市場や社会がかつてないほど大きく変化しています

ビジネスモデルの転換を本気で実現したいと考えているなら、社員の考える力を取り戻す環境整備を、経営方針とセットにして準備する必要があります。

1990年代に、スコラ・コンサルトはそれまで漠然と捉えられていた組織風土改革の諸概念を明確に示し、組織風土改革の道筋を切り開いてきました。1998年に『なぜ会社は変われないのか』をはじめとする風土改革シリーズが出版された影響もあり、21世紀以降今日まで、スコラ・コンサルトの社会的影響力は(まだまだ不十分であるとはいえ)以前に比べると飛躍的に大きくなってきた、と思います。

21世紀に入ってからの10年は、世界的な経済危機に何度も直面しながら、ほとんどの企業にとって以前にもまして厳しい経営環境が続いています。絶え間のない国際競争にさらされる中で、業績確保を優先すべくデータに基づく管理を極限まで強め、コストカットに励む米国仕込みの経営を無条件に取り入れる風潮が強まっていることは否定できません。そして、こうした風潮が社員の疲弊をもたらし、メンタルな問題を抱える人間をかつてないほど急増させています。

このことが、日本経済の体力を見えないところでその根元から腐らせつつある、といっても言い過ぎではないと思います。

他方、日本的な経営の強みを存分に生かし、働く人々に光を当て、その能力を最大限に引き出すことで業績を伸ばしている企業の数も(まだまだ少数派ではありますが)確実に増え続けてきています。

 

バブル経済の崩壊後、ビジネスモデルの転換の必要性が声高に叫ばれ始めてから、すでに20年もの時間が経過しています。しかし、事はそれほど簡単ではありませんでした。「こうすればうまくいく」という画一的な企業成長モデル、経営のお手本がない時代には、ビジネスモデルのドラスティックな転換が思いどおりにできている成功例を探すこと自体が、そう簡単ではないからです。

結果として、ビジネスモデルの転換が不十分なまま業績確保に走ることが、社員の疲弊をますます加速させています。

これほど、あらゆるところでビジネスモデルの転換に努力の限りが尽くされているのに、なぜうまくいかないのでしょうか

市場の拡大期に通用したビジネスモデルというのは、当たり前ではありますが、そのビジネスモデルに見合った社員の資質や仕事の仕方によって支えられています。

たとえば営業職というと、たいていの会社では、靴の底をすり減らすことで成果が期待できた時代の名残が今も色濃く残ったままです。今でも営業職の多くが根性論の世界にどっぷりつかったままなのはそのためです。この世界では気合いとやる気が重視され、上下関係を大切にする人間関係のしがらみに人々ががんじがらめに縛られています。

問題なのは、こうした会社では「考える習慣」をほとんどの社員がまったくといってもいいほど持っていないことです。物事を真剣に深く考え抜く姿勢とはまさに対極にある文化が、そこには蔓延しているのです。

 

ビジネスモデルの転換を考えるとき、何が一番必要かといえば、じつは「考え抜いて仕事をする社員」です。前例にそったビジネスモデルならば真似をすれば済むわけですから、転換もそれほど難しくはありません。しかし、今の時代に必要とされているビジネスモデルのほとんどは、新しくつくり上げていくしかないモデルだからです。

こうした場合、仮に総論としてのビジネスモデルを経営者が描くことができたとしても、各論に落とし込んだ詳細設計は、仕事の現場でつくり込んでいくしかありません。つまり、オペレーションにかかわっている社員が考え抜いて知恵を発揮することで、はじめて出来上がっていくのが新しいビジネスモデルというものなのです。

この「考える力」と「それを発揮させうる環境」の欠如こそが、ビジネスモデルの転換を阻害している最大の要因です

組織風土改革のサポートという私たちスコラ・コンサルトの仕事は、社員が考える習慣を取り戻し、自身の手で問題解決を成し遂げやすくする環境整備のお手伝いである、ということが仕事を進めていく中で次第に明確になってきたのが、この10年でした。

そういう意味では、独り歩きしがちなオフサイトミーティングというものも、環境整備をするための道具だての一つです。社員の考える力を引き出す環境を整備する、という大きな目標の中に位置づけられていないと十分な効果を発揮しきれないことになってしまいます。

だからこそ、「社員の考える力を引き出すことが社員の働く幸せを充足させ、会社に底力をもたらすのだ」という全体感を持っている人が、経営者やキーポジションを占める人の中に一人でも多くなることが今一番必要なことなのです。

日本企業が「考える習慣」と「考える力」を取り戻すまでの道のりは、まだまだ遠いかもしれません。けれども私たちは、強い思いを持てば必ず道は拓けることを信じ、希望を持ってやり抜いていくことを決意しています。