Will Can Mustは、キャリア形成や就職活動、目標設定に用いられる思考のフレームワークです。
このフレームワークとは、「やりたいこと(Will)」「できること(Can)」「すべきこと(Must)」の3つの要素を整理し、自己分析を深めるための手法を指します。

will-can-mustの3つの円が重なる部分を見つけ出すことで、個人は自身のキャリアプランを明確にでき、企業は従業員のモチベーション向上や人材育成に活用可能です。
この記事では、具体的な使い方や立場別の具体例を交えながら、その効果と実践方法を解説します。

INDEX

Will Can Mustフレームワークとは?3つの要素を理解しよう

Will Can Mustフレームワークとは、個人のキャリアを考える上で重要な3つの要素を整理するための思考の枠組みです。
具体的には、本人の意志である「will」、保有するスキルや能力を示す「can」、そして組織から期待される役割や業務を指す「must」から構成されます。
これら3つの要素の意味を正しく理解し、それぞれを書き出して分析することで、自身の現状や目指すべき方向性が明確になります。

自己分析やキャリアプランニングの土台として、多くの企業で活用されている考え方です。

Will:自分が「やりたいこと」

Willは、自身の興味関心、価値観に基づいた「やりたいこと」や「なりたい姿」を指します。
これには、将来のキャリアビジョン、挑戦してみたい仕事内容、あるいはどのような働き方を実現したいかといった、内面から湧き出る希望や情熱が含まれます。
Willを明確にすることは、仕事に対するモチベーションややりがいの源泉となります。

自身の過去の経験を振り返り、どのような瞬間に喜びや充実感を覚えたかを考えることで、大切にしたい価値観や本当に望んでいることが見えてきます。
この要素はキャリアの方向性を定める羅針盤の役割を果たします。

Can:自分が「できること」

Canは、これまでの経験や学習を通じて身につけたスキル、知識、実績など、自分が「できること」を意味します。
これには、資格や専門技術といった明確な能力だけでなく、コミュニケーション能力や課題解決能力のような、職務遂行において発揮されるポータブルスキルも含まれます。

Canを客観的に把握するためには、過去の業務内容や成功体験を具体的に棚卸しすることが有効です。
自身の強みを正確に認識することで、それをどのように仕事に活かせるか、また今後どのような能力を伸ばしていくべきかの判断材料になります。

Must:自分が「すべきこと・求められていること」

Mustは、所属する組織やチーム、あるいは顧客から「すべきこと」として期待されている役割や責任を指します。
具体的には、会社の方針、部署の目標、業務上のミッション、日々の仕事などが該当します。
mustとは、単なる義務や命令ではなく、組織の一員として成果を出すために果たすべき貢献と捉えることができます。

このmustの考え方を正しく理解し、自分に何が求められているかを把握することは、組織内で信頼を得て評価されるための第一歩です。
自身の役割を認識することで、日々の業務に目的意識を持って取り組めるようになります。

なぜWill Can Mustがキャリア形成に役立つのか?

Will Can Mustフレームワークは個人のキャリアプランと企業の成長を結びつける上で多くのメリットを提供します。
このフレームワークを活用する目的は従業員が自身の「やりたいこと」と「できること」を認識しそれを会社の「すべきこと」と重ね合わせることで仕事へのエンゲージメントを高める点にあります。

このプロセスを通じて個人は自律的なキャリアを築き企業は従業員の能力を最大限に引き出す効果が期待できます。
結果として個人と組織の持続的な成長を両立させることが可能になります。

個人のキャリアプランが明確になる

Will Can Mustの3つの要素を書き出して整理するプロセスは、自己理解を深める絶好の機会です。
自分が何を望み(Will)、何を得意とし(Can)、そして周囲から何を期待されているか(Must)を客観的に見つめ直すことで、現状の自分を正確に把握できます。

これにより、漠然としていた将来のキャリアに対するイメージが具体的になり、次に何をすべきか、どの目標に優先順位をつけるべきかという行動計画を立てやすくなります。
自身の強みや価値観を再認識し、それを軸としたキャリアの方向性を見定めることで、主体的にキャリアを形成していく意識が高まります。

企業が従業員のモチベーションを高められる

企業がWill Can Mustを人材育成の仕組みに導入することで、従業員のモチベーション向上に大きな効果が期待できます。
上司が部下のWill(やりたいこと)やCan(できること)を理解し、それを会社のMust(すべきこと)とすり合わせる機会を設けることで、従業員は自分の仕事に意味や価値を見出しやすくなります。

会社からの一方的な目標設定ではなく、個人の意志が尊重されていると感じることで、業務への当事者意識が芽生えます。
結果として、エンゲージメントが高まり、組織全体の活性化につながるのです。

Will Can Mustを使った自己分析と目標設定の4ステップ

Will-Can-Mustフレームワークは、自己分析と目標設定に役立つ手法です。このフレームワークでは、「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(すべきこと)」の3つの要素に基づいて考えを進めます。 多くの情報源では、このフレームワークを3つのステップで説明していますが、4つまたは5つのステップで解説しているものも存在します。本記事では、まず自身の客観的な状況を把握することから始めるアプローチとして、Can(できること)とMust(すべきこと)を整理し、その上でWill(やりたいこと)を深掘りする手順で解説します。

この手順を踏むことで、理想と現実のバランスを取りながら、実現可能なキャリアプランを具体化していくことができます。ここでは、そのための具体的なステップを解説します。

ステップ1:Can(できること)を客観的に洗い出す

最初のステップでは、自身のCan(できること)を客観的にリストアップします。
これまでの職務経歴やプロジェクト経験を振り返り、どのようなスキルや知識を習得したか、どのような実績を上げたかを具体的に書き出します。
例えば、「データ分析ツールを使って売上予測ができる」「新規顧客を10件開拓した」といった事実ベースで記述することが重要です。

また、自分では気づきにくい強みもあるため、同僚や上司からのフィードバックを参考にすることも有効です。
事実から始めることで、自己分析がスムーズに進みます。

ステップ2:Must(すべきこと)を正確に把握する

次に、Must(すべきこと)を正確に把握します。
これには、会社全体の経営方針、所属部署のミッション、チーム内での自分の役割、そして上司から与えられている目標などが含まれます。
組織が自分に何を期待しているのかを正しく理解することが、このステップの目的です。
就業規則や評価シートを確認したり、上司との面談で自身の役割について改めて確認したりすることも有効な手段です。

Mustを明確にすることで、自分の業務が組織のどの部分に貢献しているのかを認識でき、仕事の意義を見出しやすくなります。

ステップ3:Will(やりたいこと)を深掘りして見つける

CanとMustを整理した上で、Will(やりたいこと)を深掘りします。
これまでの経験(Can)と現在の役割(Must)を踏まえ、「将来どのような専門性を身につけたいか」「どんな仕事で周囲に貢献したいか」「どのようなキャリアを築きたいか」を自問自答します。
すぐに見つからない場合は、「少しでも興味があること」や「楽しいと感じた業務」から考えてみるのがよい方法です。

憧れのロールモデルを参考にしたり、Canをさらに伸ばした先にある姿を想像したりすることも、自分のWillを見つけるヒントになります。

ステップ4:3つの要素が重なる領域をキャリアの軸にする

最後に、書き出したWill、Can、Mustの3つの円を描き、それぞれの重なりを確認します。
3つ全てが重なる領域は、自分のやりたいことであり、得意なことであり、かつ組織からも求められている理想的な状態です。

この重なり部分を自身のキャリアの軸として設定し、具体的な目標や行動計画に落とし込みます。
もし重なりが小さい場合は、どうすれば円を大きくしたり、中心を近づけたりできるかを考えます。
この3つの要素のバランスを重視するWill Can Mustのフレームワークを意識することが、充実したキャリアを築く上で重要な視点となります。

【立場別】Will Can Mustシートの書き方具体例

Will Can Mustフレームワークを実践する際には、立場や役職によって各要素の内容が異なります。
ここでは、新入社員・若手社員、中堅社員・リーダー職、管理職の3つの立場別に、Will Can Mustシートの書き方の具体例を紹介します。

それぞれのキャリアステージで求められる役割や課題を反映した例を参考にすることで、自身の状況に合わせた分析がしやすくなります。
テンプレートとして活用し、自己分析や面談の準備に役立てることが可能です。

新入社員・若手社員の場合の記入例

新入社員や若手社員の場合、まだCan(できること)の経験が少ないため、ポテンシャルや学習意欲をアピールすることが重要です。
Must(すべきこと)は、主に与えられた業務を確実に遂行し、基本的なビジネススキルを習得することが中心となります。
Will(やりたいこと)では、将来的に挑戦したい分野を具体的に描きます。

例えば、マーケティング部門であれば、「Will:Web広告運用の企画立案を主導したい」「Can:データ分析の基礎知識、SNS運用経験」「Must:担当製品のSNS投稿作成、広告運用のレポート作成」といった記入例が考えられます。

中堅社員・リーダー職の場合の記入例

中堅社員やリーダー職になると、個人の成果だけでなく、チームへの貢献もMustとして強く求められます。
Canには、培ってきた専門スキルに加え、後輩指導やプロジェクトの推進経験などが含まれるようになります。

Willは、自身の専門性をさらに深めるか、マネジメントの領域に挑戦するかといった、キャリアの方向性を定める内容が中心です。
営業職の例では、「Will:チームの目標達成に貢献できるリーダーになる」「Can:トップセールスとしての営業実績、後輩へのOJT経験」「Must:個人目標の達成、チームメンバーの案件サポート、営業戦略の立案」などが挙げられます。

管理職の場合の記入例

管理職のMustは、担当部門の業績目標達成や組織開発、部下の人材育成といった、より経営的な視点での役割が中心です。
Canには、予算管理、組織マネジメント、部門を横断したプロジェクトの推進経験などが該当します。
Willは、組織のビジョン実現や事業の成長にどう貢献したいかという、より広い視野での目標設定が求められます。

エンジニアの管理職であれば、「Will:技術革新を通じて事業の成長を牽引する組織を作る」「Can:大規模開発のプロジェクトマネジメント経験、エンジニアの採用・育成経験」「Must:開発部門の目標達成、メンバーのキャリア開発支援、次世代技術の導入検討」といった内容になります。

Will Can Mustフレームワークを実践する最適なタイミング

Will Can Mustフレームワークは、キャリアについて考えるあらゆる場面で活用できますが、特に効果を発揮するタイミングがあります。
キャリアの転機や、自身の役割について見つめ直す必要があるときにこのフレームワークを用いることで、思考が整理され、次のアクションが明確になります。

ここでは、Will Can Mustを実践するのに最適な4つのタイミングを紹介します。
これらの機会を捉えて定期的に自己分析を行うことで、キャリアの方向性を主体的にコントロールすることが可能になります。

昇進や異動で役割が変わったとき

昇進や部署異動により役割が変化した際は、Will Can Mustを見直す絶好の機会です。
新しいポジションでは、Must(すべきこと・求められていること)が以前とは大きく異なります。
まずは新しい役割で期待されていることを正確に把握し、それに対して自身のCan(できること)がどの程度通用するのか、また新たに何を身につけるべきかを整理する必要があります。

その上で、新しい環境で挑戦したいWill(やりたいこと)を再設定することで、変化にスムーズに適応し、早期に成果を出すことにつながります。
このフレームワークの活用は、役割の移行を円滑に進める助けとなります。

転職活動や就職活動で自己分析をするとき

転職活動や就職活動における自己分析は、自身のキャリアを棚卸しし、市場価値を客観的に評価する上で不可欠です。
Will Can Mustフレームワークは、この自己分析を体系的に進めるのに非常に有効なツールです。
Can(できること)は職務経歴書や面接でアピールする自身の強みとなり、Will(やりたいこと)は志望動機を明確にする上で役立ちます。

そして、応募先の企業が求める人物像と自身のMust(すべきこと)を照らし合わせることで、企業とのマッチ度を測ることができます。
この分析を通じて、一貫性のある自己PRを構築することが可能になります。

上司との面談や評価フィードバックの前

目標設定や評価に関する上司との面談の前に、Will Can Mustを整理しておくことで、より建設的な対話が実現します。
自身の現状(Can、Must)と今後の希望(Will)を具体的に言語化しておくことで、上司に対して自分の考えを明確に伝えられます。

これにより、上司は的確なフィードバックやアドバイスを提供しやすくなり、キャリアプランの実現に向けたサポートを得やすくなります。
また、自身の振り返りを基に面談に臨むことで、評価に対する納得感も高まり、次期の目標設定を主体的に進めることができます。

定期的にキャリアプランを見直したいとき

特定のライフイベントやキャリアの転機がなくても、定期的に自身のキャリアプランを見直すことは重要です。
例えば、半期に一度や年に一度など、期間を決めてWill Can Mustを更新する習慣を持つことが推奨されます。
ビジネス環境や組織の状況、そして自分自身の価値観やスキルは常に変化するものです。

定期的な見直しを行うことで、これらの変化を捉え、キャリアの軌道修正を柔軟に行うことができます。
長期的な視点で自身の成長を捉えるこの考え方は、持続可能なキャリアを築く上で不可欠です。

企業がWill Can Mustを導入し組織を活性化させる方法

Will Can Mustのフレームワークは、もともとリクルート社発の考え方として知られており、個人のキャリア自律を支援するだけでなく、企業が組織全体を活性化させるための強力なツールにもなり得ます。
従業員一人ひとりのWill(やりたいこと)を尊重し、それを会社のMust(すべきこと)と結びつける仕組みを構築することで、個人の成長と組織の発展を両立させることが可能です。

ここでは、企業がWill Can Mustを導入し、組織開発に活かすための具体的な方法を3つ紹介します。

1on1ミーティングで対話のテーマにする

定期的に行われる上司と部下の1on1ミーティングは、Will Can Mustを実践する最適な場です。
業務の進捗確認だけでなく、このフレームワークを対話の軸に据えることで、部下のキャリア観や価値観、強みや課題を深く理解できます。

上司は、部下のWill(やりたいこと)やCan(できること)を引き出し、それが会社のMust(すべきこと)とどのように結びつくかを一緒に考える役割を担います。
このような対話を通じて、部下は仕事の意義を再認識し、エンゲージメントを高めることにつながるため、1on1の質が向上します。

キャリアデザイン研修のプログラムに組み込む

従業員が自身のキャリアについて主体的に考える機会を提供するために、キャリアデザイン研修は非常に有効です。
この研修プログラムの中に、Will Can Mustのワークショップを組み込むことで、参加者は自己分析を体系的に進め、具体的なキャリアプランを描くことができます。

個人で考えるだけでなく、グループワークで他者と共有する時間も設けることで、多様な価値観に触れ、自身のキャリアを客観視するきっかけとなります。
研修を通じて、従業員のキャリア自律意識を醸成し、組織全体の成長意欲を高めます。

目標管理制度(MBO)と連動させて評価に活用する

多くの企業で導入されている目標管理制度(MBO)にWill Can Mustの考え方を組み込むことで、より効果的な運用が可能です。

従来のMBOがMust(組織目標)の達成度を評価の中心に置きがちだったのに対し、目標設定の段階で本人のWill(やりたいこと)を反映させることが重要です。
WillとMustの重なりを意識した目標は、従業員の納得感を高め、主体的な行動を促します。
MustとWillのギャップを埋めるための能力開発(Can)を具体的な目標として設定することで、評価と育成が連動する仕組みを構築できる点が、一般的な目標管理との大きな違いです。

Will Can Mustに関するよくある質問

Will Can Mustフレームワークを実践しようとすると、いくつかの疑問や壁にぶつかることがあります。
「やりたいことが見つからない」「3つの円が重ならない」といった悩みは、多くの人が抱える共通の課題です。

ここでは、will・can・mustに関して頻繁に寄せられる質問とその対処法について解説します。
これらのヒントを参考にすることで、より深く自己分析を進め、フレームワークを効果的に活用することが可能になります。

Will(やりたいこと)が見つからない場合はどうすればいいですか?

Willがすぐに見つからない場合でも、焦る必要はありません。
最初から起業や社会貢献といった壮大な目標を掲げるのではなく、まずは身近な興味や関心から探求することが大切です。
例えば、日々の業務の中で「少し楽しいと感じる作業」や「夢中になれた瞬間」を書き出してみるのが有効です。

また、すぐにWillを見つけようとするのではなく、まずはCanを増やしたり、Mustに真剣に取り組んだりする中で、新たな興味が湧いてくることもあります。
小さな「好き」を積み重ねていくことが、やがて大きなWillにつながります。

3つの円が全く重ならないときはどう考えればいいですか?

分析の結果、Will Can Mustの3つの円が全く重ならないこともあり得ます。
これは、現在の仕事や環境が自分に合っていない可能性を示唆しているかもしれません。
しかし、すぐに転職などを決断するのではなく、まずは状況を改善する方法を探ることが重要です。

例えば、「CanとMust」が重なる領域で実績を積み、組織内での信頼を得ながらWillを探す時間を作る、あるいは「WillとCan」が重なる領域を副業や社内プロジェクトで試し、Mustに繋げられないか模索するといったアプローチが考えられます。
2つの円の重なりから、3つの円が重なる状態を目指していくのが現実的なステップです。

Will Can Mustは古いという意見もありますが、今でも有効ですか?

Will Can Mustフレームワークは提唱されてから時間が経過しているため、一部では古いという見方もあります。
しかし、その根底にある「個人の意志」「能力」「組織からの期待」という3つの要素を統合的に考えるアプローチは、現代においても極めて有効です。

終身雇用が前提でなくなり、個人のキャリア自律が強く求められる現代だからこそ、自分自身の価値観(Will)、市場で通用するスキル(Can)、社会や組織からの要請(Must)を定期的に見つめ直し、バランスを取ることの重要性はむしろ高まっています。
時代に合わせて各要素の解釈を柔軟に変えながら活用することが求められます。

まとめ

Will Can Mustフレームワークは、「やりたいこと(Will)」「できること(Can)」「すべきこと(Must)」という3つの視点から自己分析を行い、キャリアプランを具体化するための有効なツールです。
この3つの要素の重なりを見つけることで、個人はやりがいを感じながら高いパフォーマンスを発揮できる仕事を見出すことができ、企業は従業員のエンゲージメントを高め、組織全体の成長を促せます。

昇進や転職といったキャリアの節目だけでなく、定期的にこのフレームワークを用いて自己を見つめ直すことで、変化の激しい時代においても主体的で持続可能なキャリアを築くことが可能となります。