ここでご紹介するのは、全社で風土改革に取り組んでいる100人以下の会社の話です。
若手社員が受け身ではなく自ら改革の当事者になり、会社や仕事に対して感じていた問題を自分たちが考え、主体的に変えようと行動を起こしました。

自分たちの意志で動きながら視野を広げ、成長を手に入れていく若手たち。
規模の大きい会社でも、部課の組織サイズで若手育成の参考になりそうです。

前編では、熱い思いを持った若手社員が新しい動きを起こしながら変化していくプロセスを紹介します。
時間をかけて活動をしていく中で、彼ら自身にどんな変化が訪れたのでしょうか。

何が彼らを動かしたのか

会社任せではなく、自分たちも風土改革の担い手になろう。
若手社員たちが活動に参画した理由はさまざまでした。会社に対する危機感があったからという人。
自分たちの会社のために何かをしたい、会社の未来にかかわっていきたい、社内でネットワークをつくりたいという人。
経験の浅い彼らなりに感じている問題、会社に対する夢や思い入れもありました。

今日、多くの企業が事業をとりまく外部環境の変化に危機感を募らせています。
少なくとも経営層や管理職レベルでは、市場の変化をとらえてビジネスのあり方を見直す、刷新や変革が必要だという認識は共有されているでしょう。

ところが、係長、担当者クラスの立場では、上司を通じて入ってくる情報もスクリーニングされた確定事項や指示内容が中心になりがちです。
業界がどう変わっていくのか、それに会社はどう対応していくのか、自分たちはこれからどうなっていくのか。
自社に関する事実情報は案外少なく、全体が見えないがゆえに感じる不安があります。
もうひとつは内部の問題です。
規模の大小を問わず、多くの会社にも見られる縦割り組織の壁や目に見えない立場の壁、コミュニケーション不足による上層部と一般社員との隔たりなど、組織が抱える不透明感に対し、現場の若い社員たちはモヤモヤしたものを感じていました。

このような現状に対する違和感や問題意識が、じつは“改革”のための健全なエネルギーになるのです。

自主的な改革を前進させる3つの要因

若手の改革グループによる活動は、経営層と管理職層による現状認識の共有や課題設定の議論、改革の推進体制づくりなどが進められた後の、1年後にスタートしました。

最初に行なったのは、それぞれの思いを語ることから始める自由参加のオフサイトミーティングです。
毎週のように開くオフサイトミーティングには、会社の未来を考え、活動していきたいという思いを持つメンバーが部署を越えて集まりました。

組織横断のメンバーがいろんな話をする中では、「他部署はそんな仕事をしていたんだ」「そんな状況だったんだ」という気づきがあります。
そして、それを生かして前に進めていこうとするメンバーがコアになり、これからの活動イメージをみんなで描いていきました。
自分たちから見えている問題を整理し、こんな会社・組織にしたい、こんな活動にしたいなど、それぞれの思いを共有し、統合したストーリーとして形にしていったのです。

若手社員にとってはなかなか勇気のいることですが、役員に直接相談にも行きました。
活動の理解者であり支援者であるスポンサーになってもらうためです。
改革のような答えのない取り組みにおけるスポンサーは、実行メンバーが組織的なアドバイスを求めたり、人や場をつないでもらったりする、とても大切な存在です。若手の自主的な活動には、上層部はどう感じるだろうかという不安がつきものですが、実際には彼らの思いを理解し、サポートをしてくれる人が多かったと言います。

熱量高く「自分たちなり」の活動を模索する日々。広報チラシの掲示や、声かけなども行ないながら、活動は順調に広がっていきました。
その頃には、分科会などの勉強会にも多くの人が参加するようになり、仲間が増えて盛り上がっていきました。

ところが、1年半を過ぎる頃になると、熱量の変化、停滞感が出てきました。
それに伴って、話し合いの参加者が減ったり、開催間隔が空いたり、本来の忙しさもあって、改革グループの活動休止という声も聞かれるように……。自主活動に訪れた最初の危機でした。

そんな折、一時的に活動を休止していた仲間が戻ってきました。彼には、グループから離れ、客観的に活動を見ていて感じるところがあったのです。
その彼を加え、思いを持ち続けていたメンバーが再び原点に帰っての思いを徹底的に話し合いました。

モヤモヤしたら、いったん立ち止まって考えてみる。
これまでの活動をふり返り、さらに「この先何を実現したいのだろう、何をしたいのだろう」といった、そもそもの話をする機会を持つことで、自分たちが本当にやりたいことが見えてきました。
メンバーが発する言葉もポジティブになり、新たな気持ちのもとに再びチームが動き始めました。

次のステージに向かうタイミングで訪れる、改革の踊り場を越えたのです。

経験上、自主的な改革活動に取り組むチームが停滞を乗り越えて進んでいくためには、以下の3つの条件が必要です。

(1)意見を言い合える仲間

自分たちの意思と思いで自ら進んで活動をスタートさせるためには、仲間の存在が不可欠。
いい会社で働きたい、いい会社にしたいという思いを共有し、本心から真剣に意見を言い合える関係の仲間がいるからこそ、答えの見えない活動に踏み出すことができる。

(2)方向性を指針として共有する

若手メンバーは、活動の方向性や目的について納得のいくまで議論し、グループの活動指針にした。さらに、その内容を「ロードマップ」として具体化、明文化したことで、停滞感を突破するきっかけや次のステージへの足がかりにもなった。

(3)スポンサー

先行して経営層と管理職層が議論をスタートし、改革に対する認識が形成されていたことで、若手の活動に対する理解、協力を得ることができた。

視座が変われば、思わぬ自分に出会える

活動が停滞したときも、あきらめることなく粘り強く活動を継続していったことで、彼らが手に入れたもの。そのひとつが「視座の高さ」でした。
視座とは、いろいろな立場、観点(視点の高さ)から物事をみること。
それを彼らは自ら動くことで身につけたのです。

では、彼らはどうやって視座を高めていったのでしょうか。

最初は“自分の立場から見える景色”である「個の視点」でしかありません。
しかし、部署間など横のつながりがある人と対話をすることによって、物事を見る方向が変わるため、「視野」が広がります。
また、社内だけではなく、他社の風土改革に取り組むメンバーと交流することを通じ、客観的に自分たちを見る機会を持ちました。
そして、他者の異なる意見、さまざまな「問い」に対して考えを深めることで、多様な見方ができるようになり、「視座」が徐々に高まっていったのです。

彼らは活動を通して、立場が全く違う役員や部課長と対話をすることが増えました。
その考え方に触れることにより、さらに視座が高まっていきます。
こうした縦のつながりを持ったことで、より広い情報を得られるという効果も生まれました。

改革によって手に入れたものとは?

風土改革を経験することで、若い社員は大きく変わっていきます。
たとえば、今までは考える範囲が「この先の自分はどうなっていたいか」だったものが、「5年後、10年後の会社はどうなってほしいのか」「その中で自分はどんな仕事をし、どんな価値を提供しているのか」というように、主語や時間軸を変えて考えることができるようになり、扱う課題のレベルも上がっています。

視座の変化と同時に、当事者としてのものの見方や行動、会社や仕事に対するオーナーシップが形成されていくのです。

その後、改革グループのメンバーは、社内のコミュニケーションの活性化にも一役買うようになりました。
オフサイトミーティングで気楽に話せる場を設けたり、社長と社員との対話の機会を増やしたり、さらには会社の年度計画説明会で、理解を深めるための場のコーディネートをするといった大切な役割を担っています。

改革グループ内のミーティングでも、過去、現在、未来と、いろいろな角度から議論を深め、板書を使って議論の内容をまとめることも日常的になりました。
以前は論点がそれてしまうと、そのまま脱線しがちだったのですが、軌道修正もできるようになり、自分たちで議論をコントロールするファシリテーション能力も身につけています。

これらの成長は、会社が見守る中で、彼ら自身が選び取り、手に入れたものに他なりません。

若手社員がやみくもに現状を否定し、一方的に問題提起の主張をする側に立っているだけでは、改革は進みません。経営の考え方を理解し、上層部もまた若手の意見に耳を貸す、という相互理解の姿勢がベースにあることが大切です。

次回、後編では、若手社員が現場層で展開していく改革の進め方について、大まかな流れやステップ、ポイントなどを取り上げて紹介します。

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