私たちはなんとなく、頭の中に、日本の「人材育成」とはお金をかけたからできるというものではなく、ほかの国では見られない独特な強みが支えているものなのだ、というイメージを持っています。そうした潜在意識は、私たちの中に、無意識のうちに染みついているように思います。
仕事をしながら、周りや先輩との付き合いの中で、いつの間にか自然に学んで身に着けていく、というのが日本独特のOJTです。そして、このOJTなるものが、日本企業の中で、あたかも人材育成の中核を占めるものであるかのように機能してきたのです。
人を育てることの必要性は広く社会で認知され、会社では急務になっていることを多くの人は認識しています。
ところが、このOJTというベースが機能していると、そんなにお金をかけなくてもそれなりに人は育つので、特別に人材育成に投資しなくても、とりあえずは企業経営をすることができる、という潜在意識をどこかで持ったままなのが日本企業の実態のように思われます。
注意しておかなければならないのは、このOJT、つまり仕事の中で自然に学んでいく中身は、何も仕事に関する知識やノウハウばかりではないことです。
日本では、組織の中で周りに上手く溶け込んで仕事を一緒に回していくために、組織に内在する常識や作法を身に着けることが必須条件でもあり、それがOJTのベースになっているのです。
こうしたベースを持った日本独特のOJTがあってこそ人は育ち、企業は安定し、日本が世界に誇る抜きん出た品質も確保し得たということです。
すなわち、「人材育成」と言っても、特別にお金をかけず、数字には表れてこない埋没コストでやってこられたのが日本的なOJTなのです。