会社が儲かっていないとすれば

大野さんは「モウケルとモウカルは違うぞ」というのが口ぐせでした。

当時、私がサラリーマンの時分には、この話を聞いても「モウケル」も「モウカル」も同じではないかと感じる程度で、また大野さんが同じことを言っているな、と聞き流していました。しかし、コンサルティングの仕事に就いていろいろな会社と接するようになると、この言葉のもつ意味が理解できるようになりました。

もし、あなたの会社が儲かっていないとすれば、それは「モウケル」活動には一生懸命取り組んでいるが、「モウカル」活動はしていないからなのです。

わかりやすい例で説明しましょう。
「利益」は「売価」から「原価」を引いたものです。したがって、利益を出す(モウカル)ためには原価低減が求められます。一方、「売価」は企業の意思には関係なく、市場のニーズで決まります。もしもA社が原価を200円下げたとして、では200円儲かるのかといえば、その保証はありません。競争相手のB社は原価を300円下げて、市場での売価が200円下がることになれば、B社はそれでも100円は儲かりますが、A社の儲けはゼロです。

つまり、企業が「モウカル」とは、競争相手に「勝ったぶん」だけが確実にモウカルということです。A社の200円の原価低減は企業として「モウケル」活動ではあったとしても、確実に「モウカル」活動にはなり得ていません。

「ありたい姿」に向かっての勝つための活動こそが「モウカル」活動

1990年代、インターネット時代の到来とともに、各社の購買部は一斉に、世界で最も安く品質の良い製品をネット上で比較して購入する「世界最適購買」を始めました。この取り組みは経営戦略テーマとして話題になったものです。
しかし、数年のうちに話題性を失いました。なぜかといえば、どの企業も同一条件で、世界一安く品質の良い製品が手に入るとするなら、この購買手法は、原価を下げて「モウケル」手法にはなっても、競争相手に勝つ「モウカル」手法にはなり得ないわけです。同様のことは「ベストプラクティス」についても言えるでしょう。競争相手がすべて同じベストプラクティスを導入したなら、自社の優位性にはなり得ません。

日本企業の特性として(日本の民族特性によると思われますが)、年度目標値に対しては全社を挙げて「必達」で頑張る、という傾向があります。目標はあくまで「目標値必達」です。
しかし、その目標値は業界横並びの値であり、「勝つ値」にはなっていないのが一般的です。目標値は「よりよくする」値であって、必ずしも「勝つ」値にはなっていないのです。

「勝つ」とは、今までの業界常識を変える、「ありたい姿」に向かってチャレンジする活動を指します。「よりよくする」活動は「モウケル」活動であり、「ありたい姿」に向かっての勝つための活動こそが「モウカル」活動なのです。
これが私の大野さんから教えられた「モウケル」と「モウカル」の違いです。

では、いかにして勝つかについては、このたび拙著『超トヨタ式「絶対不可能」を可能にする経営』にまとめました。ぜひ参考にしていただけたらと思います。

『超トヨタ式「絶対不可能」を可能にする経営』