「ある会社で、うちの製品が障害者の人に評判がいいという声を聞いたよ」
「あ、それ別のお客様のところでも聞いたことがある」
「ということは、健常者にも使いやすいってことですか」
「わからないけど、その可能性はありますね」
「そう言われてみると、初めての人でも使いやすいと言われたことがあったな」
「そこを訴求ポイントにした製品コンセプトは考えられませんか」

ある生産機械メーカーで実施したワークショップでのやりとりです。社長から管理職、現場のリーダーまで25人ほどが参加して、事業を再定義し新しい事業コンセプトを決める議論を3ヵ月間、集中的に行ないました。
そこから新しい事業コンセプトが生まれ、それを実現するためのチャレンジテーマのひとつとして〈超・使いやすい機械〉が参加メンバーの中から出てきました。今まさに取り組んでいるところです。

トップと事業の実行当事者である「部長層」の「戦略的経営チーム」

東日本大震災に連鎖して起こった電力不足やサプライチェーンの問題に象徴されるように、経済環境としても世界各国のデフォルトリスクや天然資源の高騰、長引く円高、新興国企業の急成長による競争激化など、企業の周りで「想定を越える変化」が重層的に起こっています。
このようなカオス状態の環境下では、これをやっていればひとまず流れに乗っていけるという唯一の公式はありません。
もとより日本企業の多くの事業は、すでに成熟段階あるいは衰退期に入っています。そんな市場の縮小やグローバル競争での消耗戦に直面している企業では、自社の強みを再生して事業を飛躍させる新たな機軸を模索していかなければなりません。

ここへきて危機意識の強い企業の間では、外部の変化を取り込みながら新しい事業価値を生み出していく事業部主導のイノベーションの取り組みが次々に始まっています。
冒頭のシーンもそんな試みのひとつ。トップ(社長あるいは事業部長など)と事業の実行当事者である「部長層」が「戦略的経営チーム」というネットワーク型のチーム体制をつくり、生き残りをかけた事業と風土のイノベーションに挑戦しています。

経営層のチームといえども、あくまで自分の意思と責任で参画することを原則とした、限りなく「当事者100%」に近いチームです。そこは、お互いを敬愛しつつも、一人ひとりの意思と責任を遠慮なく問い合う本気の世界です。
そもそもイノベーションの取り組みというのは、いつ、どんな答えが見つかるか「やってみなければわからない」暗中模索の活動です。試行錯誤の過程で壁にぶつかることも多く、成算が立たない中での判断が続きます。そのリスクを引き受けて、スピーディに意思決定し動いていくためには、それなりの権限と強い意志にもとづく当事者ならではのコミットメント、ハイレベルなチームワークが不可欠です。

『経営チーム革命 ~トップと連携する「部長」層の新機能~』

環境変化とともに増え続ける経営課題に対して、その受け皿となる実行の体制は、もっともっと柔軟で多様であってもいいはずです。
その一例といえる「戦略的経営チーム」の取り組みをまとめた『経営チーム革命~トップと連携する「部長」層の新機能~』 が10月15日、日本経済新聞出版社から出版されます。
自社の事業の未来づくりに関心のある皆様にとってのヒントになればと、心から願っています。