この十数年の常識を覆す環境変化で、企業成長の条件も大きく変わりました。
不確実性が高い時代には、個性を発揮し、主体的に行動する人が求められます。
その一方で、個人が仕事に向き合う姿勢はさまざまであり、「静かな退職」モードで働くことも一つの選択です。昔のように、外側から強制的に意欲や主体性を引き出すことはできなくなりました。
こういう時代であるからこそ、あらためて“組織の環境”の重要性が高まっています。つまり、良い組織環境をつくることで、自然とそこにいる人たちの意欲や主体性が高まっていくというカルチャーの構築が経営の重要課題になってきたのです。
90年代の終わり、まだ若手だった頃の自分自身をふり返ると、仕事の中で熱意や主体性のスイッチが入る瞬間がいくつかあったことを思い出します。それは意外と単純なもので、上司や同僚にほめられる、励まされる、あるいは飲み会を通じて同僚と親しくなる、といったことでした。
かつては、組織の価値観や目標に自分を重ね、組織に同化することが熱意を高めることにつながりました。組織の一員として認められ、期待に応え、仲間と同じ方向を向いているという実感が、承認や誇りになっていたのです。
しかし、今の時代に組織への同化といえば、個性を失うこと、組織のために個人の時間を犠牲にすることとトレードオフの関係で受け止められるようになっています。ほめられれば嬉しいという人の感情は今も変わりませんが、それだけで仕事への熱意や主体性が高まるかというと、以前ほど単純ではありません。
「静かな退職」が進む昨今の状況下で、働く人の熱意や主体性のスイッチは、より見つけにくくなり、個人の内面深くに潜り込んでいます。見えにくくなったことで“熱意や主体性がなくなった”と思いがちですが、実は一人ひとりの「個性」の奥深くで眠っている、というのが実態だと思います。
だからこそ、組織がまず重視すべきなのは、個人が“ありのままの自分でいられる”環境です。組織の中で、日々の仕事の中で、自分らしくいられることを実感できる環境は、人間の本性に響く心地よい体験(=快体験)になります。そうした体験を積み重ねていくことが、自ずと熱意や主体性にスイッチが入るための第一歩なのです。
私はこれからの組織の活力や創造性のカギは、この無意識に腹に落ちていく身体的な心地よさ、「快体験」にあると考えています。