直面する問題が過去の経験にないものだとしたら、その問題解決において私たちは、新しい解決策を次々と創造していくしかありません。
創造性こそが、現代の人と組織に最も求められている能力なのです。

このコラムでは、企業の創造的問題解決力の源泉である“人と組織の創造性”をどのように高めていけばよいか、そのヒントを探ります。

問題解決の2つのアプローチ

ひと口に問題解決と言っても、じつは問題解決にはいくつかの性格の異なるアプローチが存在します。ここでは、おおまかに問題解決を2つのタイプに分けて考えます。

①適用型問題解決
ある問題に対して、既存の解決策を調べて、適用、応用することで問題解決を図るアプローチがあります。ベンチマークなどはその典型です。
これだけ情報が広くネット検索できる時代には、机上で簡単に世界中の情報にアクセスすることができ、最適な解決策と思われるものを素早く探すことができます。このようなアプローチを適用型問題解決と呼ぶことにします。

②創造型問題解決
ある問題に対して、これまでにまったく存在しなかった新しい解決方法を創造する、というスタンスで問題解決にあたることが好ましい場合があります。このアプローチを創造型問題解決と呼びます。
創造型問題解決は、イノベーションの源泉です。

どちらが良いとか、優れているということではありません。既知の方法で解決できるタイプの問題に対しては、適用型問題解決のアプローチで速やかに問題を解決することが望ましいでしょう。一方で、未知の問題に対しては、創造型問題解決のスタイルでじっくりと取り組む必要があります。

「既存の方法でさばく」楽な選択が価値創出の機会を奪う

ところが、適用型と創造型の2つの問題解決アプローチを正しく選択することは、じつはそれほど簡単ではありません。ここに”問題解決のワナ”ともいうべき難しさがあります。

この2つのアプローチはよく混同されます。たとえば、すでに解決策が存在する問題に対して、延々と一から検討してしまうというケース。そして、新しい解決方法を検討すべきなのに、既存の方法を当てはめて済ませてしまうケースです。

特に後者は、現代では大きな機会損失につながります。なぜならば、未知の問題は、まったく新しい解決方法を創造する機会であり、イノベーティブな解決方法を生み出すことで社会に対してきわめて大きな価値を創出することができるからです。
ところが往々にして私たちは、未知の問題に腰を据えてじっくりと向き合わず、それを既知の問題とみなして、さばいてしまうのです。

創造型問題解決の事例:「グラミン銀行」

ここで、創造的問題解決の事例をひとつご紹介します。

バングラデシュにグラミン銀行を創設し、貧しい人が活用できる金融システムを生み出し、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏の仕事は、創造的問題解決の良い事例でしょう。

ユヌス氏は、国民の大半を占める貧しい人たちが金融システムの恩恵を受けられないことに強い問題意識を持っていました。しかし、それまでの金融の世界では、信用のない個人に金融サービスを提供するということは“常識”としてあり得ないことでした。
適用型問題解決の場合は、ここで行き詰まります。先例もベンチマークもないことは、どんなに考えても無理なのです。

しかし、ユヌス氏はこの”未知の問題”と向き合い、これまでになかった創造的な解決方法を生み出します。それは、個人から担保を取るのではなく、グループ貸付という5人一組の借り手グループをつくり、グループ内で返済に向けて協力し合っていく、という仕組みです。
この仕組みはうまく機能し、マイクロファイナンスという新しい金融の仕組みが世界に誕生しました。

この画期的なアイデアも、後知恵で振り返ると、誰もが思いつきそうなことにも思えます。しかし、適用型問題解決で行き詰ったところから、ユヌス氏のように、それでもなんとかできないだろうかと悶々とした葛藤を抱え続けることができる人はきわめて少ないのです。

人間の脳は、未知や葛藤が苦手

多くの人が情熱と志を持って問題解決にあたっても、適用型問題解決のアプローチが行き詰まった地点であきらめてしまう、安易に既存の解決法をあてはめて済ませてしまうことが多いように思います。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。

その理由のひとつに、人間の脳の特性の問題があります。脳は、未知なことや未解決の問題が残り続けることに対して抵抗や恐れを感じる、という性質を持っています。

大昔、人間の祖先が野生で暮らしていた時には、日々さらされる自然のさまざまな脅威に対して、記憶の引き出しから対処法を瞬時に引き出してリスクを避けることが、脳の重要な機能でした。それゆえに〈未知の問題=対処法が引き出せない状況〉は、生物としての生存が脅かされるひじょうに危険な状況だと脳は感知します。
つまり、未知な問題は脳の中に葛藤状態(いますぐに対処方法が必要だ⇔記憶の中に対処方法がない)を引き起こし、同時に、この葛藤が長期間持続することは、脳にとって耐えがたいことなのです。

そんなことから人間には、このような脳内に生じる葛藤やストレスの度合いを下げるために、未知の問題を“あえて認識しないようにする”傾向があります。

明らかにそこにある重要な問題も見ないふりをする、優れたベンチマークと言われているものを借りてきて安心する、仕方がないのだと自分に言い聞かせながら不十分な既存の方法を適用する、といった一見不合理なことが人間社会でよく起きるのは、もともと私たちがこうした生物学的な制約に縛られやすい存在だということなのです。

問題の中に踏みとどまることが、人と組織の創造性を高める

しかし、今のような混迷の時代に生じる未知な問題に対応し、それを解決していく人と組織の創造性を高めるためには、脳が持つ(無意識の)制約を乗り越えていく力を身につける必要があります。その力をひとことでいえば、「葛藤の中に踏みとどまる力」です。

つまり、未知な問題に直面しても、それに伴う不安や葛藤、恐れから逃げずに、それと向き合い、出口が見えない暗闇の中から新たな発想を生み出すという能力です。

「ネガティブ・ケイパビリティ」という面白い言葉があります。
これはイギリスのロマン主義の詩人のジョン・キーツが、シェイクスピアの創造力の秘訣について語ったときに使われた言葉で、「容易に答えの出ない事態に耐えうる能力」を意味します。
未知の問題がもたらす不確かな状況や不安、葛藤は、人間にとってネガティブなものであり、一刻も早く回避、対処したくなるものですが、それでもあえて性急に答えを出そうとせずに、そこに踏みとどまり耐えることで、その中から真に創造的なものが生まれる、という考え方です。

キーツは詩人の創作力という文脈でこの言葉を語っていますが、現代では詩人に限らず、すべての人がネガティブ・ケイパビリティを高め、日々の課題を創造的に解決し、自分自身の人生をより豊かに生きていくことが求められているのではないでしょうか。

葛藤に向き合う場としてのオフサイトミーティング

イノベーションが大切であるということは、耳にタコができるくらい聞いています。しかし、私たちは仕事の中で、不確かさや葛藤の中にあえて踏みとどまるような時間をどれくらい持っているでしょうか。性急に最短距離で解を出そうとして、かえって創造性の鍛錬や価値創造の機会を自ら失っているのではないでしょうか。

じつは、スコラ・コンサルトが実践しているオフサイトミーティングは「葛藤の中に踏みとどまる場」でもあります。
本音で話し合うオフサイトミーティングでは、参加者はさまざまな葛藤と向き合うことになります。一時は混沌としたフェーズを通過するのですが、最終的には前向きで創造的な方向性を見出すことができます。

オフサイトミーティングに参加した人の中には、オフサイトミーティングの予定調和的でない不確かさや、場の中で葛藤が表面化するような状況に苦手意識を持つ人もいます。しかし、意識的にこういう場に参加する経験を重ねていくことは、不確実性の高い環境に対してネガティブ・ケイパビリティを高め、人と組織の創造性を開発していくための重要なトレーニングになるのです。