しかし、「組織開発」というと「組織に対するなんらかの働きかけ」であろうことは理解できるものの、「組織の何に、どうやって働きかけるのか?」「そもそも、どういう成果が得られるのか?」がわからない、という声は少なくありません。
今日、求められているのがVUCAの環境と人的資本経営を前提にした”新たな組織開発”だとするなら、なおさらです。

そこで、今回から2回にわたって「企業価値を高める組織開発とは何か?」「これからの企業経営にとって組織戦略はどういう意味を持つのか?」について考えていきたいと思います。

日本企業に横行する「残念な組織開発」

近年の記憶をたどると、日本では2015年頃から「対話」を焦点にした組織開発が大企業を中心に再注目され、専任部署を置いて取り組む企業が増えてきました。そのこと自体は良い傾向であり、職場コミュニケーションにおいては大きな意味がありました。

しかし、その半面で残念ながら、組織開発の知識やそれに必要な技術をしっかり学ばないまま、旧態的なやり方や無手勝流で「組織開発的な」取り組みが行なわれてきているのも事実です。

たとえば、皆さんの企業でこんなことは起こっていないでしょうか。


◇結局、対話や人間関係構築だけで終わっている限定的な展開
◇経営や事業、戦略との結びつきを欠いた「仕事とは別モノ」活動
◇誰かに「やってもらう」「やらされる」構造になっている受け身の活動
◇職場や社員が「自分たちにとっての意味」を感じられないやらされ活動
◇実質やっているのは人材開発的な研修やワークショップ
◇効果性より効率を優先した表層的な施策展開
など


自社で独自にいろいろな施策を実行してはみたものの、こうした残念な状況に陥り、途中で私たちのもとへ相談に来られる企業もあります。

日本における「組織開発」は半世紀以上の長い歴史を持っています。その一方で、経営を取りまく環境は飛躍的に変化しています。それだけに、時代環境や社会の価値観、進化していく経営スタイルに合った組織開発とは何かをあらためて問い直し、自社にとっての意味や目的を考えて主体的に取り組むことが大事ではないかと感じています。

そもそも「組織開発」とは何か?「協働プロセス」を焦点にして組織の機能を高める

「組織開発(Organization Development:OD)」とは何か、については特に定まった学術的な定義はありません。ただし、日本の組織開発研究者と実践者でつくるネットワーク「ODネットワーク・ジャパン(ODNJ)」のホームページでは、「組織開発とは、組織内の当事者が自らの組織を効果的にしていく(良くしていく)ことや、そのための支援」とされています。

私が支援して組織開発に取り組んでいる企業では、「自分たちの組織を自分たちで良くしていくこと」というシンプルな定義づけをしています。これは誰にでもわかりやすいだけでなく、“組織を良くすることはその組織を構成する当事者でなければできない”という組織開発の核心や、“自主性や主体性の尊重”という価値観を端的に表現しています。
あまり難しく考えず、このくらいの実感でとらえやすい定義で理解しておくと共有しやすいのではないかと思います。

そもそも組織開発が想定している「組織」とは、生成的でダイナミックなプロセスを持つもの。一個人ではできないことを集団によるチームワークで実現し、たえず新しいものを生み出していくことができる〈創発と協働〉のシステムです。

組織には、常に「個人の能力」を引き出し、その総和以上の「組織の能力」に拡張していくための、さまざまなプロセスが働いています。
たとえば、チームワークとして行なわれるコミュニケーション、個人間の情報のやりとりや現状認識のすり合わせ、目的の共有、役割の確認、モニタリング、フィードバックなどの相互行為です。これらの相互行為は「協働プロセス」または「組織プロセス」といわれます。

組織開発とは、このような「個人の能力」を「組織の能力」に拡張していくカギとなる「協働プロセス」にアプローチして、人と組織を一体的に進化させ続けることで、経営にとっての組織機能を高めていく取り組みなのです。
この点において組織開発は、個人の能力やモチベーション、思考に働きかける人材開発とは根本的に異なるものといえるでしょう。

チームの力を「企業能力」につないで戦略実行機能をバージョンアップする

対個人の場合と違って、組織開発の取り組みは、組織の最小単位である「チーム」の協働プロセス向上を通じて、チームの能力と機能を高めていくアプローチが基本となります。

【チームワークを機能させる一連の協働プロセス】

・コミュニケーション
・相互信頼関係の醸成
・現状認識の共有
・めざす目的の共有
・克服課題の創造と設定
・役割の相互認識
・行動のシンクロナイズと自発的連携
・相互支援
など

このような協働プロセスを、チームメンバー自らが実際にチームで共同思考・行動しながら修正、機能アップしていきます。
経営幹部チーム、ミドルマネジメントチーム、各職場チームでチームワーク機能とチーム能力が高まることによって、そこから新たなコトやモノが創発され、自発的な変化が起こり始めます。

こうしたチーム単位の新たな動きや変化をつなぎ、連動させていくことで、チーム能力の総和を超えた企業の能力が発揮されるようになっていきます。このようにして身についていく組織の弾力的な動き方が戦略実行の下地になるのです。

経営や事業に資する組織開発には、専門の組織技術が必要

先に「組織は〈創発と協働〉のシステム」だと述べました。システムといっても、それは合理的につくられた機械的なシステムではなく、思いや感情をもった生身の人が集まった「エコシステム(生態系)」といえるものです。
それゆえに組織開発では、エンゲージメントや心理的安全性、信頼関係、共有価値観、思い、といった人や組織の生態系がもつソフト部分、プロセスを注意深く、丁寧に扱っていくのが特徴です。

それと同時に、経営や事業の戦略、ビジネスモデルに合わせて組織を構築し、企業全体として組織の能力を高めていくため、ハード部分の設計を戦略的、システマティックに進めていくことも必要になります。

経営や事業に利益をもたらす組織開発を進める上では、こうした一見相反するアプローチを統合的に展開していかなければなりません。それを推進するには、組織の広い範囲で“当事者によるチームワーク”を機能させ、切れ目のない連携によって大きな組織力にしていくプロセスデザインとそれを支える技術群、今日的な組織観にもとづいて組織プロセスを見立て、扱っていく新たな「組織技術」やノウハウが不可欠です。

今の日本企業には、「残念な組織開発」に投資をしている余裕はありません。

私たちは“日本発の組織開発”といわれる企業風土改革の実践を通じて、組織技術やプロセス変革のノウハウを蓄積し、体系化してきました。現在それらを、自走化を前提とする次世代の組織開発、「組織ケイパビリティ開発」に取り組む企業の活動資源として、さまざまなかたちでトランスファーしています。
※詳しくは、HPをご覧ください。
スコラ式組織開発「組織ケイパビリティ開発」

次回は、日本の企業経営で関心が高まっている人的資本と組織戦略、組織開発がもたらす企業価値について紹介します。