アドラー心理学のひとつの特徴は「人生はシンプルである。人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」と言いきっているところです。すなわち、複雑で手のつけどころがないように見える組織の問題も、構成メンバーの対人関係に焦点を当てるとシンプルに解ける可能性があるということなのです。

周りの人たちを同じ「仲間」だと思えないのはなぜか

組織の問題はメンバー同士の協力が得られないことから発生していることが多いようです。
人間はそもそも集団で行動する動物ですから「協力」という行為はDNAにしっかりと書き込まれているはずです。
それなのに、周りの人たちを同じ「仲間」だと思えないのはなぜでしょうか。

 

組織の仲間とは、自分の「思い」をしっかりと持ちながら相手の「思い」にも共感し、同じ方向に向かって歩んでいく存在です。
すなわち、自分の思いを持ち、周りのメンバーの思いに共感し、自分たちのめざすもの、組織としての「ありたい姿」を共有する。
これによってメンバー同士がひとつになり、絡み合った組織の問題もほぐれやすくなるのです。

仲間をつくるための具体的な手段

仲間をつくるための具体的な手段がオフサイトミーティングです。

相手の話を真剣に聴くことが互いの本音に対する共感を生み、一体感と信頼感が高まります。これが個々の思いを束ね、メンバーのモチベーションを高めていきます。
同じ目標に向かってメンバーが主体的に協力しあう組織は、このような関係性の基盤をつくるプロセスを繰り返しながら形成されていくのです。

 

先日、ある会社の企画部門のオフサイトミーティングを行ないました。

メンバー6名はそれぞれ別個の課題を担当しており、日々の業務は確実に回っていたのですが、会社の方向性を決める大きな課題に協力して取り組めないことに部門長は悩んでいました。

オフサイトミーティングに集まったメンバーは「業務がそれぞれ違うんだから一緒に話し合う必要なんてない」と思っていました。
みんな口が重く、よそよそしい雰囲気でのスタートです。

しかし、一人ひとりの「ジブンガタリ」(あまり表に出さない仕事の悩みや個々の素顔がわかる話をする。このときは生い立ちの話)を始めると場の空気は変わってきました。

 

そのまま仕事の話に移り、それぞれが普段感じていることを言い合っていくうちに「定例会議の時間が長すぎる」という悩みをみんなが共通して持っていることがわかりました。

メンバーの一体感が急激に高まったのはそこからです。
自分たちで何とか解決しようという勢いが生まれ、自分がやること、相手に任せることが具体的に決まっていきました。

 

何よりも印象的だったのは、参加者の表情の変化です。最初は暗く硬い表情だったのが、終わったときには、はじけるような笑顔に変わっていたのです。
自分たちの関係は明らかにレベルアップした、そのことをみんなが実感できた瞬間でした。

 

複雑そうにみえる組織の問題も、じつはシンプルである。解決の糸口はオフサイトミーティングにある。
それを信じて実践し続けることが個人と組織の成長を促進する。

私は自分の体験を通じてそのように感じています。