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なぜ、会社の戦略はうまく機能しないのか?(前編)
――あなたの見ている「事実」は本当の“事実”ですか?

2017年09月16日

 

失敗することを考えて、会社の戦略を立てる経営者はいないでしょう。
しかし、残念ながら戦略の成否は、戦略を立てる前から決まっていることが多いのです。


孫子の兵法の中に「彼を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉があります。
この言葉のとおり、「戦において、敵と味方のことを熟知していれば負ける心配はない」はずなのです。
しかし、実際はできずに、多くの戦略が失敗しています。

なぜ、失敗してしまうのでしょうか。

それは、敵(外部情報)も重要ですが、敵よりも己、つまり、経営者自身や経営者が見ている「現場の事実」が、本当の“事実”となっていないことに大きな原因があります。
現場に即した“事実”にもとづかない戦略は、どんなものであってもうまくいきません。


●きれいごとの戦略は失敗する


よく、経営者の意識が現場に浸透していないことが、戦略が機能しない要因として挙げられます。
しかし実際は、もっと手前の段階に主原因はあります。
繰り返しますが、経営者に「現場の事実」が見えていないときに失敗の原因が生まれるのです。

戦略には、「何年後に売上が何倍になる」ことがロジカルに納まった「きれい」なものや、その時々の流行りの戦略をただ取り入れるだけといった、現場の事実・実態を踏まえた生々しさのないものが多く、そういった正論を振りかざした戦略の多くは失敗しています。

例えば、ある生活雑貨の小売店では、販売戦略として、自社商品の実店舗以外にもWebやスマートフォンなど、当時流行していたオムニチャネル展開をはじめ、市場分析から売上を急増させるという計画を実行しました。

しかし、私に見えていたのは、その会社の女性社員が自社の商品を買わないという“事実”でした。
主に働くママや主婦に向けた生活雑貨が主要商品であり、ターゲットに該当する女性社員も多く、さらに、社員割引があるにもかかわらずです。

もし、経営者にこの状況の報告が上がってきており、現場の“事実”が見えていたなら、販売戦略(どう売るか)より先に、商品戦略(何を売るか)に重点をおいたのではないでしょうか。
経営者が“事実”を押さえられてないため、結果として、現場の人たちが欲しいと思えない、誇りのもてない商品を売らせようとしているのですから、打ち手を間違えていることは明らかです。

このような例は、ほかの企業でも見られます。
ある会社ではMBAを取った社長が、「これからはCS意識が重要だ」と、営業に「お客様の側にいて常に身近な相談相手となれ」とハッパをかけていました。
売上が低迷するなか、顧客に寄り添って長期的な売上確保を果たすというのは一見正論に見えます。

しかし、一方、1か月の売上が落ちることも許さないというノルマ達成型のマネジメントは変えていませんでした。
そのため、現場ではCS意識が必要なことはわかっていても、「今」のノルマ達成に必死で、未来のことに気が回せないという“事実”がありました。
また社長は、「がんばればなんとかなる」という精神論を振りかざしてしまい、精神論だけでは動けない現場の“事実”も無視していました。

本来であれば、自社の実力や、限界にしっかり向き合った上での戦略が必要です。
経営者は、「これが必要だ」と正論を掲げるだけではなく、正論だけでは動かない現場の事実を受け止めてリアリティをもって考える必要があります。

たとえば、10年後に勝ちたいなら、お客様に寄り添い長期的なプラスを得ることを優先し、短期的な売上減を受け入れる腹決めをする必要もあるでしょう。
はたまた、短期の売上増も、長期の売上増も、ともに実現するための新しい突破口を生み出すために知恵を絞ることも一つです。
いずれにせよ、精神論ではなく“事実”を踏まえて、そこからどうするかを考えて初めて戦略が機能していくのです。

このように、流行にもとづく戦略や、現場の温度感(考えていること、感じていること)を無視した戦略は、必ず失敗します。
成功させるためには「多面的事実」に着目することが有効です。


●経営者が見るべき「多面的事実」とは?


では、成功する戦略に必要となる多面的な事実とはどういったものでしょうか。

そもそも「事実」には、3つの種類があります。1つは、自分の過去の経験にもとづく「これはこういうものだ」といった思い込み(レッテル)や感情を経て見る事実。
2つめは、1つめに述べたような過去の経験による思い込みや感情に縛られずに見る事実。3つめは、多様な人たちが、それぞれの立場から、多様な感情を踏まえて見ている多様な事実です。

戦略には、この3つめの方法で見る事実が必要です。

経営者の立場で見ている事実と、現場で見えている事実は違いますし、その事実に対する解釈も人それぞれ違います。各々の解釈を集めることで、ようやく見えてくるのが「多面的事実」です。

たとえば、経営者は「会社全体をどう最適化するか」という視点でものを見ます。
一方、従業員は「目の前の仕事をどう最適化するか」という視点でものを見やすいです。

『売上が下がっている』という同じ事実に対しても、たとえば経営者は「このままではまずいから、客層を広げないといけない」と見るのに対して、従業員は「いまの人数では、もうこれが限界」と見ていることがあります。


(図1)経営者と従業員では同じ事実でもとらえ方が異なる


ここでのポイントは、事実に対して、両者ともに間違っているわけではないという点です。
従業員が「いまの人数では、もうこれが限界」と考えていることに対して、経営者が経営者視点で一方的に、「従業員がもう少し全体視点を持つべきだ」などと批判しているだけでは、多面的事実は決して見えてきません。

大切なのは、「従業員は限界だと思っている」という事実を、現場の“事実”として、まずはそのまま受け止めることです。
そして、自分の“事実”のほかに、従業員の“事実”も踏まえた、多面的事実を受け入れた上で、「ならば、どうすべきか」を考えることが必要です。

2つの視点で多面的に「事実」を見て、現場の“事実”を受け止めることにより、立体的な問題(多面的な事実から導き出される本質的な問題)を捉えることができるようになります。

そして、この多面的事実を捉えるためには、経営者自身に「共感的傾聴のスキル」と、組織内に「参謀の役割」が必要不可欠です。

どんなに優秀な戦略家であったとしても、多面的な事実の汲み上げのない戦略は失敗します。膨大なコストと時間をかけてつくった戦略であっても、実行する前にすでに失敗が確定しているようなものです。
そのため、経営者は、多面的事実を捉えることが喫緊の課題と言えます。


次回のコラムで、解決策となる、共感的傾聴スキルを身につけるためのヒントと、多面的事実を捉えるために必要な、また、捉えた「事実」を機能させるために必要な「参謀」の存在について説明したいと思います。

辰巳 和正

辰巳 和正(たつみかずまさ)

大手金融会社管理職で組織変革の経験をもつ。2015年7月、スコラ・コンサルト代表取締役に就任。

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