コロナ禍の非常事態宣言から4年がたち、アフターコロナの日常へと移行した今、オンライン会議やテレワークの利点を取り入れた働き方を考えるためにも、あらためて対面の場のリアルコミュニケーションの良さや課題について考えてみたいと思います。

失ってはじめて気づいた雑談の働き

2020年にスコラ・コンサルトが行なった『テレワーク下の雑談に関する実態調査』では、多くの方の声から「雑談」に含まれている豊潤な可能性を知ることができました。

「雑談が減って困るのは、どんなとき、どんなことですか?」という問いに対する自由記述の回答からは、それまでリアルの職場で雑談がどのように使われていたのか、雑談から何を得ていたのかが見えてきました。大きく整理すると、以下のような内容です。

雑談によって
1.業務以外の「人や職場の状態」を察知・把握して対応できる
2.人づてに入ってくる情報、五感でキャッチする情報が得られる
3.タイミングよくこまめに相談・確認をしながら業務を進められる
4.気づきやアイデア、発想の転換や仕事のヒントが得られる
5.気分転換や息抜きになり、人間関係のつなぎや潤いになる

手軽にジャストインタイムで行なわれる、ちょっとした確認や相談。他愛のない会話からふと得られる仕事のヒントやひらめきなどの刺激。思った以上に多くの人が雑談のない環境になってはじめて、気づかないところで業務の日常に役立っていた雑談の効能に気づいたようでした。

休憩時間が「雑談の余白」にならないオンラインの環境

withコロナの間には、web会議システムもどんどんアップデートされていき、私たちもモニター越しのふるまいに慣れてきました。リモートの便利さを享受するとともに、そこでの話し合い方もかなり上達しました。今ではオンラインのオフサイトミーティングも当たり前になり、真剣なテーマの突っ込んだ話し合いもできるようになっています。

しかし、明確な目的と時間の管理で進めるオンラインミーティングに慣れれば慣れるほど、逆に「それでも足りないもの」が目につくようになりました。その一つが「休憩時間の雑談」です。

最近の私は大勢でのミーティングの際に、休憩時間もビデオをオンにして、誰かが画面に映っていればちょっとした雑談をしようと試みています。ところが、どうもうまくいきません。
今のweb会議システムでは、顔を見ながらの雑談といっても、声を出す人がトリミングされる音声単位の会話ですから、その場に居合わせた人たち同士のランダムなやりとりにはなりません。しかも、会話はスピーカーを通してメンバー全員に聴こえています。チャットにしても、相手を指名して行なうテキストコミュニケーションです。

どうやら雑談をする以前に、そのための「余白」がうまく設定できない、というのが現行のWEB会議システムの特徴のようです。対面の場で起こるような“自然発生する雑談”をオンラインの環境で再現するのは難しいのです。

「リアルであれば」自然に起こる雑談

リアルの場では、合間の時間が「雑談の余白」になって“特に何の努力や工夫をしなくても”同時多発的な雑談が起こります。極端にいえば、そこに集まっている人の数だけ発生します。

対面でのミーティングの休憩時間には、愛煙家は連れ立って喫煙所に行き、とりとめのない話をしています。飲み物を取りに行った人はドリンクコーナーにいる人たちと立ち話を始めます。お手洗いを済ませて戻ってきた人は、用のある相手に声をかけて手短に用件を伝えます。

あるいは、集中して行なう議論の合間には、そこをちょっと離れてプライベートなことを話したりして気分を切り替える。議論の中での対峙点について人と話しながら見返したり、自分の思いを補足したり、ちょっと間をはさんで考えてみることもあります。

リアルの場にある休憩のような自由な時間と空間は、つい雑談になって気分が変わり、多様な情報がやりとりされ、偶発的に触発が起こったりするオープンな「余白」になっているのです。

「元に戻るだけ」の安易なリアル出社には警鐘を鳴らしたい

ここまで、「やはり、リアルにはリアルの良さがある」「休憩時間などのちょっとした雑談の効能は、まだまだオンラインでは補いきれない」といったことを述べてきました。では、やはり100%出社がいいのかというと、そうではない気がしています。

最近は、オフィス回帰の流れもあって「フル出社」に戻す会社も目につきます。その中には、それほど強い理由もなく、オフィスへの出社を促す企業も増えているように感じて、これにはあまり賛成できません。

たしかに、人が集まって対面で働くオフィス出社にすれば、雑談のような属人的な調整機能が自然に働いて、テレワークで生じた情報不足やコミュニケーション不足、業務の進行管理や人的管理の難しさなどの問題は解消されるかもしれません。しかし、それが単に“元の状態に戻る”だけなら考えものです。コロナ後の世の中や働き手の変化に対応した勤務形態、働き方、創造性を高めるチームづくりや組織文化の見直しなど、組織的な努力や工夫がなされないままのオフィス回帰だとしたら、テレワーク生活を経験した社員はがっかりするでしょう。
コロナ禍がもたらした変化のチャンスを、会社が自らの脱皮や進化に生かそうとしないからです。

テレワークに移行した時期、オンラインミーティングやテキスト中心のコミュニケーションで仕事をしてみて気づいた、リアルとオンラインのメリットとデメリット。「やはり、リアルがいい」という二者択一ではなく、今は、両方のメリットを生かして組織や働き方の最適を考えていく絶好のタイミングだと思います。

今後の世界や産業の変化を考えてみても、企業が持続していく原動力は、一緒に考え協力して新しいものを生み出し、挑戦を続ける人の集団です。人の創造性は無尽蔵で、それが掛け合わされたチームの力は、フォーマル組織が持つ「枠」がなければ本来、会社の器を超えるほどの可能性を持っています。
そのカギになる意欲や自発性が引き出されるのは、リアルな人との関わりです。対面オフィスのそこかしこで雑談が自然発生的に交わされているのは、それが本音ベースで安全であり、確かなリアリティがあるからでしょう。

これからの対面オフィスでは、個人レベルの雑談のようなリアル空間ならではの文化、本音で臨機応変にやりとりをするインフォーマルコミュニケーションの特性をもっと組織や仕事の場にも生かしていき、それが創造的な組織を支える新しい話し合い方、習慣になっていけばと思います。

「リアリティのないリアル」のありようを見直す

「雑談」に限っていえば、冒頭で“豊潤な可能性が内包されている”と述べましたが、その中身は基本的に玉石混淆です。つまり、玉もあれば石もある、という点には注意が必要です。

たとえば、いろいろな企業でチームビルディングのために経営陣や部長同士のまじめな雑談(オフサイトミーティング)をすると、「ゴルフの話ではものすごく盛り上がるが、重要な経営課題の話はほとんどしない」という共通の傾向が見られます。
いくら雑談に多くの可能性があるとはいえ、当たり障りのない話題、本当にどうでもいい話をいくら積み重ねたところで“何も起きない”のもまた事実なのです。

あるいは、多くの企業で主流になっている建前ばかりで本音の出ない会議、結論は最初から決まっていて形式を踏むためだけの質疑応答がなされる儀式的な会議なども、よく考えてみると「仮想空間」であり、そこにリアリティはないのではないかと思えてきます。むしろ“リアルの良さ”をそぎ落とし、形式やルールを重んじて、テキスト的なコミュニケーションで回している会議や仕事が企業内にはまだまだあります。

このような“リアリティのないリアル”の見直しも、早いうちに手を打っていきたい重要なテーマではないかと思います。

オンラインミーティングやテレワークは、場所や時間、人数に縛られないなどの物理的な利便性や、家族と過ごす当たり前の時間を楽しむ精神的な豊かさなど、大切なものを私たちにたくさん教えてくれました。
これらを学んだ上で、私たちは人の持つ五感のセンサーや自発性、雑談のような関わりの中で偶発的に起こる知恵のひらめきなどを最大限に生かす、リアル重視の組織にしていく努力が必要だと感じています。