管理職のみなさんは、日々その職をうまく果たすことができているでしょうか。「何とかうまくやりこなしたい」、きっとそんな思いを持って日々励んでおられることでしょう。

近年民間企業では、「管理職罰ゲーム化」と言われるほど管理職が抱える課題は多く難易度も増しています。リスキリングやアンラーニングが必要と言われている通り、課題解決の方策を単純に過去に求めることができ難くなっていることが管理職の仕事をなお困難にしているようです。そのため、期待値と現実との狭間で苦しんでおられる管理職が増えています。

このことは行政組織にも、いや、行政組織ではなお切実な状況にあるのかもしれません。理由は、行政組織の中に根付いている「管理職」のとらえ方に起因しているのではないでしょうか。
ここではその中から特徴的な3つのポイントを挙げてみました。

1)管理職は、「執行を管理する人」である

法的事務を多く取り扱い、また、「計画行政」と言われる仕事柄、業務をミスなく、遅延なく、予定どおり進めることが第一である。そのため管理職は、その執行状況を失敗しないよう管理し、是正する必要があれば監督・指導する役割を担っている。

2)管理職は、非の無い人(自己管理できる人)である

管理職は、「自己管理をきちんと出来る人である」という昇格要件をクリアしてその職に就いている。
そのため、課長級以上は同一の能力指標で括られていたり、能力指標が設定されていても評価はされていない場合がしばしばある。

3)管理職は、部下を育成する立場にあり、育成される必要はない

「人材育成」は、職務を滞りなく果たすために必要な知識やスキルを教育・訓練を通じて習得する目的で行なう。そのため管理職自身は、昇進時の研修や、新しい時代環境において付加された専門的知識や情報を得るために特別研修として行なわれることはあったとしても、日々の実践的な能力やスキルを身に付けるために育成される立場にあるとはみなされていない。

これらは、安定的な環境下で成り立っていた価値観で、年功序列が成り立つ理由ともなっていたものです。しかし、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の環境下では、これらの価値観が通用せず、新しい価値観で管理職の役割や仕事のしかた、能力のあり方をとらえ直し、管理職自身の育成を再構築していく必要があるのではないでしょうか。

1)管理職は、「開発する責任者」となる

変化する環境下では、既に定まっている事務や業務であっても、その適否を問い直し、必要に応じて新しい仕事や仕事のやり方を開発し、変えていく役割が発生する。そこで、管理職が主管する政策分野や課題に関して職位に応じた開発責任を持つことになる。ただし、そこでは自ら率先してリーダーシップを発揮する場合もあれば、適任者を探して任せ、自らはそれらが進めやすくなるための環境を用意する
スポンサーシップを発揮する場合もある。

2)管理職は、足りない資源を調達する人になる

これまでの延長線上にない新しい課題の解決には、現有する資源だけでは足りないことが出てくる。
常に外にアンテナを張り、足らざるを知ることがその出発点となる。そして、外部の資源(人、モノ、金だけでなく、新しい情報や新しい関係性、これまでとは異なる文化などを含む)を取り入れて活用する役割を果たしていく必要がある。

それには、既存の組織の部門や階層、組織を越えたネットワークを日頃から築いておくことが有効となる。ダイバーシティ&インクルージョンは、現状を打開してイノベーションを生み出すうえでも重要だ。

3)ありたい姿を描き試行錯誤する共創プロセスで人と組織が育つ

先行き不透明な状況に対応するにあたっては、あらかじめ誰も答えを持ち合わせていない。将来のありたい姿を自分たちで思い描くところから始め、バックキャスティングして課題を見出すことになる。
どうすればよいかは、まずやってみて、結果をふり返り、失敗を糧に軌道修正していく中で見えてくる。このような共に創り出すプロセスは、人と組織が共に育つ経験学習プロセスとなっている。

これら新しい環境下で担う管理職の役割と果たし方は、それぞれの組織の目的と置かれている状況によって都度異なります。そのため、現場で取り組む「管理職」個々人の努力任せになりがちです。しかし、その実力は個人の努力だけで容易に高められるものではありません。

なぜなら、これらイレギュラーな変化への対応を通常の組織内で実現させることは困難だからです。
既定の業務とは別の「オフサイト」で時間を確保し、通常の職務の範囲を越えて意欲や能力、情報を持つ関係者を集めて取り組む必要があります。
さらに、より上位の幹部層が、この取組を戦略的に優先する方針を事前に打ち出しておくことや、共創プロセスから生み出された成果を、通常の「オンサイト」(公式の計画や仕組み、組織)の業務や役割に反映させる意思決定をして、事後の定着を図る必要もあるのです。

それゆえ行政組織では、まずはこれまで根付いている「管理職」に関する価値観をきちんと再定義することと、管理職に「管理」と「開発」の二刀流を両立させていくコーディネート力を養成することが、
今最も求められている「管理職の育成」課題となっているのだと思います。
特に首長や管理部門においては、このことに早く気づき、人材育成基本方針にベースとなる考え方を埋め込み、なるべく早く取り組んでいく必要があるでしょう。

 

NPO法人自治体改善マネジメント研究会で実施している「公務員の組織風土改善セミナー」には、そんな管理職たちが自治体を越えて集まり、この組織マネジメントに役立つ二刀流のコーディネート力を実践学習しています。今は有志が、自己啓発として自らの時間を割いて参加されていますが、これが組織の中で当たり前に行なわれ、組織力の底上げが図られるようになることを願うばかりです。