A社を取りまくビジネス環境はいわゆるマウスイヤーで、1年前のビジネスの前提が今日はすでに通用しない、ともいえるような状況です。そこでお客様の期待を超えるような価値を生み出してポジションを得ていくには、企画から開発、製造…と商品やサービスをしっかりと社内でつくり込んでからお客様に提案するという従来のプロセスでは、旬を逸してしまう場合もあります。

S部長は、新しい商品やサービスを生み出すには、もっとオープンな新しいプロセスが必要になるのではないか、という仮説を持っていました。

社内でつくり込んだものを提示するよりも、ユーザーのお客様と一緒につくり込んでいくプロセスのほうがカスタマイズのスピードも速い。しかも、この協働するプロセス自体に人の成長やバリューチェーンの再構築といった価値を見いだせる可能性もあり、結果としての満足度も向上するのではないかという仮説です。

「お客様ともチームになれる能力」が必要になる

これはA社のお客様に限ったことではありませんが、最初からお客様自身が自社の現状や課題を認識できていることは稀で、サービスや商品を提供されてはじめて、そこに気づくというのも珍しいことではありません。だからこそ、お客様と一緒に現状認識と大事な価値観を共有し、そして新しい方法をも一緒に見いだしていく、まさにお客様と自分たちがチームとして課題を解決し、新しいものを生み出していく。これからの時代は、自社だけではなく「お客様ともチームになれる能力」が必要になってくるのではないでしょうか。

「お客様ともチームになれる能力」は、自社のみの閉じた教育や努力だけではなかなか育っていかない。それなら、いっそのこと当事者と支援者がチームになって課題に取り組むコンサルティングの現場を経験し、実地で学んだほうが効果的ではないか、というのがS部長の自然な発想でした。

会社の枠を超えた新しい取り組み

実は、このような相談は今年に入ってから急激に増えています。
なんでも自前でやるのではなく、オープンな機会をつくって学習資源を拡大し、自社の飛躍や成長の可能性を広げようという試みです。まずはやってみようと、会社の枠を超えた新しい取り組みがすでにいくつかスタートしています。

  • 複数社が合同で切磋琢磨し合える研修をする
  • 複数社の風土改革スポンサーが集まり、組織の変革機能を高める仕組みづくりや業種間連携によるイノベーションを議論する
  • 異業種2社のコラボレーションで新しいビジネスを生み出す勉強会をする
  • 他社のサービスを提供して自社顧客のロイヤリティを高める
  • 風土改革に取り組む企業同士が地域単位でネットワークし、協力して顧客開拓や相互営業をする

このように「他社のものも自社のもの」として活用する、会社の枠を超えたチームワークが現実に進んでくると、これまで企業で使われてきた「チーム」や「チームワーク」という概念の持つ範囲がどこか狭く、閉じた世界を指しているように感じられてきました。

そもそもチームワークの概念に「どこのだれと」という枠は存在しないものです。そこに内外、自他の境界を設けてしまうと、特に今の時代は、仕事による成果もその枠に規定されて可能性を閉じてしまうことになるのではないかと思います。
あらためて、これからの時代の「チームワーク」とはどういうものか、その意味を再考する時期を迎えているように感じています。

 

同じように組織風土改革も、自社組織の問題とだけ向き合うのではなく、まったく異なる風土や文化を持つ企業間で他流試合のように切磋琢磨し合う機会をつくり、その相互作用の中で変化していく、といった取り組みが当たり前になるのかもしれません。そのような機会が互いの強みを膨らませ、線型ではない可能性を創発して新しいビジネスを生み出すことにもつながっていけばと期待しています。

そんな「大きなチームワーク」への期待を込めて、来年もどうぞよろしくお願いいたします。