人事部は経営のパートナーなのか?

“企業の競争力の源泉”は何かということには、いろいろな見解はありますが、“ひと”や“知恵”が最大であるということは、時代や環境の変化に関わらず、変わりありません。そういう意味で、企業競争力を高めるうえで決定的な重要性を持つ“ひと”、つまり経営資源としての“ひと”をマネジメントする人事部門の役割の重要性が、今、ひじょうに増していると言えるでしょう。

「人事部は経営のパートナーである」とか「変革の推進者である」ということは以前から言われてきましたし、特に目新しいことではありません。しかし現実には、日本の多くの人事部は経営的な視点に立って変革を推進するというよりは、組織の根幹である人事制度の設計と運用を司り、“社内秩序の番人”として、組織の安定・維持機能を主に発揮しているように思います。秩序維持機能は組織にとって必要な機能ですが、それだけでは先に述べたような経営環境の変化に対応することができずに、企業そのものが市場から退場を迫られるというようなことにもなりかねません。人事部が本当の意味で経営のパートナーであり変革の推進者となるには、人事部そのもののあり方に大きな変革が求められているのです。

さて、これまでの人事部の仕事のし方を見ると、その背景に暗黙の前提が存在するように思います。それは、「“個人”を強くすれば、その総体としての組織の実力も高まる」という前提です。このような考え方の背後にあるのは、社員個々人は組織のパーツ(=部品)であるというものの見方ではないでしょうか。個々のパーツの品質を確保し、正しく組み立てていけば優れた機械(=組織)ができあがるという発想です。

「組織を育てる」という視点

しかし実際には、組織とは、私達が日々、感じ、経験しているとおり、高度に複雑かつ有機的な存在であり、ひじょうに生々しいものでもあります。だからこそ、「優秀な人材の採用や個人研修で人材を強化したはずが、会社の力につながっておらず、むしろチームワークが弱くなった」という現象に悩む企業が多くなっているのでしょう。

これからの人事部に必要なのは、「組織を育てる」という視点です。そもそも組織というものは、人が力や知恵を出し合って協力し、一人では成し得ないことを実現するための「協働のシステム」です。組織の中では意思疎通や目的の共有など、さまざまな協働のためのプロセスが働いており、この協働のプロセスの質を高めていくことが、組織のシステムとしてのパフォーマンスを上げていくことにつながります。
さらに、組織が学習した質の高い「協働のプロセス」のノウハウは、個人よりも“組織風土”の中により多く蓄積されると考えられます。“組織風土”とは、仕事をしていくうえでベースになる価値観や共有されている判断基準、心理的な制約など、いわゆる“目に見えない”領域のもので、企業行動や個人行動に実質的に大きな影響をおよぼします。
だからこそ、「組織風土に関わりながら、組織を育てていく」ということが、経営のパートナーとして変革を推進していくミッションを担うこれからの人事部門の大きな課題となってくるでしょう。