お手伝いしている企業の管理職の方と話していると、「新入社員が心配だ」「コロナ下で転職者が孤立している」という話をよく耳にします。
一方、新人からは「上司が忙しくて育成に手が回ってない」という声も。
それを聞くたびに、どうしても思い出してしまうのが、自分が新人だった頃の情けない経験です。

初めての会社で、初めて仕事をすることになったとき、新人の自分は何にとまどい、混乱し、先行き不安にとらわれたのか。
そして、そこから何をもって抜け出し、不安を克服することができたのか。
特にここでは、私たちの組織で必須条件になっている「主体的に動ける人」になるために、自分には何が必要だったのか、について当時をふり返ってみたいと思います。

「チームワークの流れ」にどうやって乗ればいいのか?

「神田さんも、あのときに比べたらまともになったわねぇ」先月の全社オンライン合宿で、先輩プロセスデザイナーに言われた言葉です。

“あのとき”とは、私がスコラ・コンサルトに入社したばかりで、その先輩の仕事にアシスタントとして同行していた頃のこと。
今から思えば、本当にひどいものでした。「一生懸命」が空回りしていて、まったく役に立っていないどころか、先輩たちの足を引っぱっているだけの存在だったのです。
みんなが普通に走っているレーンに乗れない、組織の仕事の流れに合流できずに右往左往している感覚でした。

あのときと今、何が違うのでしょうか。
その間、足を運んでいろいろな支援先での現場を経験してはふり返り、先輩に付いて勉強し、本をたくさん読んで、知識やスキル系のセミナーにも行きました。
あれこれと学ぶなかで唯一、自分に自信らしきものが芽生え、自分が大きく変わったと実感できたのは、“チームのなかでの動き方”を覚えたことだと思いあたりました。

これが、なかなかクセモノです。
まずは目に見えません。計測もマニュアル化もできません。
チームで行なう仕事の仕方というのは、業種や会社、職種を問わず、単位仕事をチームワークの流れに乗った仕事にしていくもの。
これは現場の動きを身体で感じながら体得していくしかないもので、本を読んでも、セミナーに行っても、教えてもらえるものではありません。
先輩たちや仲間やお客さまと一緒に仕事をしながら呼吸を合わせていくなかで、自然と経験値が高まり、育まれていくものだと思います。

チームの一員として自律的に仕事をするための基礎力

私は2浪で大学に入り、そのあと10年も司法浪人をして、30代半ばで教育業界に就職したのが職業人生の始まりでした。
新入社員研修やOJTの機会を逸し、チームワークの基本を身につけないまま、持ち前の一生懸命さと周囲の助けでなんとか仕事をしていました。
が、スコラ・コンサルトへの転職で、それを持ち合わせていない弱さが一気に露呈しました。

・1通のメールを書くのに2時間・・・しかも、伝わらない
・簡単な資料をつくるのに4日・・・しかも、完成しない
・電話をかける前に半日悩む・・・しかも、お客様を困惑させる

書いていて恥ずかしくなってきました。

こんな私を見て、先輩たちはため息をつきました。
そして、放っておけないタチの先輩方は、プロセスデザイナーとしての基礎的な仕事(自立できていない初心者には高度だった?)について手取り足取り教えてくれたのです。
今思えば、ありがたいことだと思います。
しかし、当時の私には、さっぱり頭に入ってきませんでした。
一生懸命聞いて、頭で理解しようとすればするほど、迷子になる感覚がありました。
言われた通りにやってみてもうまくいかず、頭がパニックになっていきました。

そんな状態の私を見て、声をかけてくれた仲間が何人かいました。
「神田さんに必要なのはこういうことじゃないかしら?」言われたことや指摘に“点”で対応したり、あるべき状態と現状のギャップを是正しようとするのではなく、自分のなかに軸のようなものをもつ。
今思えば、それが“流れに乗って自律的にチームで仕事をする”ための「基本のキ」だったのではないかと思います。

何を身につけることで安心し、自分に自信がもてるようになったのか、思いつくままに取り上げてみます。

【チームで仕事をするための基礎(姿勢と能力)】

1 指示をもらったら、その背景や目的を問い返す(問い返し力)
2 自分にできること・できないことを見極める(分画力)
3 できないことは「できない」と認める(受け入れ力)
4 できることは責任を持って確実にやる(遂行力)
5 できないことは周囲に相談する(相談力)
6 もらった助言の取捨選択をする(取捨選択力)
7 すべての人に好かれよう、認められようとしない(諦め力)
8 カッコつけずに、正確に事実や現状を伝える(ありのまま力)
9 自分の仕事だけではなく、仕事の前工程・後工程を意識する(協働力)
10 上司を完璧な存在と勝手に思い込まず、「ひとりの人間」として接する(人間力)

これを姿勢とした上で仕事を進めていくと、自分でも驚くほど、まともになってきている感じがしました。
先輩プロセスデザイナーのアドバイスも耳に入るようになり、それを実践するとうまくいくことが増えていきました。
少なくとも私にとっては、「チームワークの基礎」にあたるものが潜在的な不安領域だったのです。

いきなり主体性の発揮を期待される新人たちの不安

自分にとって、安心と自信を得るために必要だった基礎力を自分なりに要素分解してみると、大きく3つに分けることができます。

1.組織人としての基礎的なスキルを身につける(1、5、6、9)
2.組織人としてのあり方を身につける(2、3、4)
3.その組織に共通の文化コードを培う(7、8、10)

会社の一員になることで、それまで「個人」として生きてきた人間は、「組織人」として仕事をするようになります。
私の場合は、この転換に苦戦しました。
組織人としての基本スキルも乏しく、組織人としてのあり方もわからず、スコラ・コンサルトの文化コードも持ち合わせないまま、「早く一人前のプロセスデザイナーになりたい」と目の前の仕事に一生懸命取り組んでも、うまくいくはずがありません。今思えば、可動性を高めるためのストレッチも、動いたり乗り越えたりするための筋トレもしていないのに、いきなりフルマラソンを走ろうとするようなものだったのでしょう。

通常、新入社員として入社すると、一斉の集合研修や現場でのOJTが用意されています。
また、先輩社員やお客さまとのやりとりを通じて、見よう見まねで基本的な仕事のしかたが身についていくことも多いと思います。
そういう機会が乏しかった私はレアケースなのかもしれません。
しかし、企業の若いメンバーの話を聞くかぎりでは、意外に「チームのメンバーとして主体的に動く」ための実践的なトレーニングというのは、一般化していないのではないかと思います。

特に心配なのは、このコロナ下のイレギュラーな状態で「組織人」としてのスタートを切った新人たちの境遇です。
テレワーク率が高まり、リアルで会するときにも密を避けなければならない環境下で、どれだけの十分なOJTや見よう見まねで基礎的な仕事のしかたを体得する機会があるでしょうか。
組織のどこかにあるらしい「チームワーク」という言葉を聞いても、目の前にあるのはタスクばかり。
チームワークの流れの外に置かれてジョインできない心細さ、孤独感は募るばかりです。

若手の部下を持つ上司の方々は、社歴の浅い部下に対して、担当業務をこなすための指導をする前に、まず「チームワークの基礎」が学べているかどうか、そこを見てあげてください。
不安を解消するために必要なのは、“何があれば”自分に自信を持てるようになるか、を知ることです。
新人に最も必要で、最も手に入れにくいもの、それが私の経験でいえば、主体性を持つための基礎の獲得だと思っています。