じつは、私はプロセスデザイナーであると同時に、作曲家としても活動しており、私の経験では作曲する時は確かに創造的な思考方法を使っています。
しかし、それは一部の人だけが授かる特別な力ではありません。
そのプロセスを知り、練習することで、誰もが身に付けることができる能力なのです。

創造的思考法とは、どのようなものなのか。そのプロセスを説明していきたいと思います。

思考のギアチェンジをしよう ~3つの思考を使い分ける

私たちは、通常、3つの思考法を使い分けています。

1つは「習慣的思考」。これは経験に基づいて反射的に考える思考スタイルです。
たとえば、毎日の歯の磨き方は、それほど考えることもなく、いつも同じやり方をしている人が多いでしょう。
日々、行なうすべてのことを熟考することは不可能なので、人間は知らず知らずのうちに、仕事でも私生活でも思考を極力省力化し、今までのやり方を踏襲しようとする傾向があるのです。

2つ目は「論理的思考」。論理的に正しいかどうかを厳密に検証する思考スタイルです。
論理的思考法によって習慣的思考法で行なっていることを見直してみると、じつはそれほど正しくないことがたくさん含まれていることに気がつきます。
論理的思考に習熟すると、仕事でも相当の成果を上げることができるでしょう。
ただし、論理的思考は既存の常識の枠内で考えるため、新しいアイデアを生み出すことには不向きです。

まったく新しいアイデアを生み出すために必要なのは、3つ目の創造的思考です。
客観的事実に基づいて合理的に考える論理的思考とは異なり、創造的思考は、人の脳が持つ直感や無意識の力を引き出して、新しい仮説を導き出すことができます。

創造的思考法3つのプロセス

(1)テーマの探求(クエスト)

興味があること、気になることを見つけたら、テーマとして自分の中にホールドしておきます。
そうすることで情報に敏感になり、自ら情報を集めるためのアンテナを立てるようになるのです。
そうすると、テーマに関連するさまざまな情報が自然と集まってくるようになります。

(2)情報の原石を磨く

集まった情報は、宝石でいうと原石のようなもので磨くことが必要です。
原石のままでは、普通のありふれた情報と見分けがつかず、“じつは貴重な情報”を見逃してしまうことになりかねません。

では、創造につながる貴重な情報とは、どのようなものでしょうか。

それは、“意外性”や“驚き”を含んだ情報です。当たり前の情報からは当たり前の思考しか生まれません。意外性や驚きのある情報をとらえ、その未知の可能性を深堀することで、新しい発想が生まれるのです。
そのためには、原石情報にさまざまな方向から光を当てたり、逆の視点(裏側)から検討したりと多面的に見てみると良いでしょう。

このような思考実験をしていくと、今まで持っていた思い込みが外れ、既成の概念にとらわれない、意外な事実、驚くべき事実がいくつか現れてきます。

そうやって情報を磨くことにより、「当たり前情報」のように見えていたもののうちのいくつかが、じつは「意外・驚き情報」であったということに気づくのです。

(3)満を持す

意外な事実を見つけたら、その「意外性」を大切に保持しながら「満を持す」ことを実践しましょう。
満を持すとは、弓をいっぱいに引き絞り、今にも矢が飛び出す寸前の緊張に満ちた状態を表現しています。

「意外・驚き情報」は、気になるもののそれが何であるかがわからないため脳にとっては緊張感のある状態で、「わかりたいのにわからない」「もう答えを知っていると感じるのにそれを言えない」という状態です。
ここで安易に従来の知識や常識を引っ張り出してきて自分を納得させようとせずに、この「わからない」という緊張状態をホールドすることが重要なのです。

そしてある時、ふとしたきっかけで矢は放たれます。突然、脳の中で情報が化学反応を起こし、「意外・驚き情報」を説明する、まったく新しい発想、アイデアが生じるのです。
新たなアイデアや発想、創発は、このようにして生まれてきます。
あえて「待つ」のは、受動的に見えますが、創発につながる能動的な行為なのです。

創造的思考プロセスは、複数の情報の化学反応という形で創発に至るケースが多いようです。

たとえば、あるテーマを探求している時に、意識に引っかかってきた「情報A」「情報B」(ともに当たり前情報)があったとします。
これらを磨くことで、「意外・驚き情報A」と「意外・驚き情報B」へと変化します。
これらの情報は、一見何の関係もないように見えますが、それを自分の中に蓄えながら満を持していると、ふとCという新たな概念が浮かび上がってくることがあるのです。

創造的な発想から生まれたポストイット

アメリカに本拠地を置く3M社では、強力な接着剤を開発していました。
その過程でできたのは、粘着力が弱い試作品。
もちろん、接着剤としては失敗作です。
しかし、研究者は、“弱い粘着力”という情報に何か感じるところがあったのでしょう。
簡単にはがれるその接着剤が「何かの役に立つのではないか」という考え(意外・驚き情報A)を思いつきます。

別の機会に、本から落ちるしおりを見て、ふと「本からしおりが落ちるのはよくあることだが、落とさないようにすることもできるかもしれない」という考え(意外・驚き情報B)を持ちます。

この2つの「意外・驚き情報」から、粘着力が弱い接着剤を使うことにより、本に貼り付き、落ちないしおりができるのではないかというアイデア仮説(新たな概念C)が生まれてきました。

そして、試行錯誤の末、まったく新しいメモ用紙であるポストイットの誕生につながっていったのです。

創造的思考のスイッチを入れてみよう

創造的思考を持つために必要なのは、自分にとって好奇心をくすぐられるテーマを持つこと。
テーマを持つことにより、情報のアンテナが立ちます。
そのテーマを時々、自分に問い返してみましょう。
もし、テーマがなかったとしても、自分が引っかかりを感じた情報はメモを残しておき、時々、ふり返ってみたり、統合してみたりすることも効果的です。

創造的思考を発動することは、新たなアイデアや発想が生まれてくることにつながります。
人間には、AIにはない直観力があり、大きな可能性を秘めているのです。

芸術家や音楽家など限られた職業の人だけが持つと思われてきた創造的思考。
そのブラックボックスになっていた構造を解き明かし、3つのプロセスを実践することで、創造的思考を身につけ、新しいことを生み出すきっかけにしていただければ幸いです。