目的でつながった信頼関係をつくる

こういう場面は、話し合いが進み、具体的な問題や課題が出てくるあたりから、その解決の阻害要因として出てくるケースが多いのですが、「○○さんが問題なんです」というだけではわからないので、「○○さんの何が問題なのですか?」と質問すると、だいたい「協力してくれない」「聞いてくれない」「上ばかり向いて仕事をしている」といった答えが返ってきます。

確かに現象としては「協力してくれない」とか、「聞いてくれない」ということで困っているのですから、「あの人が問題」と言いたくなる気持ちもわかります。

でも、「問題を解決するには原因が分からないと解決できませんよね?その人はなぜ協力してくれないのですか?」と問いかけても、「さあ・・・」とか「自己主義だから」としか返ってこないことが多いのはどうしてなのでしょうか?

現象面からも想像できるように、普段関わり合いを極力持たないように仕事をしているので、話しかけたり、聞きに行ったりというコミュニケーションがなないため、さらに疎遠になり、協力し合えないという悪循環に陥っていたり、もっとひどくなると、相手の人間性や人格を問題にして、そりが合わない、どうも好きになれないという感情を持っていたり、ということがあります。

変革の初期段階においては、特にこういった“人”を、問題や原因の中心におくケースが少なくありません。逆に改革が進んで、組織の目的とその目的に向かって自分の果たすべき役割をひとりひとりが理解、納得していくようになるとそういう発言は極めて少なくなってきます。

こういった場合には私たちがよく使うのが、<人と事とを分ける>という原則が解決のセオリーです。常に起きている問題の事実にアプローチすることはとても重要なポイントです。

しかし同時に、人の問題にも目を向ける必要はないのでしょうか?人といってもその人の人格を問題にするということではありません。厳密に言うと人と人との関係性に目を向けるということです。そうでないと真のチームとして目的に向かって課題を解決し続けることは難しくなってきます。要するに目的でつながった信頼関係をつくるプロセスも同時に必要ということなのです。

「人と事を分けて考える」という視点をもって事実をみる

ある銀行でのケースを紹介します。

大手M銀行渉外担当の契約社員のAさんはベテランで、成績も抜群、行内でもトップクラスの渉外担当でした。ただAさんの作成する書類はミスが多いうえに、遅れることが多く、注意をしてもなかなか改善してくれないということで、行内ではわがままで自分勝手な渉外担当というレッテルを貼られていました。

改革当初の話し合いでは、Aさんがわがままで自分勝手だから事務のミスがなくならないという問題を指摘する人がたくさんいました。しかしAさんの性格の問題と事務のミスという事実を分けて考えていくことで、「事務のミスをなくす」という課題に着手することができました。

一方「事務と営業が一体となって支店を良くしていこう」という「ありたい姿」を実現していくためには、事務と渉外担当がチームとしての信頼関係を構築しないと、本来の目的は達成できません。

渉外担当Aさんを信頼できないという不信感を抱えたままでは、根本的には問題も解決しないということになり、結局、事務のメンバーはAさんがなぜミスが多いのか、その原因を正しく把握しようと考えました。

事務メンバーの一人がAさんとじっくり話し合うことにしました。

話を聞いてみると、Aさんのお客様はお年寄りが多く、Aさんは聞きとりながら書くのですが、相手がお年寄りのために覚えていないことなどが多かったり、話し相手をしながら書くので、ミスが多くなってしまっているという原因が見えてきたのです。

Aさん側にも、成績が良いので多少のことはカバーしてもらって当然という甘えがあったこともわかりました。

その後、事務はAさんのお客様状況を分析し、チェック体制とフォローを強化することで、ついに事務のミスはゼロを達成するにいたりました。

Aさんもいつも注意されてばかりで気分の良くない思いをしていたことを吐き出してからは、自分から事務のところへ相談、協力を求めに来るようになったそうです。

<人と事を分けて考える>という視点をもって事実を見ていくことで問題解決の糸口は見えてきます。そのうえで原因を人格、性格といった人間性に偏らずに当事者同士が対話を重ねることで、<仕事の目的を通じて認めあった信頼関係>つまりチームワークをつくっていくことができていくのだと思います。