経営陣がチームになってこれまでの経営の価値観を問い直し、同じ方向を向いて自ら変わろうとする姿勢を示すこと。その姿が社員の共感を呼び、社員のほうでも変わろうと動き始めます。そして、その変化を受けて、経営がさらに変わっていく。
持続的な改革というのは、誰かが誰かを変えようとするのではなく、常に自分も変わろうとする経営と社員、両者の相互作用で進んでいくのだと思っています。

なぜ経営がチームになる必要があるのか?

かつて既存のビジネスによる安定成長が見込めた時代は、会社としてやるべきことが明快であり、それを各部門が分担して確実にやりきることで成果を得ることができました。担当役員にしても自部門の目標達成という責務を全うすることが最優先で、全社の役員というよりも部門長としての意識が強かったのです。

「各々が与えられた範囲内でやるべきことをしっかりやることが第一義」という価値観が会社全体の成長に寄与しているうちは、役員同士がヨコでつながる必然性があまりなく、役員同士の関係性も「お互いに余計な干渉はしない」という相互不可侵の状態でした。時代性として、経営がチームになる必要性に乏しかったのです。
(こうした組織の最上位にある役員同士のありようは“上に従う”上下関係を通じてすべての階層に及んでいきます)。

しかし、今のような変化の激しい環境下では、多くの業界において既存ビジネスの劣化が進み、日本企業には新たな価値で市場を創造していくビジネスへの挑戦が求められるようになっています。特に、既存事業のブランドで確固たる地位を築いてきた大企業にとって、デジタル時代に対応するビジネスモデルの変革は大きな課題です。

今までにない新たな価値をゼロから生み出すアプローチには、「これをすればよい」という正解はありません。知識・経験豊富なトップといえども、何をどう変えればいいのか、確固たる答えを持っているわけではない。それを前提とするなら、経営がチームになって自社なりの答えを手探りでつくっていくしかありません。

役員同士がめざす方向性をしっかりと共有し、衆知を集めて仮説を立て、試行錯誤をしながら答えをつくり込んでいく。このような前例踏襲とは違うプロセスは創造的なものであり、多くの経営にとっては未経験です。それを実行するためには、まったく新しい価値観を取り入れて挑戦していく経営チームが必要になるのです。

根本からの改革は「経営の価値観」の問い直しから始める

新たな価値を生み出す会社になるために経営としてやるべきことはたくさんありますが、アフターコロナのような転換期の改革においてカギになるのは、安定成長の時代に培われた組織のOSに相当する「経営の価値観」を問い直すことでしょう。

図表(組織の氷山モデル)でいえば、水面上の目に見えやすい部分が組織のアプリケーションだとすると、水面下の目に見えにくい深部にあるのが組織のOSです。根本から価値観を変えていくような改革では、水面上のハード部分を変えるだけではなく、事実上の組織を動かしているOSと一体で会社をバージョンアップしていくことがポイントになります。

というのも、社員の思考・行動様式のさらに深層には「経営の価値観(経営者は何を大切にしているのか)」があります。社員は、建前の方針や行動規範に沿って動くのではなく、上司や業務の日常を通じて経営の価値観を感じ取り、それに逆らわない判断や行動を選んで動きます。
最悪の例ではありますが、重い行政処分が下されたビッグモーターの社員は、建前で掲げている「お客様第一」よりも、歪んだ経営の価値観に沿った行動をとり、その実態が明るみに出た途端に会社は崩壊しています。会社に対する社員の強い不信感というエンゲージメントの糸が切れた状態で営業を続けても、やはり限界があるということでしょう。

社員を変えようとする前に

経営の価値観が社員の思考・行動様式に大きく影響し、リアルな経営に跳ね返っているということを経営者は強く自覚しておく必要があります。
「うちの社員には意識改革が必要だ」と口にする経営者は少なくないのですが、“社員を変えようとする前に、まず自らの経営の価値観を問い直す”ことが全社風土改革の出発点なのです。

具体的には、以下のようなことについて問いを立て、役員同士が対話をしながら認識を合わせていきます。こうした対話のプロセスを通じて、価値観やめざすものを「軸」として共有する全社視点の経営チームになっていきます。

・これから自社がめざす方向性をしっかり共有する
・これまで経営が大切にしてきた価値観を自覚する
・これからも大切にし続けるもの、変えていくべきものを明確にする
・自社がめざす方向性と、トップマネジメントのあり方の整合性をとる

役員同士で行なうこうした対話を通じて、経営がチームで変わろうと努力する姿を見せることで、会社に対する社員の期待や共感も生まれてきます。経営と社員が互いに向き合って“一緒に変わろう”という全体的な気運は、こうした経営のアクションによってつくられていくのです。