前編はこちら

部門をつなぐ「人のバリューチェーン」構築を糸口にして仕事の全体最適化を進め、各部が全体の流れを見渡しながら価値づくりを積み重ねていく、顧客価値創造のトータルプロセス。前編では、その正解のないゴールに向かって、関係するメンバーがともに試行錯誤していくための足場となる「人のつながり」「チーム」構築について紹介しました。

後編では、その基盤の上に展開する3~5のプロセスを追っていきたいと思います。

———————————————————————–
【価値の連鎖をつくり出す5つのプロセス】

1.部門を越えて協力する基盤づくり
2.めざす姿を一緒に考え、提供価値を明確にする
3.本流、支流の仕事の流れを見直す
4.「つなぎ」を見直し、強くする
5.改善レベルから仕組みにしていく
———————————————————————–

3.本流、支流の仕事の流れを見直すプロセス

現在地を確認し、めざす姿が腹に落ちたら、そこへ向かうための仕事の仕方を見直していきます。

部分最適ではなく、連携して価値を高める仕事の流れを再構築するために、自分たちで仕事の流れ図を描き、それを全体像として共有します。議論や他部署見学の学びをもとに、モレ・ヌケをなくし、各工程が付加価値を高めていくことを主眼にして、業務プロセスの最適化と工程間の「つなぎ」を考えてみます。

その際には、「この仕事は本来どこがやれば、どういうふうにやれば、より流れが良くなるのか」という“前提条件を見直す”視点を持って議論を深めることが大事です。押しつけ合いではなく、引き取り合いの議論ができるようになることが理想です。

業務プロセスを描くことは全体視点を持っていないと難しい作業ですが、部門間で一緒につくっていけば、みんなで全体を見通せるようになり、人と仕事のバリューチェーンの実感を持つことができるようになります。

4.「つなぎ」を見直し、強くするプロセス

「本当にうまく後工程にバトンを渡せているのか」「それがお客様へのサービスにつながっているのか」といったトータルシステムの観点からの問いを立てると、部門(工程)間のつなぎ部分の見直しは必須になります。

(1) つなぎの機能を「陸上型リレー」で考える

つなぎを見直す上で大事なことは、机上で描き直すのではなく、現地現物ベースで検討すること。各工程の現場のメンバーが日々の仕事の状況や自分たちの動き方などの事実・実態に基づいて、前工程・後工程のバトンの受渡しがうまくいくような“動きと作用”のイメージをつくっていきます。

このとき、私たちがよく使うのが、「水泳のリレー型」ではなく「陸上のリレー型」のバトンリレーの例です。

前の泳者が壁にきっかりタッチしてから次の泳者が飛び込む水泳のリレーに対して、バトンゾーンで走者同士が互いを見て歩み寄り、[バトンを渡す・受ける]を同時に行なう“弾力的な調整”がものを言うのが陸上のリレーです。この陸上リレーのようなイメージで、全体効果を高める「つなぎ方」をつくっていくのです。

(2)バトンをつなぐ仕事の仕方、フォーメーションに変える

陸上のリレーにはバトンゾーンがあります。そこでいかにうまくバトンの受け渡しをするか、このゾーンにおける連携こそが、生産性や品質を上げるポイントになります。

お互いの状況を見て、お互いが手を伸ばして歩み寄る。気がついたら見えないところでもフォローし合う。前工程と後工程がゾーン内のこぼれ球(不備や欠陥などの問題)を押しつけ合うのではなく、動きを重ねてカバーするフォーメーションになるように、仕事の仕方や動き方を相互に変えるのです。

自分たちにとっては楽ではないけど、後工程の人のことを“思って”仕事を変化させながらバトンをリレーしていく。それが、その先に待つゴール、お客様満足につながるのです。

5.改善レベルから仕組みにしていくプロセス

このようにして実質的な実体がつくられていくバリューのチェーンは、一度つくったら終わりの固定的な最適設計ではありません。そこにいる人たちの観察と改善によって、つねに変化、調整されていくからこそ全体最適を保つシステムになります。

往々にして、こうした取り組みは精神論に陥りやすく、現場当事者の生成的な知恵が生かされないものになりがちです。そうならないためには、チームとしての意思を持って取り組むメンバーがコアになり、議論を重ね、仮説検証のトライアンドエラーを繰り返しながら取り組んでいく体制、人のバリューチェーンをつくることがカギになります。

そもそも顧客価値は、一人ひとりの頑張りで高めることは難しいもの。バリューチェーン職場が連携できる基盤と体制の上に、現場が主体的な顧客品質の目標を持って創意工夫しチャレンジできるような新たな仕組み、仕事の習慣づくりをしていくことが大切なのです。

▼参考事例
持続する風土改革の軌跡