それでも、打者は、プロ野球でも打率が3割あればよいほうだとされるほど、打てるチャンスはそう多くあるわけではありません。試合では、「投げる人」「受ける人」「打つ人」は、それぞれに一球入魂でプレイしながらチャンスを懸命に見出していることでしょう。そして、これらが普段の練習のうえに
成り立っていることを考えると、計り知れない日ごろの努力の積み重ねによるものであることがわかります。成果はその結果として生み出されるものです。

これを私たちの仕事に置き換えるならば、「仕事」と「上司(指示する人)」と「部下(指示を受ける人)」にも通じることが言えるのではないでしょうか。
基本の3点セットはどの職場にもあるものです。そして、いくら業績の目標を立てたとしても、その背景に日々の努力の積み重ねがなければ、仕事の成果を生み出せるものにはならないのは同じはずです。
それはすなわち、いかに業績を向上できたのかは、日頃からどんな練習をして、いかに能力を向上させているのか、その能力を仕事の場でどの程度発揮できたのか、そのヒット率はどのように業績向上につながっていたのか。年度末の人事面談にあたっては、これら一連の行動を共有して、その意味、価値をふり返ることが、人事評価をする、ということになるのです。

そして、1年間の行動と結果をふり返って見えてきた問題や課題について、次年度どのように改善しようと思うのかについて、上司は部下から聴き取って、本人の改善策を一緒に立てるとともに、上司は上司としての関わり方の過不足や、育成・支援のし方をふり返り、自己のマネジメントの改善策を見出しておくことが重要です。

人事評価においては、能力評価と業績評価を別々で行なうのではなく、能力の向上と業績の向上は表裏一体ですから、両者を相互に絡み合わせてスパイラルアップできるよう、経緯をとらえておくことが、一人ひとりの人材(点)に対して人が育つ人材マネジメント(線)を実現する基本となります。

特に、昨今の行政職場では、決められた仕事を決められたやり方で遂行すれば能力も業績も上がるといった単純なものではなくなっています。地震や新型コロナウイルスのような突発的な危機に際しては、
現状を把握し、何が問題かをとらえることさえ容易ではなく、計画を立てても計画どおりに進められるものではありません。
また、地域共生社会の実現やマイナンバーカードのような新しい取組においては、それによって何をめざし、どのようなサービスを創造していくのかの方向性も、明確に定まっているものではありません。
常に手探りで、関わる多様な部門、事業者と連携、試行錯誤しながら、ありたい姿を見出し、共創していくことが必要です。

だとすれば、個々の現場で上司と部下が「線」のつながりで人材マネジメントしているだけでは事足りない状況です。異なる現場間で相互にベクトルを合わせておかなければ、お互いの取組が足を引っ張り合うことになっているかもしれません。
同じ方向に向かっている場合でも、タイミングが合わなければムダを生じてしまいます。全体を俯瞰する司令塔がいればよいのですが、組織的な体制が整備しきれていない段階では、それぞれの取組の中核メンバーがハブとなって、相互に連絡を取り合い、自律的に調整をし合うことが重要になってきます。

大谷選手が、MLBで優勝するために、チームを移籍したのは、個人の力では及ばない組織力が必要だという選択によるものでした。個力を高める「線」の人材マネジメントを超えて、組織力を高める
「面」を築く組織マネジメントを行なうには、それぞれの部署の責任者が、組織を越えて動き、連携を図り、上下・左右の壁を破って斜めのつながりを見出しながら、自律的に動くチームを機能させていく働きかけが重要です。

昨今の自治体では、個人の負荷が増加して心身に支障を来す職員が増える一方、有能な職員が離職するケースが増えているとの声も聴きます。人事評価制度を単なる評価で終わらせない、人と組織がともに育つ運用に経営レベルを高めていく必要があるのではないでしょうか。
「仕事」「上司」「部下」の基本の3点セットも、課題が変わり、組織が複数にまたがり、メンバーが多様になれば、それらを組み合わせる組織マネジメントレベルは各段に上がってきます。

NPO法人自治体改善マネジメント研究会では、今年度から始めた「公務員の組織風土改善セミナー」で、それぞれの自治体のリアルな組織課題の解決に向け、新しい組織マネジメントのあり方に挑戦するメンバーが取組を進めています。
参加メンバーは、元吉由紀子編著『自治体を進化させる公務員の新改善力 ~変革×越境でステップアップ』にある改善活動の12場面を意識しながら、変革プロセスのポイントを相互学習して、マネジメントスキルを高める実践をしているところです。