日本企業のダイナミック・ケイパビリティと組織開発の未来を考える|スコラ・コンサルト

3 企業ぐるみのダイナミックな競争力は厳しい環境の中で鍛えられてきた

三好:もともと日本の企業というのは、そういうダイナミック・ケイパビリティのような能力を持っていたということですね。

菊澤:そうですね。なぜそういう柔らかさができたかというと、戦後の日米貿易摩擦の歴史が関係していると思います。1960年代以降の昭和時代、繊維産業に始まって、日本は何度も米国からものすごい改善要求の条件を突きつけられてきました。それをことごとくクリアしていく過程で、日本企業はすごく鍛えられたなという気がします。そしてよく見ると、その後の平成時代も予想外の大災害がいろいろと起こっていて、そのたびに日本企業はみんなで頑張って乗り越えてきた。そういった厳しい環境変化に柔軟に対応できた理由の一つは、日本の企業組織の柔らかさにあったんじゃないかと思います。

三好:確かにトヨタ生産方式が確立したのが1960年から1970年ぐらいと言われていますし、日本的経営の三種の神器も1970年代ぐらいに確立したというのが定説になっていますね。その背景には、ドルショックやオイルショックがあった。ホンダがアメリカ市場で排ガス規制をいち早くクリアしたCVCCエンジンの話も、厳しい条件下で知恵を絞りながら対応してきた事例です。
1960年から1970年代は、日本企業のそれぞれが自社の強みを生かした勝ちパターンみたいなものをしっかりと確立してきて、それが花開いたのが1980年代ですね。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれて、日本企業が世界から注目を浴びた黄金期でした。そこでは、今でいうダイナミック・ケイパビリティのような能力が発揮されていたはずです。それが、その後の日本企業の通常能力、オーディナリー・ケイパビリティを押し上げる基礎にもつながったんだと思います。

菊澤:ダイナミック・ケイパビリティ論によると、企業には2つの能力があります。一つは既存事業を効率的、効果的に回していく通常能力であり、それは今言われたオーディナリー・ケイパビリティと呼ばれています。ROEとか利益率とかいった指標をもとに無駄をなくす能力ですね。それゆえ、技能適合力とも呼ばれています。そして、もう一つが環境の変化に合わせて企業自身を変化させ、再構築(再編)していくダイナミック・ケイパビリティです。これは、進化適合力とも呼ばれています。
ティースは、オーディナリー・ケイパビリティについては「ある物事を正しく行なう」こと、ダイナミック・ケイパビリティは「正しいことを行なう」ことだと言っています。ダイナミック・ケイパビリティは、付加価値を高めて売上高を増やしていこうという考え方なんです。利益率や効率性ではなく、生産性つまり付加価値労働生産性を高める能力なんです。

三好:失われた30年の間に日本企業に浸透してきたアメリカ流の株主重視主義経営でも、最も求められたのは利益率ですよね。利益率を高めようというのは、売上が上がらないとするとコストをいかに下げるか、ということ。コスト削減ですね。バブル崩壊以降はだいたいどの企業もコスト削減に邁進したわけですが、一番安易な、簡単なやり方と言えなくもありません。

菊澤:そういうことですね。コストを下げるというのは、対象が人件費と設備の減価償却費が中心ですから比較的簡単ですね。でも逆にいえば、安い労働力を使い、新規の設備投資をしないということですから、生産性は伸びません。付加価値を生むためには、人件費が高くても本当にいい人を雇って、最新の機械を入れて、投資を上回る売上を上げるという発想をしないと無理ですね。
なぜ付加価値や売上ではなく利益率とかコスト削減に目が向くのかというと、もちろん外国人株主の増加にも関係していますが、日本の企業のまずい点として経営者の能力の問題もあります。普通の経験しかしていない人が経営者になると付加価値や売上を伸ばすのは難しいと思います。そのためには、イノベーションが必要ですし、ある意味で運も必要になります。それゆえ、経営者は確実に実行可能なコスト削減に注力してしまいがちです。でも、不確実な世界では、確実なことをしても意味がありません。常にあえて挑戦する人じゃないと、企業はうまくいかないのです。

4 階層を超えた連携によって発揮される組織の変革能力

三好:特に感じるのは、今、役員、経営層になっている人は、部長とか課長時代がまさにバブル崩壊後の失われた20年、30年で、コスト削減の下で過ごしてきている。そのまま経営層になっていて、新しい付加価値を生み出す経験をしていないことが大きいように思います。
これにも関わる話ですが、ダイナミック・ケイパビリティって、経営者の能力なんだという見方と、そうじゃなくて組織が持っている能力なんだという見方がありますが、菊澤さんはどうお考えですか? 

菊澤:ダイナミック・ケイパビリティの創始者であるデイビット・ティースに直接聞いたことがあるのですが、彼は両方だと言っていました。前に述べた3つの能力の中のセンシング(感知)に注目すると、その意味がわかります。つまり、トップがいち早く環境の変化を感知する場合もあるけど、ミドルや現場がいち早く環境の変化を感知する場合もあるんです。それゆえ、組織の能力でもあるといえますね。

三好:私も経営者の能力と組織の能力、両方あると思っています。ビジネスの環境変化があって、ある会社がダイナミック・ケイパビリティで1.0から2.0に変わろうというとき、何を変えるかといえば、ビジネスモデルや戦略、ビジネスエコシステムとか、当然、組織構造や業務プロセスも変えていく。あるいは、われわれは組織文化、組織OSと言っていますけど、そこも含めてトータルに変えていく力がダイナミック・ケイパビリティだと思います。
環境の変化を察知してビジネスモデルや戦略を大きく変えるような場合、経営者の能力が大きいと思うのですが、一方で、こういうふうに変えましょうと部課長から提案するケースも大いにありえますね。やはり経営者だけでは手が届かない、変わっていかない例も多く見てきているので、現場の組織が自ら変えていく力を持っていないと企業は大きく変わらないですね。たぶん、社内でそういう現場の情報がちゃんと上に上がるとか、経営層がそれをしっかり受け止めるというのも、一つの能力ですね。 

菊澤:そうだと思いますね。現場の感覚で下が変化に気づいて、上はそれを上手にキャッチできるかどうかですよね。よく誤解があって、危機の時代ほど強いリーダーが必要とかいわれるのですが、これは逆に失敗しますね。たとえば、危機的状況下の戦場では、最前線で戦況が刻々変わるので、大本営がいくら頑張って上から命令しても無理なんです。対応できません。

三好:旧日本軍の戦略についてもご専門でしたね。

菊澤:ダイナミック・ケイパビリティを発揮して大転換を遂げた富士フイルムもそうですが、決して社長が事細かにこれをやれと言ったわけじゃなくて、大まかな方針を示して、むしろ下からアイデアを全部出させ、ちょっとでも成功したらそこに投資する、という作戦だったと思います。持っているリソースを使って、ちょっとでも芽があればなんでもやってみようという発想ですよね。だからこそ化粧品が出てきたと思います。「コラーゲンの知識を応用すればできそうです」という提案が下からあって、それにトップが「いいね」と価値判断してGOを出した。そういうところが、ある意味で日本的だと思います。

三好:そうですね。そういう意味で日本企業というのは、現場組織のダイナミック・ケイパビリティがすごく強い。欧米型の、特にアメリカの企業なんかだとトップのダイナミック・ケイパビリティが強い。

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