あれから時がたち、今の私はパラレルキャリアとして、研修講師、大学の非常勤講師、スコラ・コンサルトのプロジェクトコーディネーターと3つの仕事をする個人事業主になり、趣味もしっかり楽しんでいます。
世のシニア社員のおじさんたちは、役職定年や定年に向けて、またそれ以降をどのように過ごしているのでしょうか。

ここでは2回にわたって、役職定年あるいは定年が個人にもたらすリアリティショックにどう向き合うかを中心に、会社と働く個人の関係のあり方、会社中心の人生を見直す機会のつくり方について考えてみたいと思います。

ずっと「そうなっていた」で続いてきた定年制度

定年前の一定年齢に達した人を管理的な役職から外す役職定年制度は、給与の抑制、限られたポストを後輩へ譲ることによる組織の新陳代謝、加齢による能力低下の回避が目的と言われています。新卒一括採用と終身雇用が前提の定年制度を維持してきた、いかにも日本企業らしい役職ポスト禅譲制度です。こうした年齢による役職離脱の制度は、今の能力・実績主義人事やジョブ型雇用制度の考え方にはなじまないものになっています。

民間企業における役職定年制度は、企業規模計16.4%、従業員500名以上の企業では30.7%が導入しており(平成29年度「民間企業の勤務条件制度等調査」人事院)、役職定年の対象年齢は実施企業によって異なるようですが、おおむね50歳台半ばから60歳あたりでしょうか。

2023年度からは、国家公務員と地方公務員を対象にして、60歳から段階的な65歳までの定年引上げと共に、60歳での役職定年制度が導入されました。
役職定年を迎えると、今までの管理的な肩書がなくなります。専門性を認められて研究職や専門職に移行する人もいるでしょうが、通常はラインマネジャーから同じ職場か、違う部署の担当者になるケース、別会社に出向または転籍するケースがほとんどです。そして、数年先には定年が待っています。

日本の定年制は明治時代に始まったとされ、長く社会に根づいた制度です。寿命の伸びや法律改正に伴う設定年齢の変遷はあるものの、官民ともに当たり前のように続けてきました。

年齢による雇用制限だとして定年制を認めない国もある中で、日本では定年前の年齢層に役職定年制度も認められています。日本でも実績主義人事、ジョブ型雇用の会社はありますが、現実には、伝統的な企業に限らず多くの企業が“社員である期間”を新卒一括採用と定年のサンドイッチで管理しています。こういう企業に新卒入社した私など、昭和や平成初め頃までに入社した世代は、昇格と給与アップをめざして「会社のために」と自分や家族に言い聞かせながら懸命に働いてきました。

一方、会社は、右肩上がりの給与制度による人件費と役職ポスト数を抑制するため、年次別の人事管理をしてふるい落としていきます。高給与層となった50代を選別して役職定年で給与水準を引き下げ、数年後には能力とは関係なく「決まりだから」と定年で退職させます。個人もこれを当たり前だと思い、「会社が決める人生」に従ってきたわけです。

今日では、国が主導する働き方改革や社員の価値観の多様化などの流れを受けて、会社と個人の関係も見直されつつあります。しかし、現在の50代以上は、あまり個人としての人生のあり方を考えることもなく、自分を「会社に委ねてきた」人が多いのではないかと思います。そういう人たちが役職定年を迎えると、「今後は自分でキャリアや人生を考えてね、会社はそこまで面倒見ないよ」と突き放されることになります。

いきなりハシゴを外されたような現実を、自分はどう受け止めるのか。求められるままに忙しく働く日々を送り、結果として会社に人生を委ねるのではなく、できるだけ若いうちからキャリア設計や人生を考えて準備しておくことが必要だと思うのです。

鎧をまとったままの企業戦士は途方に暮れる

実際に、役職定年を迎えた人の心の中はどうなのでしょう。いざその日を迎えると、複雑な思いが胸中に交錯するのではないでしょうか。

・肩書を外されたのに、同じ職場で元部下たちとどう接して働けばいいのか。会社は私に何を期待してる? 今さら、担当者の業務なんてできるか。
・片道切符の出向かあ。今までと比べて知名度の低い会社だから名刺を出しても説明しないとわからない。新しい仕事を覚えるのもつらい。

もう一方では、ラインマネジャーを外れることで部下の面倒や目標管理から解放されて、肩の荷は一気に軽くなります。

・部下の面倒を見なくて済むので気楽だなあ。
・相談を受けたり、目標達成に向けて頭を悩ましたりがいきなりきれいになくなった。毎日定時で帰れるぞ!

自分で使える時間がたっぷりできます。でも何か寂しく、物足りなさも感じます。これって何でしょうか。

・肩書がなくなったら誰も相談に来ないな。着信メール数も激減した。日中どうやって時間を過ごせばいいのか。張り合いがない。ひりひりする緊張感もない。
・これからどう歩むかを自分で考えなさいと会社は言うが、今まで会社が命じるままに働いてきた。いきなり自分主体でキャリアを考えろと言われても……自分の強みって何?私は何がしたいの?

もう一段深いところまで下りてみると、どろどろとした心の声が聞こえてくるかもしれません。

・なんで同期のアイツは役員でオレは担当者に逆戻りなんだ。オレのほうがよっぽど仕事ができたはずだ。
・会社のために良かれと思って実績を出してきたのに、なぜ会社はそれを評価しないのか。
・会社と仕事に誇りをもって働き、自分や家族を犠牲にして戦ってきた。それなのに社内に居場所さえなくなって片道出向か。

高齢者雇用安定法は、本人が希望すれば70歳まで、就業機会確保の努力義務を企業に課しています。再雇用などで雇用形態が変わったとしても、ひき続き働く期間は15年に及ぶかもしれません。
その間ずっとショックが尾を引いて、こんな心のわだかまりを抱いたままではつまらないですね。

後編では、定年という転機をうまく生かし、会社ありきの人生を「鎧はずし」で見直していく対話のステップをご紹介します。

(後編につづく)