企業を支援する中で痛感するのは、リーダーが長年働いてきた会社の中で成長し続けることがどれだけ難しいか、ということです。

「世の中に合わせて自分も変わらないといけない」とは言葉にしていても、どう変わればいいのだろうか、昔はうまくいったのになぁ、このやり方が俺流だから仕方がない、時代は変わっても自分らしさが大切だ…と、結果的には、今のままの自分で何とか乗り越えようとしているリーダーが少なくないのではないでしょうか。

事業の拡大・成長期に、部下や関係各所を指示命令やパワーで動かすことで結果を出してきた組織は、低成長経済下で事業の不振を乗り越えようとするとき、「自分で考えて動く人を育てられない」というマネジメントの悩みに直面します。

特に、事業成長に力を注ぎ、それなりの成果を上げてきた成功体験を持つリーダーたちは、これまでの自身のリーダーシップのあり方や職場マネジメントの仕方では、会社が期待するようには部下が育っていかないことに葛藤し、苦しんでいます。
そして、その原因は、リーダー自身の考え方や能力やスキルに深く関係しているのです。

しかし、葛藤があるなら、乗り越えることができるはず。
まだ、あきらめるのは早いのです。

数値結果だけじゃない、求められる「成果」が変わっている

何人かのリーダーにその葛藤の中身を尋ねてみると、

・部下とのジェネレーションギャップを感じて接し方がわからない
・部下の、仕事に対する熱心さや本気度が見られない
・働き方改革やハラスメントなどに配慮を求められ、思い切った部下育成ができない、
・チームによる成果とは何か、どう評価すればいいのかわからない
・顧客のサービスに対する品質や技術ニーズが高くなり、部下に任せることができない
などなど。

現象面を取り上げると、きりがありません。
こうした悩みの背景には、経済や市場、産業構造の変化、企業の成長段階、事業のライフサイクル、市場でのポジショニング、さらには働く人々の意識や働き方、会社観などがひと昔前とはまったく変わっているという現実があります。

そもそも、「求められる成果」や「成果の出し方」そのものを見直し、マネジメントと一体で変えていく必要があるのです。

経済成長期の成果は、量や数値で示すことができる明快なものでした。
市場やシェアを拡大するなど事業の方向性が明確であれば、既存のビジネスモデルや商品・サービスによる競争に集中できます。
組織としても、創業者の思いや、市場にマッチした商品・サービスの好調などで求心力を保つことができました。

そういう時代は、リーダーがめざす方向性を具体的な目標に落とし込んで示すことができ、リーダー自らもそこに注力する姿を見せつつ指示命令で周りを動かす、という“一人が引っ張る”スタイルで十分機能したのです。

一方、成熟期に入ってビジネスも複雑になると、成長のためにめざすべき方向性そのものが定まりにくく、今まで通用していた商品・サービスの価値も大きく変化します。
新たな環境に合わせて商品・サービスを見直す、価値を高める、新しい価値を生み出していくなど、事業の定義やビジネスのプロセスを変えることまで含めて成果を出さなければなりません。

当然、リーダーは、過去には感じなかった葛藤に見舞われ、壁にぶつかります。
事業の低迷と同時に、マネジメントが直面する成長の踊り場です。

この状況を、リーダーがひとりで抱え込み、自分の知恵や頑張りだけで乗り越えようとしても、求められる成果は今までになく抽象的(定性的)で複雑です。
前提として、何をやれば正解なのかがわかりにくい予測不能なビジネス環境では、幅広いアンテナによる多様な情報、多様なアイデアや仮説をもってチャレンジする試行錯誤的なアプローチと、その担い手が必要になります。

リーダーひとりで、今までどおりのスタイルで成果が出せないのは当たり前なのです。

「チームを通じて人を育てる」マネジメントを学ぶ

では、悩めるリーダーが、「自分で考えて動く」人とチームを育て、低迷する事業を一緒に立て直していくためには、どんなマネジメントの考え方や能力、経験が必要になるのでしょうか。

多様な試行錯誤の担い手である「自分で考えて動く人とチーム」を育て、チームワークを促進するという新しいスタイルのマネジメントを、経験やトレーニング、ロールモデルなしに習得するのは容易なことではありません。

低成長時代に求められるマネジメントのポイントを挙げてみましょう。

1. 「目的」と「めざすもの」があり、それがブレない
2. 「個々の能力」を引き出し、チームワークで仕事を高める
3. 「一番をめざす」ことで仕事を楽しみ、成長につなげる

(1)「目的」と「めざすもの」があり、それがブレない

目的を持つことは当たり前のように思えますが、目的がない、目的を見失って手段が目的になっているケースは少なくありません。
成果を上げるリーダーは、迷った時や停滞した時に立ち戻ることができる目的と、みんなと共にめざす姿を明確に持っています。
さらに、こうなれば世の中や会社やメンバーが幸せになるだろう、という未来構想を語ることもできます。

リーダーにとって、めざすものは、事業の方向性と自らの思いがしっかり重なっているものです。

自分自身がこの事業をどうしたいのか、働く仲間がどうあってほしいのか。
これからどのような使命や役割を持つ会社や事業が世の中のためになるのか、を考え重ねる。
そして、それを自分の言葉で、自分の意志としてビジョナリーに語ることができること。
“自分ごと”で語れるからこそ、部下や他者の共感や思いを引き出し、重ねることができます。

これからのリーダーには、一人ひとりの部下の思いを引き出し、その思いと自分の気持ちを重ね、さらに事業の方向性と重ねていくための「軸となる背骨」が必要です。それと同時に、大切なのは、部下たちに何度も何度も考える機会を与えることです。

一度は考えさせてみたけど「たいした考えが出てこない」とあきらめるくらいなら、最初からやらないほうがいい。
そのくらい、ぶれない姿勢を貫くのは簡単なことではありません。
しかし、部下が自分で考え、こうしたいという思いが事業の方向性と重なっていくと、新たな知恵やアイデアが湧き、行動も驚くほど変わってくるのです。

(2)「個々の能力」を引き出し、チームワークで仕事を高める

変化の激しいビジネス環境、社員の働き方や働きがい、難しい要請の中でも成果を出しているリーダーは、まず「人」を知ることからマネジメントを始めています。

一人ひとりがそれぞれ頑張る分業分担制のチームではなく、能力や強みを生かし、話し合い協力して柔軟に役割を変えられる協働型のチームへ。
異なる能力や特性の生きるチームで仕事をすることで、仕事の成果の出し方を変え、さらに多様な成果を狙うことができるからです。

チームづくりのための働きかけは、ごく素朴なもの。
部下の考えや思い、その背景にあるものに耳を傾け、このメンバーがチームになればどのくらいの戦力になるのだろうかと、未開発であっても能力や戦力になるもの、可能性を探ります。
そして、チームとしてめざすものを共有します。
めざすものが明確であれば、自分はどこで活躍したらよいのかを一緒に考えてもらうことができます。

(3)「一番をめざす」ことで仕事を楽しみ、成長につなげる

チームで成果を出そうとするリーダーは、自分自身はもちろん、職場のメンバーが楽しく、成長を実感しながら長く働くことを大切にしています。

あるリーダーはメンバーに対して、何でもいいからチームで取り組んで「一番になる」というチャレンジ目標を与えました。
ポイントは小さくてもいいから“結果にこだわる”こと。

一番をめざす以上は、前例のないことや、今までタブーとされてきたことに踏み込む挑戦も必要です。
経験にない試みで何かしらの結果を出すためには、リーダーがリスクを想定して仮説を練り抜く、メンバーに情報やデータを集めてもらい、企画し計画を考えてもらう。
味方になってくれる人を探し、プランをプレゼンテーションするなど、初めて経験することもたくさん出てきます。

それが小さなことでも結果につながると、一人ひとりの自信になり、自分たちでまた新たな目標をつくって挑戦するなど、めざすものが高まっていきます。

結果として、メンバーは、「一番になる」という目標へのチャレンジによって、定常業務とは異なる仕事の仕方、発想や能力、チームワークを自分たちで育てていきました。

その機会を生かすためにリーダーが行なったサポートは、メンバーが知識や技能やアイデアを磨くために必要な環境を整えること、仲間同士で工夫や改善が進むよう、日常業務の中に仕掛けをつくる、時間的・物理的な余裕スペースをつくることでした。

そのためには、目先の収益だけを追うのではなく、長い目で人が成長する環境をつくることを考えつつ収益を安定させていく経営的な舵取りも必要になります。
これらは、未来につながる今大事にしたいことを伝え、メンバーが安心してチャレンジするための新たなリーダーの仕事です。

転換期のリーダーに必要なのは、自分が何をめざし、何を実現したいのかを問い直し、明確にすること。
そして、明確な目標を定めて自分自身も新しい体験の中で部下と一緒に学び、成長することを楽しむこと。

この新たな上司と部下の関係、チームで成果を高めていくマネジメントの獲得が、仕事の中で人を育てる土壌になり、みんなで一緒に成長の踊り場を越えていく力になるのだと思います。