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ホワイトカラー職場の改善は「ただちに」着手できて「瞬時に」効果が出る!?

製造職場で改善といえば、その場で手順を変えるなどの改善もありますが、動きのムダを減らすために部品の置き場を変えて新たに棚を設置したり、生産設備や装置を移動したりと大がかりなものになり、時間も費用もかかります。
それに対して、ホワイトカラー職場の仕事は知的生産、頭脳労働ですから、身体ひとつですぐに改善に着手でき、効果もすぐに現れます。

たとえば、「上司が会議の質問対策として部下に大量の資料を準備させている」というムダは、上司が「後で調べて答えるようにする」と決めれば、その瞬間から無くすことができます。

「上司の機嫌に左右されて報告や相談のタイミングが遅れる」などの停滞のムダも、上司自身が自分に原因があると自覚すれば、すぐに解決できます。

改善の立場からいえば、これらは個人が「やめる」「修正する」レベルであっけなく済んでしまう簡単なことです。
ところが現実にそれが難しいのは、長年にわたって暗に共有されてきた組織の習わしや不文律などが仕事の形式にしっかりと組み込まれているからでしょう。

こうした日常業務の背後にある“意味の作用”も含めて扱うことが、ホワイトカラー職場の改善のポイントになります。

業務の「ムダ取り」改善の進め方

実際どのようにして改善を進めていくのか、大まかな手順をご紹介しましょう。
改善メンバーは、課長やリーダークラス(推進責任者)と、実務担当者です。
(改善テーマによって改善メンバーは変わり、部長や役員クラスが入ることもあります)。

(1)「改善の目的」と「改善後の状態」を確認する

多忙な仕事の時間を割いて改善の時間を取り、それを実質的な取り組みにしていくためには、メンバーが “その気になる”ことが大事です。
「なぜ、何のために改善をするのか」という活動の目的と、「改善をしたら自分たちはどう変わるのか」という日常業務や働き方の変化について納得するまで話し合い、共有します。

(2)「ムダ」の共通認識と判断基準を共有する

ムダを見つけるためには「ムダを見る目(判断基準)」が必要です。
価値を生まず原価を増やす仕事を「動き」と定義し、まずは日頃からムダと感じている事象や作業を手始めに、思い当たるものを具体的に挙げていきます。
コラム前編で紹介した『図表2:間接部門にみる「動き」(原価を増やすムダ)の例』などを参考にしながら、自分たちの職場の実態に照らしてムダを取り上げ、話し合って腹に落としていきます。

図表2:間接部門にみる「動き」(原価を増やすムダ)の例

(3)「業務」を可視化する

朝礼やメール作成、会議、資料作成、打合せ、電話、移動、中断、待ち・・などに関わる個々の所要時間を記録し、一日のうちで各業務が何割ぐらいだったかを集計して可視化します。
ムダの有無や量を把握、共有して改善を進めやすくするためです。

集計の際には、各業務の目的や理由などもあわせて記入します。
所要時間の記録は、5分単位、10分単位ぐらいを目安にします。
ちなみに製造職場は秒単位です。
最近ではスマホのアプリなど便利な測定・分析ツールもありますが、最初は手づくりシートに記入する方法で十分でしょう。

ここまでは、知的生産職場ではその気になれば簡単にできます。
しかし、単に記録しただけではそれ以上に改善は進まないでしょう。
多くのホワイトカラー職場はここで失敗しています。

(4)可視化されたデータをもとに「ムダ」を特定する

測定・分析結果をみんなで見ながら、ムダの判断基準をもとに「ムダ」を特定します。
そして、「最適な流れ、進め方はどうか」を考えることでムダを実感しながら、「なぜそのムダが発生するのか」原因について話し合います。

(5)「だれいつリスト」で進捗を管理する

ムダを確定し、その原因が見えてきたら、具体的な対策としての改善案を出し合います。
そして、その改善策ごとに「だれが」「いつまでに」「何をするか」を決め、リスト化して進捗が見えるようにします。
リストで全体の進捗を見ながら、改善が遅れている部分には協力し合います。

ムダを見る目を曇らせる「思い込み」の壁

ホワイトカラー職場は、頭脳労働の知的生産職場と言われます。
その性格ゆえに、製造職場などに比べると「ムダ」に対する意識は薄いようです。
前に取り上げた、上司の都合による手間や手待ちのような「保険仕事」も、間接部門の人間にとっては長年の慣行にのっとったものであり、“必要悪であってもムダではない”のです。

ホワイトカラー職場の改善では、このような「常識」が大きな壁になって立ちはだかります。
これを温存したまま業務の効率化だけを進めても、「動き」が良くなるばかりで「働き率」は高まりません。
言い換えれば、“常識に由来するムダ”を見る目を育てることが改善の重要なポイントになると言えます。

もうひとつ、改善に取り組もうというとき、必ずと言っていいほど出てくる反応があります。
「今の業務の中からムダを可視化して改善しましょう」と提案すると、「ムダと指摘された従業員のモチベーションが下がってしまい、業務改善を進めようとしても協力を得られなくなる」と、心配して尻込みする管理職が多いのです。

しかし、それは勘違いです。
組織の上下関係構造から生まれるムダは“上位者”のマネジメントのあり方を変えることがレバレッジポイントになります。
改善のすすめは、ムダな動きをしている従業員を問題視するものではなく、部下にムダな動きをさせる原因となっている上司に向けたものなのです。

目に見えない思い込みに根差しているムダを直視し、それが改善の常識においては「働き」ではなく「動き」であると理解すること。
そのうえで、あらためて日常の業務を「組織のルール」や「上司・部下の関係」で捉えるのではなく、「生産の流れ(最適な働きの連鎖)」として見直してみること。
それが「働き率」を高めるムダ取りの基本姿勢です。

〈働き率100〉をめざし、改善の壁を越えるための条件をつくる

仕事に占める「働き」の割合を高め、限りなく100%に近づけていこうというのが〈働き率100〉の考え方です。
この場合の〈働き率100〉は目標値ではありません。
そこに向かっていく過程で、従来の発想や物事の進め方、仕事の仕方を見直し、付加価値生産性の高いスリムな体質にしていくためのコンセプト(道しるべ)なのです。

間接部門のような知的生産職場の場合、何を付加価値とみなすかはあいまいですが、私は組織風土と事業の変革支援を通じて、たとえば次のような間接部門のあり方に価値を感じています。

◆自分たちで主体的に部門・部署の役割創造をし、「あの会社の○○部は」と対外的な評判も高まることで会社の信頼に寄与している
◆会社全体や前後工程、お客さまを意識してつねに改善・変化することで、接する工程や社内にもいい影響を与えている
◆今だけの成果ではなく長期的視野のもと、会社の将来に資する仕事をしている

日常業務をこのような付加価値の高い(価値生産性の高い)仕事にしていくために、ホワイトカラー職場でもぜひ習慣化したいのがムダ取りなのです。

では、「組織の常識」が組み込まれている日常業務の見直し、ムダ削減は、どのような条件があれば進めやすくなるのでしょうか。

(1)「ムダを見る目」を衆知にする

日常業務の中にある仕事を取り上げて、「何が『動き』(ムダ)か『働き』(意味や価値を高める行為)か」を社内で議論し、広い範囲でムダを見る目を共有します。
「私たちのやっていることをムダだというのか、否定するのか」「暑い中で一生懸命やっている部下がかわいそうだ、やる気がなくなってしまう」といった声が上がって場が紛糾することもあるでしょう。
大いにけっこうです。

なぜなら、現状の是非をめぐって紛糾するような議論がなければ変化はしないし、次に進めないからです。一番まずい失敗ケースは、異論も反論もなく頭だけで理解して本気で変えようとしないことです。
むしろ紛糾するような職場は、ものが言いやすい職場なのです。

(2)ものが言いやすい環境をつくる

違和感があったら異論を唱える、問題だと思ったら「問題ではないですか」と言える環境をつくることが改善を進める上ではとても大切です。

製造職場の組立ラインでは、ムダ(品質不良)や作業遅れが発生しそうになったら、その場の作業者がラインを止めて「問題があります!」とシグナルを出します。
止めた工程ではランプが点灯し、それを見た監督者が飛んできて問題を目で見て確認します。

しかし、ホワイトカラー職場では、仮に「ムダを見る目(判断基準)」を持ったとしても、ムダだと思った人がその時、その場でその業務を止めて、上司に「これはムダではないですか?」とはなかなか言えません。
おそらくしぶしぶ続けるでしょう。

ここに、ホワイトカラー職場のムダが顕在化せず、削減が進まない最大の原因があります。
問題だと思ったら「問題ではないですか」と言いやすい職場をつくることが大切なのです。

ものが言いやすい職場では、言いにくい話もたくさん出てきます。
「私がやっている意味を感じない仕事は、そもそも上司のための保険仕事ではないか」「上流部門の仕事の仕方が雑なために、こんなムダな手間をかけている」「下流部門が何だかんだと理由をつけて仕事を受けてくれない」といった本音の意見によって、問題は顕在化します。
隠れている問題が見えるようになってはじめて改善が進むのです。

(3)部門間の信頼・協力関係をつくる

機能の異なる部門間には、少なからず仕事の調整の手間や停滞などのムダが発生します。
できれば余計なことは引き受けたくないという互いの損得感情がぶつかり合うからです。

仕事の流れ全体でみると、部門同士が対立したままでは部分としての各部の改善も進みません。
このような部分最適の問題を解消し、一体のシステムとして部門同士が協働するために、信頼にもとづいて協力し合える関係をつくる必要があるのです。

(4)共通のめざすものを共有する

異なる部門同士が一体のシステムとして仕事を考え、助け合えるような信頼・協力の関係をつくるためには、共通のめざすものを明確にして共有することが不可欠です。

特に、直接お客さまと接する、あるいは利益を生む部門をサポートする間接部門では、大目的としてのミッションを真ん中に据え、損得を越えてお互いに何をすべきか、どう連携していくかを一緒に考える機会を持つことが大事です。

そういう機会を通じて、つねに全体における自部署の役割や仕事の中身を見直し続けることが目的に合わないムダの発見になり、また“相手のある仕事”のあり方を意識し続けることが協働機能を高めることにつながるのです。