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麦芽の汁だけではビールはできない
 先日、私が関わっている企業のマネージャーの方から、担当する部署のチームワークづくりのお手伝いを依頼された。昔に比べて、今の人たちは協力して仕事をすることが減ってきた。もっと協力して仕事をするとムダも減って、効率よく、仕事も楽しくできるのではないか、というのだ。
 職場でも席を並べるメンバー同士の会話はメールのみ、部署のミーティングでは黙って話を聞いているだけ、自分が話しかけると二言三言は返事をしてくれるのだが、今ひとつ何を考えているのかわからない…と続く。

 最近はこの種の依頼がけっこう増えてきている。こういう場合は、まずお互いがざっくばらんに話し合えるようにするためにオフサイトミーティングを活用する。
 本音で語り合うことができれば信頼関係が生まれる。お互いの特徴を理解できれば、知らず知らずのうちに貼ってしまっていた互いに対するレッテルもはがれやすくなる。誰かが問題だと感じていることも、一緒に解決しようという気持ちになってくる。
しかし、それだけでは「チーム力」には結びついていかない。

 最近は、仕事の内容が高度化されており、個々の担当者がその道のプロであることが多い。裏を返せば、お互いに自分の業務の領域以外のことは、あまりよくわからないのだ。マネジャーにとっても実は、専門化して細分化されている担当者をまとめるというのは、まったく未知の体験に近い。そういう状態の中で、職場の「チーム力」を上げていくには、どうしたらいいだろうか?

 私は先日、ビールづくり体験会に参加してきた。実際にやってみて、ビールづくりはメンバーの内発的動機を促し、「チーム力」を上げるマネジメントに非常に似ていると感じた。

 たとえて言うなら、

麦芽を煮て(本音の語り合いの場に参加)、
  甘い麦芽の汁(信頼関係の芽ばえた職場)をつくり、
  酵母(今までの発想だと少しハードルの高い課題)を加えて、
  発酵を待つ(メンバーは困った状態を打破するために意見を出し合い、じっくり考えて日常の業務の中で何かをやってみる)と、
  ビール(新たなチームの状態)ができる。
 
 麦芽の汁だけではビールはできない。また、発酵を促進しようとして混ぜすぎても、うまくビールにならない。そればかりではなく、使う麦やホップの量によって、できるビールの味は変わる。原料の産地によっても違ってくる。状態を見ながら、しっかりと温度管理をしなければ発酵は進んでいかない。

 組織や職場が“チーム”として発酵するために大切なのは、メンバー同士が対話を通じて“チームのありたい状態”(場合によっては行動規範、仕事のしかたなど)を模索すること。そして、「これだ」と思う姿が議論の中から見いだせたら、その姿に向かって、まずは行動してみる、ということだ。
 そのためにはマネジャーも、チームの完成形の姿をその先に描きながら、じっくりと見守る必要がある。マネジャーは、話し合うことの意味を伝え、自分の本気度を見せて、エネルギーを喚起するために方向性を提示する。メンバーが十分に議論のできる時間を確保し、出席を促し、話し合った内容に報告の義務はないことを伝える、などの条件整備が必要になってくる。
 「困ったことがあればいつでも相談に乗るよ」というような言葉をかけておくことで、メンバーの安心感も引き出せる。
 つい、「危なっかしい、もどかしい」と先回りしては手を差し伸べていると、いつまでたってもメンバーは本当の力を発揮できない。

 さまざまな材料が本来もつ個性や力が最大限に引き出されなければ、美味しいビールにはならないのである。
プロセスデザイナー 井上由美子




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