先日ある会社で、事業部中計のA3一枚の資料を部門スタッフが管理職全員に配った場面に居合わせたのですが、それを指して部長が正直に「これには魂が入っていない。時間に追われた紙づくりだけだった」と言うのです。企画部から与えられたフレームに数字や顧客名、現況などのデータを書き込んで埋めただけで、お客さまが自分たちのサービスをどう評価しているかや、自分たちがどうしたい、という意思などの意味情報はないし、また聞かれたこともないという話でした。

中計と現場をつなぐスタッフの大事な仕事

ここまで極端でなくても、多かれ少なかれ、中計が現場では「数値目標にしか見えない」状況は、どこの会社にも普通に見られます。でも「中計は中計。現場は現場」と割り切ってはいけない、と私は思うのです。めざす旗印と現場の仕事をつなぐのがスタッフの腕の見せどころ。中計を使って、現場の仕事の意味をふくらませていくようなフォローもスタッフの大事な仕事です。

たとえば、すぐにでもできる働きかけとしては、「中計の重点」になる施策に絞って行なうヒアリングが考えられます。

ある会社の法人向けサービス部門の中計重点施策は「既存顧客に○○を拡販」というものでした。○○は、自社ならではの持ち味が込められた重点商品です。

その進捗はどうかというと、部門の定例会議の議事録に「販促施策を検討中」「調査は実施済み」など、丸めた言葉や売上推移などのデータは残されていますが、実態はよくわかりません。そんなとき部門スタッフが部門マネジャーにヒアリングをして、お客様と自社との間にある意味情報を引き出すのです。

最初の問いとしては「○○についてですが、最近うまくいったことは何ですか?」と投げかけ、「すごいですね。どうしてそうなったのですか? 何が効いたのですか?」などと詳しく聞いていきます。

現場で頑張っているマネジャーやメンバーは、お客様や仕事のことを自分ではなかなか言葉にできないし、また肯定的に認識しにくいものです。つい「やるべきことが、まだまだできていない。数字もあがっていないのにうまくいってるなんて言えない」と思い、自ら話そうとはしないものです。

そこでスタッフが個別にあえて質問して、それを言葉にしてもらうのです。すると、たとえば「お客様は他部署との調整が面倒くさいと言っている」「多数製品から選ぶのが大変らしい」などの生っぽい言葉が出てきます。話すことによって言葉になった、この意味情報こそが、現場のマネジャーにとっては、お客様のニーズや提供サービスを考えるヒントになります。自分たちが何をすればいいのか、○○をこう使ってもらえるのでは、と考えを発展できます。

また、重点商品に関する「うまくいったこと」の話のあとに、「困っていること」「思うようにいかないこと」を聞く。これも足踏みしている状況を具体的に改善するために役立つでしょう。スタッフが手助けできる出番もあるかもしれません。

 

中計がたとえ抽象的な方針と読み取りにくいデータにあふれたものであっても、現場の部長やマネジャーに対して「重点施策につながる仕事についてヒアリングする」というスタッフからの働きかけによって、話し言葉という形で意味情報が生まれ、仕事を見直す可能性が広がります。

ヒアリング自体は「ちょっといいですか」と声をかけることから始める昔ながらの地味な手法ですが、中計と現場の仕事をつないで動かしていくことのできる効果的な方法でもあります。タイミングをみて、やってみませんか?