といっても、かなり前のことなので、再度かいつまんでご説明すると、私が前職で「営業プロセスの再構築」をテーマにコンサルタント主導で支援をした中小企業A社に、現職で再びプロセスデザイナーとして関わり、まったく別のアプローチで課題解決に取り組んでいる、という話です。かつて自分が関わっていたときにアクションプランにそって解決していくはずだった課題がまったく解決されずに積み残されていたことに愕然とし、あらためて私は、以下の3つのことを経営メンバーに約束しました。

1.1年後には同じ課題を掲げないで済む状態にする

2.解決策と同時に解決当事者をつくる

3.解決当事者の行動を支援する

「社員と経営の相互提案型組織を実現する」という“めざす組織の姿”を新しい経営の軸に

そして、これを実現するために、経営メンバーで議論をして「社員と経営の相互提案型組織を実現する」という“めざす組織の姿”を新しい経営の軸に据え、そのために、まず「経営が考え、社員が実行する」から「社員と一緒に問題を話し合い、社員の主体性をテコにして課題解決をする」へと、経営メンバー自身がマネジメントの転換に踏み出したのです。

あれから2年がたちました。
A社は「提案型組織になる」という“めざす姿”に限りなく近づいてきました。今までの「トップダウンの経営のしかた」を変えて、「役職や立場に関係なく、互いに提案し合ってよくしていこう」という仕事のしかたに変わってきたのです。

たとえば、

(1)事務系の部門では、営業部門の提案を受け入れて、お客様の顔写真を壁一面に貼り、お問合せが来た時には名前でやりとりするようにする。

(2)仕入れ担当部門では、メンバーがお客様の仕入れ担当者として動くことを営業部門に提案し、営業マンに同行して重点商品の打合せに参加。

(3)配送や設置を担当する部門では、展示している商品のクリーニングをお客様に提案。

(4)役員も、営業部門からの提案を受け入れて定期的にお客様を訪問し、会社としての姿勢を伝える。

(5)営業部門では、企画部門の支援を受けながら、商品を売るのではなく、お客様の販売戦略や売場レイアウトに対する提案を行なう。

このような変化が促進されたのは、社員間で共有されている判断基準を変えたことが一番の要因でしょう。
現在、A社の社員の間で共有されているのは「どうしたら卸し先様が今以上に、エンドユーザーに喜ばれるよい販売店になれるのか」という問いです。これを判断基準に各部門は、他部門やお客様にダイレクトに提案を行なっているのです。

「お客様満足を大事にすること」と「短期的な収益を達成すること」のダブルスタンダードのはざま

それまで暗黙に共有されていた判断基準は「いかにして収益を伸ばすか」というものでした。この「問い」を起点に仕事を考えていくと、お客様を育てるという長期的な視点が持ちにくくなります。

(1)事務系の部門では、代金の回収が一番大事な仕事になる。

(2)仕入れ担当部門では、品質よりも納期を優先するようになる。

(3)配送や設置を担当する部門では、いかに訪問回数を減らして一度で済ませるか、を優先する。

(4)役員も、お客様の要望よりも売上が気になる。

(5)営業部門では、短期的な売上中心の動きになる。

多少大げさに書きましたが、言葉上では「お客様の満足」を意識しつつも、現実には現場は、「お客様満足を大事にすること」と「短期的な収益を達成すること」のダブルスタンダードのはざまで、矛盾や疑問を抱えながら仕事をしていたのです。本当はもっとお客様のためにこうしてあげたいのに…というのが当時の社員の本音だったのではないでしょうか。

「経営に対する3つの問い」

この支援のプロセスを通じて私が重視するようになったのは、経営に対する次の3つの問いです。

1.目的よりも目標を重視していないか

2.社員には、何に対して知恵を出し主体的に取り組んでほしいのか

3.トップマネジメントは総論と各論を一致させることに最も真剣に取り組んでいるか

A社では、めざす組織の姿を実現するために、経営にとっての最大のジレンマを本気で乗り越えようとするトップマネジメントの姿勢が伝わることで、経営への信頼感が高まり、結果として、社員の主体性を喚起することができました。
私は、今後の支援の中でもこの「経営に対する3つの問い」を持ち続けていきたいと思い、社長と一緒に本気で会社のことを考える社員を増やすための『参画型経営をつくり込むセッション』を立ち上げることにしました。私たちもまた、そこで一緒に本気で考えたいと思っています。