とはいえ、ジョブ型も万能ではありません。人材の専門特化と引き換えに「チームワークの低下」などが早々に指摘され、あちらが立てばこちらが立たずのトレードオフ状態になっています。
特に今は、ジョブ型への期待が先行している移行の初期段階です。将来的にジョブ型をしっかりと機能させていくためには、今のうちに想定されるデメリットに対しても手を打っておく必要があるでしょう。

組織のパフォーマンスを高めるジョブ型にするために必要な視点は「チームワーク」のレベル

最近、ある企業の役員の方から聞いた話です。
その企業では、数年前にジョブ型の人事制度を廃止したそうです。日本企業の中ではかなり早く、10年以上前にジョブ型の人事制度を導入したのですが、だんだん弊害のほうが大きくなってきたことから経営が協議して、ついに廃止を決めたということでした。

その弊害とは、次のようなことでした。
・社員の多くが、自分の職務範囲に関心が集中し、視野や視座が狭くなる
・横の連携が悪くなる
・創造性が低下する
・上司が部下を育てようとしなくなる

ジョブ型は、個人に対してスキルアップのモチベーションを喚起する半面、チームワークや組織という「人と人のつながり」が弱くなりがちな傾向があるということでしょう。

ジョブ型を機能させ、組織に根づかせるためには、そのメリットを生かすと同時に、デメリットを補うための対策が必要です。そのカギを握るのが「チームワーク」のレベルアップです。

ジョブ型を採用している組織でも、日々の仕事はチーム単位で行なわれます。個々のスキルのレベルも大切ですが、個々の仕事を組織としての成果創出に結びつけるためには、それに加えてチームワークが機能しているかどうか、チームワークのレベルをみていく必要があります。それが組織のパフォーマンスを大きく左右するからです。

殺伐としたジョブ型のチーム

ジョブ型の組織では、往々にして次のようなチームになりがちです。

◆自分のスキルアップには関心が高いが、チームメイトに対して関心が薄い
◆自分の目の前の成果を追求するが、全体の目的や目標に対する認識が弱く、部分最適になりがち
◆自分の専門の見地から理解できないことを指摘し、互いに批判しあう

各自の職務が厳密に定義され、職務ごとの専門性を持った人材が集まるジョブ型の組織では、このような状態に陥ったチームをよく見かけます。雰囲気はギスギスしていて、求心力がなく、個々人の専門性や能力が相互補完的、相乗的に高まっていかない。むしろ、お互いに力を削ぎ合っているかのような殺伐としたチームの状態です。

ジョブ型のチームワークをバージョンアップしよう

せっかくの優秀な専門人材が個々バラバラに仕事をしていて、視野や関係性に広がりがない。結果として、意欲も生産性も高まっていかない。そんな状態から抜け出すためには、どうしたらよいのでしょうか。

次のようなソフト面のポイントを改善することで、ジョブ型のチームワークが機能するようになります。ジョブ型組織でも「殺伐チーム」から脱皮して、互いの信頼関係と協働力に優れた「温かいチーム」へと変わっていくことは可能なのです。

【ポイント1】「スキルの集合体」を、血の通った「人間のチーム」にする

ジョブ型の場合は、人材を育成するというより、専門人材を労働市場から調達するというケースがほとんどではないでしょうか。組織も、人間集団というよりは「スキルの集合体」という感じになりがちで、人間同士としての基本的な相互理解や信頼関係の構築が手つかずになってしまいやすいのが弱点です。

スキルのレベルはもちろん重要ですが、それを生かすも殺すも「組織」しだいであり、基本的な人間関係が不可欠であることはジョブ型であっても変わりはありません。

チームメンバー同士の相互信頼が欠如した状態では、心理的安全性が醸成されていないことから、各人が存分にスキルを発揮することは困難です。また、信頼関係という土台がない中で、強引に自分のスキルだけで成果を出そうとすると、周囲にひずみやダメージを与えるようなことにもなりかねません。
人と人とが協働できる土台をつくるために、まずは、血の通った「人間のチーム」をつくることが重要なのです。

【ポイント2】 パーパスやありたい姿を共有した仲間になる

ジョブ型の組織で働く人は、自分のスキルを発揮して、目の前の課題を解決することに熱心に取り組みます。その一方で、会社や部署のパーパスやありたい姿などに対しては、それほど興味・関心のアンテナが立たない、ということが起こりやすい傾向にあります。

ある会社に中途入社した専門職の人が最近こんなことを言っていました。
「この部署のパーパスとか、めざす目標は、私にとってはぼんやりとしています。でも、そこを明確にしようとは思いません。私は前職の経験を生かして目の前の仕事をやり遂げるだけです」
この人は、目の前の課題解決にかける熱意は素晴らしいのですが、周囲からは“全体感がない人”“ちょっとズレている人”という印象を持たれています。
このように、自分の直接の職務範囲以外のことに興味・関心のアンテナを広げない、という仕事の姿勢は決して珍しいことではありません。

仕事を進める上では、各自の役割分担は当然あるとしても、そもそも私たちの部署は何をめざしているのか、という大きな“ありたい姿”に対するしっかりとした認識と腹落ちがないと、個々の仕事はズレていきます。
ジョブ型のチームワークにおいても、まず会社や部署のパーパスや、ありたい姿についての対話が必要なのです。

【ポイント3】 専門性の限界を認識して、互いに強みで補い合う

「ハンマーしか持っていなければ、すべて(の問題)が釘のように見える」という英語のことわざがあります。専門性を身につけていると、組織内外のさまざまな問題や課題についても、その専門性というフィルターを通してしか見られない、ということになりやすいのです。
たとえば、リーガルの専門家であれば、すべての物事は法律の問題に見えます。ITの専門家であれば、いかにIT化によってこの問題を解決するか、と考えることから始めるでしょう。

このような専門性の異なるメンバーがチームで一緒に仕事をする場合、そもそもの現状認識、問題認識が大きく異なります。特に、ジョブ型の組織ではスキルや専門性に自信のある人が多いだけに、互いの認識のズレから生じる混乱が起きやすいのです。

大切なことは、「個人の専門性で貢献できる範囲には限界がある」という事実を、個人と組織でしっかり共有しておくことです。その上で“一人では足りない”代わりに、それをカバーする強みを持ったメンバーを見つけて力を借りればいいのです。
ジョブ型の組織だからこそ、メンバーと協働すること、お互いの強みと弱みを補完し合ってチーム全体としてのパフォーマンスを高めていく仕事の仕方、高度なチームワークが求められるといってもいいでしょう。

ジョブ型が広く浸透する中で、もしもジョブ型のデメリットの兆しが見えているようなら、ぜひ「チームワークのレベルアップ」という観点から手を打ってみることをおすすめします。