのです。

それがSさんの足かせとなり、部長に直接確認すれば10分で済んだことを、自分一人で頭を悩ませながら推測を重ね、結果として2カ月ものタイムロスを生んでしまいました。

「一を聞いて十を知る」という言葉自体は決して悪い意味ではありません。しかし、この事例のように、定着している行動プログラムが仕事の目的の問い返しと確認を躊躇させ、ムダな時間と労力を生み出す悪玉行動プログラムとして働いてしまうケースが現実には多々あるのです。


「悪玉」を「善玉」に転換するスイッチワード


何が悪玉行動プログラムになっているのかは、組織によってまちまちです。したがって、組織の全員が協力して、自分たちの身につけた悪しき常識である悪玉行動プログラムを書き換える必要があります。自分たちが何をめざし、それを実現するためにはどういう思考や行動が必要なのか。新しい時代の環境や感覚に合った思考・行動様式を組織のメンバー全員で共有し、定着させるのが「善玉行動プログラム」です。

善玉行動プログラムを新たに習得していく時、カギになるのが「スイッチワード」です。

ある商社の法務部では、契約書のチェックを主業務とする従来の役割から脱し、法的知見をもってビジネスに参画する、より経営に踏み込んだ戦略的な役割への転換をめざしていました。

しかし、実際の仕事には、チェックマンとしてミスを許さない合理的で厳格なやり方が染みついていて、「100点でなければ、上司に仕事を上げてはならない」という暗黙のプログラムが動いていました。一方で、この「100点主義」が担当者レベルで、仕事が完璧になるまでの抱え込みや、直属上司との間での手戻りなどで非効率を生み、また、従来の枠を超えた新しい案件に対して柔軟に対応できないといった状況をつくり出していました。

そこで、部課長たちが話し合い、担当者レベルで6割できていれば後は上司と相談しながら100点に近づけていくという「60点主義」にマネジメントと仕事のやり方を変えることにしました。また、営業と一緒に、世界の最前線のビジネスシーンで臨機応変に対応できるようになるため、“法という武器を持ったビジネスマン”になるというビジョンを設定しました。そして、それに向けてのチャレンジを奨励するため、「やってみなはれ」という言葉をスイッチワードとして取り入れました。

部課長たちは日々の業務の中で、ことあるごとに「60点で良いから持ってこい」「われわれは法を武器にしたビジネスマンだ」「やってみなはれ!でやってみろ」と口癖のように言い、自ら実践しました。その結果、次第に担当者間にもこれらのスイッチワードが浸透していき、それが行動の変化にも表れるようになったのです。

このように、個人のチャレンジングな行動を抑制している悪玉行動プログラムは、善玉行動プログラムに書き換えることができます。
近年こうしたプログラムに関して、最新の経営学の領域でも「ルーティン」や「シンプル・ルール」といった概念で取り上げられ始めています。しかしながら、現実の組織で「どうやって悪玉から善玉に転換させるのか」という点については、ここでご紹介する実践を通じた知見のほかにはあまり見受けられません。

その出発点は、まず自分たちがどういう組織をめざしているか、そのためには一人ひとりにどういう行動が必要なのかをメンバーで共有すること。それとあわせて、個人の主体的な行動を妨げる悪玉行動プログラムがないかどうか、皆で一緒に総点検をしてみることが大事なのです。


(本コラムはプロセスデザイナーの著書から転載・編集したものです)
『組織をつくる技術』(三好博幸著)より
http://a04.hm-f.jp/cc.php?t=M1138794&c=44688&d=27f4

著者プロフィール

三好 博幸

三好 博幸

HIROYUKI MIYOSHI

体質問題を、「風土・体質=組織のソフトウェア」という観点から構造化し、大組織の変革をシステマティックに展開していくアプローチの開発に取り組む。

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