導入から13年で100回を超えた人財育成プログラム

TOPPANグループの「未来創発プログラム」は2012年にスタートし、2024年10月に第100回を迎えた。グループ各社から毎回30人が参加し、過去の受講者はすでに2800人を超えている。
受講者は10人ずつ3チームに分かれ、所属会社や事業領域、担当業務が異なる多様なメンバーが2日間のグループワークを実施。事前課題として、自身が担当する日々の業務について「提供価値」「コア・コンピタンス」を分析し、資料をまとめて参加する。
1日目は、自分の担当業務について互いに紹介し合い、そこから対話を通じて、TOPPANグループのもつ提供価値とコア・コンピタンスを掘り下げていく。「自分視点」「機能価値視点」で考えてしまいがちな仕事の意味や価値を、対話を通じて徹底的に「顧客視点」「経験・情緒価値視点」に転換していく。また、「なぜ、その価値を生み出せているのか」を深く考え、自分たちが保有しているのに気づけていない独自の能力やナレッジを言語化していく。
2日目は、1日目に深く掘り下げたグループ各社のコンピタンスを組み合わせ、チームごとに新たな価値創造に取り組む。新しい提供価値を生む新事業のアイデアを出し合って1つに絞り、マーケティング面やマネタイズ面、技術面などのチームに分かれて具体的な事業プランを作成。完成した事業プランを他チームにプレゼンし、質疑応答やディスカッションを進める。このプロセスを通じて、さらにアイデアがブラッシュアップされていく。
13年間、未来創発プログラムを積み重ねてきた成果としては、300件を超える事業プランが生まれている。

HRD未経験者に託された人財開発体制の刷新

スタート時から責任者を務めてきた巽庸一朗(たつみ・よういちろう)人財開発センター長は、プログラムの背景にあった課題意識を次のように振り返る。
「若い人財が、当社の未来を自由に語り合う場をつくることが経営の意向でした。当時の課題は、若手社員がグループ内の広い事業領域を理解する機会が少ないことでした。自部門の事業領域はわかってもグループ全体については見えにくい。上場企業を含む多数の会社があって、上級管理者でもグループ内のコンピタンスを深く理解することは難しい状況。既存事業の成長性、収益性が弱まるなか、若手人財がTOPPANグループのコンピタンスを理解し、未来の可能性を認識することは重要な課題でした」

巽さんが人財開発センター長に就任したのは、本社の人事労政本部内に同センターが新設された2011年4月。旧体制の人財開発部から組織変更されたのは、当時の金子眞吾社長(現会長)が示した経営方針に基づくものだった。「これから人財がますます重要な時代になる。設備投資を我慢してでも人財に投資する」という方針の下、人財開発体制の見直しが図られた。
巽さんは当時46歳。情報コミュニケーション事業本部事業戦略部長からの異動だった。1987年の入社以来、セールスプロモーション分野の営業部門で18年、事業戦略で5年のキャリアを積み、これまでHRD部門に所属したことはなかった。

人財開発センター長となった巽さんは、当時の社長から「当社ならではの豊かで美しい感性をもった人財を育成してほしい」とミッションを示され、人財開発体制の再構築に着手した。
この年の12月には、湯河原保養所をフルリノベーションして「TOPPAN湯河原研修センター」がオープン。同時に、従来からあったTOPPAN川口研修センターがフルリニューアルされ、2012年4月からは都市型の川口研修センターと郊外型の湯河原研修センターが人財育成施設の両軸となった。

優秀な社員が優れたアイデアを生みだす環境

新しい人財開発体制で最初に企画されたのが「未来創発プログラム」だった。同プログラムは、新設された湯河原研修センターで実施する泊りがけの2日間研修としてスタートした。
「センター長に就任した際、当時の金子社長から言われたことがあります。『センター長だからといって教えようとするな。うちの社員はみんな優秀だから、おいしい食事と気持ちいい温泉を用意すれば、素晴らしいアイデアを思いつくはずだ』と。1日目の研修が終わって懇親会をはじめる挨拶で、いつも受講者に社長の思いを伝えました」

保養所から湯河原研修センターにリノベーションする際、屋上はウッドデッキテラスに改装され、季節のよい時期はビアガーデンのように湯河原の夜景を楽しみながら自由に歓談ができる環境とした。懇親会では、刺し身の舟盛りなど魅力的な料理を出し、参加者には好評だった。

「若手社員が時間を気にすることなく語り合える場をつくる。既存部門の強みを深く理解し、互いに連携して総合力を発揮することで、新たな価値創造を実現する」
巽センター長は毎回、経営がこのプログラムに寄せる大きな期待を受講者に説明した。
「コロナ禍で合宿形式からオンラインによる2日間研修になりましたが、プログラムの大きな目的は現在まで変わっていません」