毎月約200件もの苦情

お客様の立場より組織の立場を守り、「あるべき論」や「施策の正当性・意義」を主張してしまう。部門間の連携ができず、自分の担当範囲のみを義務的に回答する。しかも回答文には、お役所的な“慇懃無礼、答弁的”表現が並ぶ。これでは、回答を受け取る側はむしろ怒りが増し、再度苦情を言いたくなるのも仕方がありません。

このA市交通局は、昨年6月のメールニュースコラムで「研修を活用したお客様満足(CS)を高める組織風土づくり」と題して、CS推進の取組みをご紹介しました。以前より、CS推進リーダーを選び、CSをどう高めるかを考える場として、毎週各課でミーティングも行なっています。以前のメールニュースでご紹介した研修後も、「お客様の苦情を減らし、満足度を高めるにはどうしたらいいか」をテーマに、マネジメント層を中心に継続して取組んできました。
この交通局では、公聴や「お客様の声」に寄せられた苦情に対して、一週間以内に課長名で回答することになっています。担当者が用意した回答原稿に目を通し、お客様がどのような点に不満を感じているのか、現場職員の対応にどのような問題があったのか、課長が把握し、責任を持って対処していくという姿勢を示すためです。
このように、CS向上のために全力で取り組んでいるのですが、実際にはなかなか苦情の数は減らず、その内容の要因にも変化はありません。

そこで先日、課長層を対象に、お客様への対応力を高める研修を行ないました。苦情の背景にあるお客様の気持ちと考え方を理解し、お客様に寄り添う気持ち(共感力)を高める、さらに、それをどう伝えたらよいか表現力を養うことを目的においた研修です。実際の苦情事例を使って、どのような捉え方をしたのか、グループ討議で出し合いながら互いの認識を確認したのです。
その話し合いからは、立場を守ろうとする防御的姿勢が強く、こちら側の主張やできない理由を並べ、苦情を言ってくるお客様にも問題がある、という傾向が強いことがわかりました。また、「お客様の立場に立って」という建前で、マニュアルの定型文にそった表現で、きちんと説明すればわかるはず、という意識も共通して持たれていました。

苦情の対応はまさにその組織の風土を反映している

この事例を見ていると、苦情の対応はまさにその組織の風土を映していることに気づきます。
まず、CS向上以前に、組織の基本機能を確実に果たすことが「信頼」や「安心」を生みますが、その前提にあるもの、つまり、「自分たちの組織のミッションは何か」が職員に腹落ちしているかどうかということです。
また、日常業務のなかで「自分たちの組織のミッション」を考え、お客様の「不」をいかに減らしていくか、を現場職員が意識するようなマネジメントができているかということが問われます。実態は、管理職自身が目先の仕事に追われ、職員の指導・育成に時間とエネルギーをかけることができていないようです。そのため、現場でミスや不適切な対応が繰り返される、また、「これくらい…」と思われているためか、それらが報告されずに問題が放置されている、といった事態になってしまっています。苦情がきてから調べないとわからない、言われて初めてそんなことがあったのかと気づく、という仕組みや組織風土自体をどう変えていくのか、真剣に考えて組織に起因する問題を解決していかなければ、いつまでもお客様の苦情や不満はなくならず、「もぐら叩き」の回答文作成に追われることになるのです。

さらに、苦情は組織の成長の機会、原動力として捉えることができるかどうかということも課題です。お客様の立場に立つ、お客様の気持ちに寄り添う、という思考で判断基準が生まれ、背景にある事実を確認する行動ができてきます。「なぜこのような苦情が寄せられるのだろう」「お客様がこのような苦情を言う背景には何があるのだろう」、という問いを常にもってお客様に対応することで、苦情の連鎖を止め、未然の防止につながり、職員が「お客様満足」を実現する仕事をできる組織風土づくりにつながるのだと思います。

この研修後、少しずつですが、苦情を寄せたお客様の気持ちに寄り添って、何を本当は訴えているのか分析し、どこまで応えられるのかを組織として検討した上で、心のこもった回答をする人が増えてきました。

「お力になれず申し訳ございません。お電話を差し上げたのですが、ご不在のようでしたので、メールを差し上げました。お探しの品物が見つかることを願っております」
「ご利用いただきました際に、ご不快な思いをおかけし申し訳ございませんでした。・・・・貴重なご意見、ご指摘をありがとうございました。すべてのお客様により安全かつ快適にご利用いただけるよう、最善をつくして参りますので、今後ともご利用をお願いいたします」

回答文には、このような誠実な姿勢が表現され、お客様から納得や感謝のお礼をいただくようになりつつあります。
このような考え方や行動が全員に理解され、浸透すれば、きっと苦情は驚くほど減っていくことでしょう。