パナソニックがもともと持っている基盤を活用する

礒貝 私は転職してきたからわかりますけど、パナソニックは経営理念が社員たちに浸透しているのが大きな強みだと思うんですね。経営理念を通して共通言語ができている。例えば「衆知を集める」とか。

三好 「組織開発は、衆知が集まる組織づくりが目的の一つです」と説明すれば、パナソニックの方ならピンとくる。本音の対話も、松下幸之助さんが言われた「素直な心」につながります。

礒貝 共通言語があるのは大きいですね。

三好 パナソニックでは、組織開発の基本サイクルを「衆知マネジメントサイクル」と命名して、マネージャー層のマネジメントリテラシーとして定着させる試みもしていますね。

礒貝 衆知マネジメントサイクルの図は微生物の「ゾウリムシ」に似ているので、最近は愛称の「ゾウリムシ」で共通言語化しています。

河村 創業者の「水道哲学」みたいに、組織開発は一企業だけでなく社会全体に影響を与えるのではないか、と思っているんです。私たち自身もその精神にのっとって地道な努力を重ねて社会貢献につなげていきたいと思っています。

三好 先ほど事例に出た従業員意識調査は、事業会社や事業部で経営指標として根づいていますね。それを組織開発の成果指標の一つとして活用しています。そしてもともと職場に定着している「職場懇談会」というしくみを使って、組織開発の基礎となる「対話」の場をうまく広げていて、抵抗感なく受け入れられています。
誰でも新しいことには抵抗しがちですが、既存のしくみをうまく使えば、導入しやすいし、賢い戦略だと思います。

組織開発事務局としてのよろこび

 

三好 組織開発の事務局として、どんなときに支援の楽しさやよろこびを感じますか?

戒能 ありすぎて困るんですが(笑)。
思うように進まなくても、諦めずにかかわっていくと、組織が変わる瞬間って絶対あるんですよね。その場に立ち会えたときは「ああ、やってきてよかった」って無茶苦茶うれしい。これがあるから、大変でもやめられへんみたいな。

礒貝「自分たちの可能性を信じてやってみます」みたいな声が聞けたときは無茶苦茶うれしいですね。手応えを感じているとわかる瞬間。表情がイキイキしている人を見ると「やってきてよかったな」と思います。

河村 仲間が増えたときも、うれしいですよね。1人が声を挙げて、別の人が賛同して一緒になるといったことです。

三好 逆に凹むときはありますか?

河村 自分のバイアスで組織やメンバーたちを見てしまって、あとで「ああ、そうじゃなかった」と気づいたときですかね。取り組む人の力や可能性を信じていない自分に気づいたとき、落ち込むことがありますね。

礒貝 組織開発の結果が見えてくるまでの時間が長いことをつい忘れがちで、じれったくなっちゃうんですよね。
でも、待つしかないんです。組織とメンバーを信頼してずっと待ちつづける。信頼と待つことの両方が必要だなと思っています。

三好 職場の1人ひとりがもつ主体的な思いを理解したうえで、信じるということですかね。

戒能 自走のために手間暇かけて体制をつくり、組織開発の実践者も育ってきたのに、トップ交代で一気に方針転換することがあります。振り出しに戻ると言ったら語弊がありますけど、急に活動がストップして、努力して積み上げてきたものが失われてしまうのはつらいし、空しさを感じます。まずトップから組織開発の意義を理解してもらうべきだという気づきでもありましたけど。

三好 大企業ではあるあるですね。定期的な異動によってトップが交代すると、方針がガラッと変わる。一生懸命つくってきた組織が元に戻ってしまう。
パナソニックでいえば、組織に最も影響をもつ事業部長クラスに、組織開発を理解してもらう必要はありますね。 事業にとっての意義、働く人にとっての意義を理解してもらうことも非常に重要です。
あと、対話や組織開発の基本サイクルを、パナソニックのルーティンやカルチャーにして定着化させるということ。そのために組織開発をさらに戦略的に展開していくということが、これからの皆さんのチャレンジ課題ですね。

本日は、事例も含めて皆さんの活動を詳しく伺いました。大企業で組織開発の取り組みを考えている方には、参考になるポイントがいくつもあったと思います。
パナソニックの組織開発も、今後の展開が楽しみです。また、時期を見て成果について聞かせていただきたいと思います。
本日はありがとうございました。

     松下幸之助創業者旧私邸 『光雲荘』 にて