インタビュアー
三好博幸[株式会社スコラ・コンサルト プロセスデザイナー]

 

 

 

 

事務局全員が手挙げで集まった有志メンバー

(以下敬称略)

三好 パナソニックグループ全体の組織開発を推進する専任部署として、まずどのような体制で活動されているのでしょうか。

礒貝 室長の前川と私たち3人の4名体制です。
2015年に技術者だった大西達也さんが、当時の社長に直訴メールを送ったことが、組織開発専任部署設立のきっかけでした。大西さんの問題意識は、「優秀な人材が揃っているのに、なぜ事業成果につながらないのだろう。原因は組織にあるのではないか」というものでした。志願して人事部門へ異動し、組織開発の専任部署をゼロから立ち上げました。
現在の前川室長は経営企画にいて、日頃から付き合いのあった大西さんと同じ問題意識を共有していたので、専任部署の立上げ直後に手を挙げて合流しました。
2018年に戒能と私が参加して2人から4人になり、22年に大西さんが退職してしばらくは3人体制でした。今年4月に河村が異動してきて現在の4人体制になったという経緯です。

戒能 私は入社してから長年技術部門に所属していましたが、その後調達部門に異動しました。
様々なチームで仕事してきた中で、チームワークで成果をあげている実感があったチームもあれば個々人でそれぞれが仕事をしていたチームもあり、そのチームでは自分のポテンシャルも全く発揮できなくて自己肯定感がどん底まで下がっていた時期もありました。
「チームワークを発揮して仕事するって、私にとってはとても大切なことだと感じているけど、どうしたらそんなチームになるんだろう」と課題意識をもっていた頃、ちょうど組織開発担当の社内複業の募集があって、すぐに「やりたい!」って手を挙げました。

礒貝 私は中途採用でパナソニックグループに入り、当時は監査の仕事をしており「チームによるパフォーマンスの違い」がずっと気になっていました。「なぜこんなに差が出るんだろう」と考えていたとき、社内のイントラネットで組織開発のページを見つけました。
組織開発について調べたり、勉強会に参加したりするうちに、チームのパフォーマンスを高める支援が仕事にできたらいいなと、社内異動の募集に応募しました。

河村 私は2023年3月まで事業部内の人事を担当していました。当時の上司と事業部に組織開発の取り組みを入れていこうということになって、組織開発推進室が主催していた事業場人事向けODP(Organization Development Practitioner:組織開発の実践者)の養成講座を受けたんですね。
事業部人事担当の前に労働組合の専従役員を務めたことがあり、個人と組織の声を拾って経営提言をまとめていたので、対話によって声を集めることの意義は、体感的にわかっていました。
講座などで勉強するうちに、本格的に携わりたいと思うようになって、希望して現在の全社事務局のメンバーになりました。

礒貝 大西さんがいた頃から「一番大切なのは熱だ」と、メンバーの思いや自発性を重視してきました。知識やスキルはあとからついてきますが、組織開発への情熱は教えられない、ということですね。

三好 他社ではたいてい人事部か経営企画部の方が役職としてアサインされますが、パナソニックの場合は、組織開発への思いをもって自ら手を挙げて来られた方ばかりなので、情熱を感じますね。

大企業の組織開発事務局 三つの役割

三好 組織開発推進室は、どのような役割を担っているのでしょうか?

礒貝 私たちが掲げる組織開発の定義「人と組織がもともと持っているポテンシャルを引き出すことにより、成果と自己実現を促進する活動」のためなら、何でもやるというのが基本です。
中心になるのは、各職場の直接支援で、現場から相談を受けてはじまることがほとんどです。職場の責任者や主なメンバーにヒアリングし、一緒に作戦を練るなど、当事者に寄り添って活動をリードしていきます。

三好 組織開発の社内コンサルタントといった立場ですね。

礒貝 二つ目の業務は、活動が軌道に乗ったあと自走していくための支援です。ODPなど各職場に組織開発の実践者を育てる講座は初級、中級、上級があります。
組織開発は「自分たちの職場は自分たちでよくする」が基本精神なので、各職場に実践できる人を育てなくてはいけません。あるいは、「対話の新しいツールをつくったから使ってみてください」と提供することもあります。私たちが直接リードできない場合に、職場ではじめられるしくみも考えています。

戒能 入門的な社内の普及活動、啓発活動もありますね。私たちがイントラで組織開発室のページを見つけたように、まず知ってもらうことが大切です。ホームページの運営、メルマガの発行、勉強会やフォーラムの開催、ガイドブックやパンフレットの制作など、リアルとデジタルを組み合わせて情報提供しています。紹介動画といって、ある職場の支援風景を撮影して「こんなふうに活動していますよ」とホームページに動画をアップしたり。

礒貝 交流会もありますね。「職場を変えたい」という思いが強くても、1人では進められません。仲間とつながる場を提供しているんです。

三好 お話を伺って、三つのアプローチがあることがわかりました。
一つ目は、個々の職場に直接かかわりながら組織開発を支援していく。「状況を見ながら、これをやってみましょう」と一緒に知恵を絞る伴走型の支援です。
二つ目は、各職場が自力で進められるように知識、スキル、ノウハウを提供して、組織開発の実践者を育てる。
三つ目は、普及と理解促進。まだまだ組織開発の認知度は高くないですからね。「組織開発とは何か」「何の役に立つのか」といった基礎から理解を深めてもらうことは、自主性・主体性を重んじる組織開発ではとくに重要ですね。
この三本柱は、とりわけ大企業では欠かせないアプローチだと思います。