哲学的問い「我々はどこから来たのか/何者か/どこへ行くのか」

大手企業A社の開発部門でのことです。企業を取りまく環境について、ワークショップで検討している時にB部長がボソッとつぶやきました。

「よくよく考えてみると、うちの事業は今の社会から必要とされているのでしょうか。何のために存在しているのかわからなくなってきました…」

日常業務のあわただしさを離れ、ワークショップで、深く思考を掘り下げていくと、このような「苦い気づき」に出くわすことがよくあります。

 

「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」
(Where do we come from? What are we? Where are we going?)

これらの問いを探究するのが「哲学」であるとすると、B部長のつぶやきは、まさに企業にとっての「哲学的問い」です。

 

私は、事業戦略を策定するプロセスの中で、このような「哲学的問い」に対して正面から向き合い探求していくことが、今後ますます重要になると考えています。

ここでいう事業の「哲学」は、経営理念やミッションなどの全社的で抽象的なコンセプトや、経営者の姿勢・考え方などの「経営哲学」とは違って、個々の事業について具体的に「我々はどこから来たのか/何者か/どこへ行くのか」を探究していくものです。

事業の「哲学」が必要な理由

なぜ今、事業の「哲学」が必要なのでしょうか。

ひとつには、今の時代に求められる非常に高いレベルの価値創造を可能にするためです。価値創造のためには、小手先ではなく、人間のポテンシャル、創造能力をフルに発揮しなければなりません。そのためには「全身全霊でその事業に向き合う理由」をしっかりと自分自身のなかに持っている必要があるのです。つまり「哲学」が必要なのです。

二つ目の理由は、価値創造を競い合うライバルのプレイヤーたちとの違いを生み出せるかどうかが、今後ますます重要になってくるからです。本当に優位性となるユニークさを生みだす源泉は、その企業らしさ、独自のものの見方や考え方の中にあります。一定のフレームワークにもとづいて分析的に書式を埋めていく「机上の作業」だけでは、「哲学的問い」を通して得られる、前に述べたような価値創造の源泉となる人と組織の能力、事業としてのユニークさや競争優位性をつかみ損なってしまうのです。

「哲学的問い」を探究するための「源泉思考」

A社のこれまでの戦略計画や中期経営計画などの資料を見せてもらいましたが、体裁はきれいにまとまっているものの、未来を創造し、新たな市場をつくり出していくのだという迫力に欠け、ビジネスとして成功していく姿を思い描けないものでした。それは、顧客に対する新たな価値の世界を切り拓いていく、という戦略の本来の役割に照らして致命的であるように思えました。

前に述べたような「哲学的問い」を探究するには、通常の分析的な思考とは異なり、ものごとの本質である「源泉(ソース)」に迫るような思考のしかたをトレーニングする必要があります。
私は、それを「源泉思考」と呼んでいます。

たとえば私たちは、その鍛え方として、事業ビジョン、競争優位性、顧客価値などについて、単にそのテーマについて考えるだけではなく、「哲学的問い」のレベルまで掘り下げて考えるような議論をしています。
そのことを通して、事業ビジョンの源泉、競争優位性の源泉、顧客価値の源泉など、自らの事業を成功に導くための本質的な洞察を得ることができます。

その洞察にもとづいて、実現したいユニークさ、必要な組織能力、事業のポジショニングなどを設計、構築することで、事業戦略は真に価値を生み出すものとなるのです。