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先月号では、組織の根本的な問題に目を向けて徹底的に考え抜くことが、顧客に選ばれる価値を創造する企業への第一歩になるに違いない――と手ごたえを感じながら進めている、ある大手企業の次世代経営者層向け「経営塾」の事例を紹介しました。

では、根源的なテーマの議論(「わが社はなんのために存在するのか」「そこで自分は何をしたいのか、どんな貢献ができるのか」等)が、なぜ価値創造の議論につながるのでしょうか。今回は私たちなりの仮説を提示したいと思います。

議論の流れとつくるプロセス

結論から先にいうと、私たちは大枠で以下のような議論の流れと変化を想定してプロセスをつくっています。私たちプロセスデザイナーは、参加者に対して第三者ならではの問題提起や情報提供をしながら、このプロセス全体が参加者の意思で自然に進んでいくためのサポートをしています。

  1. 根源的な問いを前にそれぞれが戸惑う
  2. 普段は表に出さなかった自分自身の「思い」に立ち返って内省することで、情熱に火がつく人が出てくる
  3. その人たちが自分の「思い」を互いにぶつけ合うことで、カオス状態になるが、粘り強くチームで考え抜くことである共通の方向性が見えてくる
  4. 変えられないとあきらめていた既成の制約条件を、もしかしたら超えられるかもしれないという気づきが生まれる
  5. 自社ならではの新しい「価値判断の基軸」を獲得し、それに沿った行動にトライしはじめる

 

多くのビジネスパーソンは、もともともっていた「自分はこの組織でこうしたいんだ」という「思い」や「志」に、知らず知らずのうちにフタをしてしまっています。しかし、根源的な問いに対峙するためには、まず自分自身と嘘のない状態で向き合わなければなりません。それは自分の仕事に対するエネルギーの源泉を発掘する作業とも言えます(ただし、もともと源泉のない場合は掘っても残念ながら出てきませんが)。

そこで顕在化した各人の「思い」は、当然のことながら一人ひとり異なります。それをチームのメンバー同士でまさにぶつけ合うわけです。

それぞれが正しいと信じるものがぶつかり合うので、ときには激論にもなります。議論すればするほど出口の見えない混迷状態になることも少なくありません。しかし、互いの考え方を尊重するという原則を守り、粘り強く接点を見つける努力を続けていけば、たとえ一部であっても、ある共有可能な方向性が見えてきます。

本当の意味での「対話」

このような、根幹にかかわる部分でお互いの違いを認め合い、そこからさらに共有可能なものを探っていく議論こそが、本当の意味での「対話」です。この対話のプロセスに個々がむきだしでかかわっていくという共通体験のうえに、真のチームワークが形成されていきます。

根源的なテーマの議論は、「発散」と「収束」のフェーズを繰り返しながら思考の質を高めていくだけではなく、チームのあり方にもイノベーションをもたらすものなのです。「発散」のフェーズでゼロベース思考をもとに、“will-be”(ありたい姿)を導き出したとしても、現実問題としては目の前の“should-be”(あるべき姿)との対立や葛藤が必ず起きます。

しかし、従来ならやれないことの言い訳にしていた現実の「制約条件」も、チームでお互いの脳を合わせ、抽象的な総論ではなく各論ベースで考え抜けば、打開の知恵を得て乗り越えていける可能性が高まります。決して整然とした答えでなくとも、そのようなプロセスで導き出した新しい価値創造につながる仮説は、実行へと一歩踏み出す原動力にもなるのです。

「個々人の思い」×「チーム思考」の議論を通じてつかみ取った「仮説」

企業が顧客に選ばれるための価値を提供するために、これをやれば儲かるという答えがもてた拡大基調の時代には、戦略ロジックを突き詰めることが最も有効な方法論たり得ました。

しかし、答えを出すための前提条件がどんどん変わる環境下では、「個々人の思い」×「チーム思考」の議論を通じてつかみ取った「仮説」こそがワークするのだと私たちは考えます。

その「仮説」は、社員が「仕事に対する誇り」と「自社の存在価値」を問いながら、お客様にとってのメリットを考え抜いた結果であり、それが製品やサービスの付加価値となって提供されることになります。そして、お客さまは、そのような問いと意思を含んだその企業ならではの付加価値に、より対価を払うようになってきています。

本当に価値あるものを提供できているかどうかが、今まさに問われているのです。