クロスオーバー型課題設定のススメ(後編)~実行の質を上げる課題を見つける〈8Dコンパス〉

クロスオーバー型課題設定のススメ(後編)~実行の質を上げる課題を見つける〈8Dコンパス〉

塩見 康史 | 2018.04.30

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前編では、変化の激しい時代に企業を成長・進化に導くためには、クロスオーバー型課題設定が必要だと述べました。
今回は、そのために用いるフレームワーク「8Dコンパス(エイトディメンションコンパス)」を紹介します。


●8つの面から経営の現状を見る

「8Dコンパス」のフレームは、図のように、ハード領域とソフト領域に分かれた8象限から成るものです。

 

右象限は業務に直接かかわる領域であり、経営者にとって把握しやすく、対策を講じやすいのではないでしょうか。
それに対して、左象限は、メンバーや組織の内面に関する内容であるため、“目に見えにくい”領域になっています。

〈左象限〉
・想いの源泉(ミッション)
組織のメンバーが、社会や顧客、自社に対して、心から願っている想い

・ビジョン
ミッションにもとづき、将来のある時点において、自社がどうなっていたいかという絵姿(ビジュアル・イメージ)

・コミュニケーション
個人間・組織間での意思疎通プロセスのあり方

・企業文化
組織のメンバーを制約している暗黙の思考行動様式

〈右象限〉
・戦略
ビジョン実現のための最適なアプローチの構想

・商品・サービス(提供価値)
顧客に対する価値提供プロセスのデザイン

・業務プロセス
提供価値を顧客に届けるための効率の良い業務プロセスのデザインと運用

・マネジメント・プロセス
人の力を最大限に発揮させるためのマネジメントのスタイルや仕組み


8Dコンパスは、会社や組織の現在位置や今後の課題を広い視野から問い直し、再設定する時などに活用すると効果的です。

前回でふれたように、経営の視座として必要な「全体」を見るためには、それぞれが自分の担当する専門分野や得意分野だけを見るのではなく、また左右の領域を別々に取り上げるのではなく、8つの面から相互の関わり合いを見た「全体」を現状として認識することが大切なのです。


●「内面的な領域」が人を動かす原動力に

経営に関する論議をする際に、あまりスポットが当たらない部分なのですが、実は左象限の内面的な部分はとても大切です。
戦略を打ち立てたとしても、その企業の文化やメンバーが持つ想いにギャップがあると、組織はうまく動いていきません。
いくつか例を挙げながら説明していきましょう。

たとえば、TPS(トヨタ生産方式)のような業界の中で成果を上げている“ものづくり”の方法をベンチマークしたとします。
でも、その方法だけを真似しても、たいていはうまくいきません。
一時的には良くなるものの、いつの間にか、元のやり方に戻ってしまいます。

なぜなら、TPSは単なる業務プロセスだけの話ではなく、改善意欲の高い社員のマインド、メンバーを改善へ向かわせるマネジメントスタイル、改善を当たり前のことと考える文化など、「8Dコンパス」の“業務プロセス以外の象限” に支えられて、はじめて機能するからです。

また、たとえば、営業部門の業績が悪いときに、業績不振の原因は営業社員の頑張りが足りないからだと考え、メンバーを叱咤激励したとします(「8Dコンパス」左象限への働きかけ)。
しかし、業績の悪化の真の原因は、商品の魅力が低下していることかもしれません(右象限)。

このように、「8Dコンパス」で、広く左右の象限、また各象限間の相関性を読み解いていくと、何が本当の問題であるかが見えやすくなります。
当初考えていた象限とは違う象限に本当の問題があったということも多いのです。


●現状打開の糸口になるのは質の高い課題設定

「8Dコンパス」を使って議論すると、メンバーの認識の違いがくっきりと浮かび上がってきます。
たとえば役員層で「8Dコンパス」を使って議論すると、戦略が問題だと考えている人、制度が問題だと考えている人、企業文化が問題だと考えている人など、最初は認識がバラバラであるのが普通です。
しかし、議論を通して認識をすり合わせていくことで、問題の真因や今後の課題についての共通認識が徐々に形成されていきます。

財務、人事、営業など、特定の専門分野で成果を上げてきた部長クラスであれば、「8Dコンパス」の全領域に広がった視座を持つことにより、より会社を俯瞰してみることができるようになります。
他の専門分野との連携を深めることで、さらなる成果を出すことにもつながっていくのではないでしょうか。

また、「8Dコンパス」を使うことで、メンバーに会社がめざす方向とそのための道筋を説明しやすくなります。
自社のビジョンや、そのビジョンを実現するための戦略、企業としての目標などを「8Dコンパス」の視点から、一貫したストーリーとして社員に語ることで、メンバーは、自分が今やっている業務の位置づけや必要性を理解できるようになります。それにより、 現場のマネジメントもしやすくなるのです。
ビジョンや戦略がより浸透していくことが、結果的に戦略の実行力を高めることにもつながっていきます。

企業の現在位置を広い視野で見ることができることから、未来のことや新しいことを考えたい時、思い切ったトライをしてみたい時などに使ってみるのもいいかもしれません。

私は、「8Dコンパス」のような複数の領域を見渡して考えることができる人が増えると、次世代を担う経営者が生まれやすくなると考えています。
変化の激しい時代には、課題設定の質を上げることが必要です。
複数の領域にまたがるクロスオーバー課題を見つけることで、課題設定の質は大きく向上し、実行の効果を高めることにもつながるでしょう。

複雑な現実を単純化せず、絡み合った全体を見ながら課題をリアルに捉えることができる「8Dコンパス」。
このフレームワークを適切な課題設定の糸口としてぜひ活用していただければと思います。

著者プロフィール

塩見 康史

塩見 康史

YASUSHI SHIOMI

人間や事業についての幅広い知識を駆使して、お客様と一緒に本質的な課題を多元的な視点から洞察する。バラバラで混沌とした状態から創造力豊かな仮説を構築する。

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