「変われない会社は淘汰される」時代

単体でみれば、事業や組織に問題を抱えているわけでもなく、明確な改革のポイントが見当たらない企業でも、これまで通りのポジション、やり方で経営をしていると、外部環境との間にはズレが出てきます。
とりまく環境のほうがどんどん変わってしまうため、それに適応すべく自らも進化していかなければ淘汰されていく可能性があるのです。
現実に、IT化やDXの進展や低炭素化の推進のような課題の出現で産業構造が大きく変わってしまい、既存の市場や業界が一気に縮む、消滅するといった事態が起こっています。

つまり、企業の競争すべき相手が同業他社ではなくなってきている。
これからの経営の焦点は、「予測不能で、めまぐるしく変化する環境」を相手に、いかに自社の対応力を高めていくか。その能力を身につけた企業が生存競争の中で生き残り、持続していくということです。

世界を襲ったコロナ禍に始まり、先行き不透明感が増していく2020年代にあって、私たちは、変化対応力という生存のための課題に直面しているといえるでしょう。
その意味で、このコロナ禍は、変化に適応できる企業とできない企業が明確に分かれていく、ひとつの試金石でもあります。

環境変化との戦いに必要なのは、「自ら変わる」企業の力 ~ダイナミック・ケイパビリティに注目が集まる

戦う相手が見えなくなり、企業に革新的な変化が求められる中で、企業の持続的な競争優位性を生み出す源泉として世界で注目されているのが「ダイナミック・ケイパビリティ」です。
昨年、国が公開した『2020年版ものづくり白書』でも、今後の日本企業の経営指針となるものとして大きく取り上げられました。

ダイナミック・ケイパビリティは、「企業が環境の変化に適応して、活用できるリソースを組み替えながら、新たなビジネスやイノベーションを生み出し、それにあわせて自らの組織のあり方も変化させていく能力」のことです。

これまでの戦略経営論では、ある業界や市場において企業がコンペティターに対する競争優位性をいかに獲得していくか、その決定要因に関しては、「業界におけるポジショニングである」(M.ポーター)とか、「企業がもつ固有のリソースである」(J.B.バーニー)といった議論がなされてきました。
これらの考えは、業界や市場が比較的安定している環境を前提にしています。

しかし、今は企業を取りまく環境がハイスピードで変化する、背景の絵がどんどん移り変わっていく時代です。
まったく前提から変わってしまった状況に対して、これからの企業経営では、変化対応力という今までにない能力(ケイパビリティ)の獲得が必須の課題になってきました。
不確実性の高い時代には、自らを適応的に変化させることができる能力、「ダイナミック・ケイパビリティ」を高めることが、企業の持続と成長を可能にする戦略的優位性になるのです。

ダイナミック・ケイパビリティを高める「組織能力開発」とは

では、どうやってダイナミック・ケイパビリティを育て、高めていくのか? じつは、議論のさかんな欧米でも、実践のための研究はさほど進んでいません。
一方、日本で近年、その方法論としてあらためて注目されているのが「組織開発」です。

そもそも組織とは、個人ではできないことをチームワーク、協働で実現するためのシステムです。組織の中では常に、「個人の力」をその総和以上の「組織の力」に変えていく、さまざまな「組織プロセス」が働いています。
たとえば、コミュニケーション、協力の関係性構築、めざすものの共有、個々の役割認識などです。

ダイナミック・ケイパビリティ論では、このような組織プロセスが反復されて定型化、習慣化し、組織内に定着したものを「ルーティン」と呼び、それが、企業の変化や進化に、また逆に、硬直化やガラパゴス化にも大きく影響していると考えられています。

私は、本来の「組織開発」とは、このようなルーティン化した組織プロセスの一つひとつに働きかけて最適化やリデザインを行ない、組織の能力を高めていく取り組みだと考えています。
しかし、日本の状況をみると、組織開発を導入する企業が増えてはいるものの、その多くは対話手法の普及だけにとどまり、組織プロセスへの働きかけを伴わない組織開発になっているように思います。
つまり、これからの企業に必要な持続的な競争優位性を生み出す組織能力の向上にはつながっていないのです。

その実情に対して私は、時代環境とともにアップスケールされる目的と、経営にとっての意味を明確にするため、組織開発から一歩進めて「組織能力開発」という言い方をしています。

組織能力を高める「プロセスデザイン」~組織プロセスを再構築する

ルーティン化した組織プロセスは、時とともに環境の変化や技術の進化に合わなくなったり、新たなビジネスモデルや戦略に適合しなくなったりして、組織の硬直化や組織能力の低下を引き起こします。

これらの組織プロセスは、ほとんどの場合、組織メンバーの一人ひとりに「仕事の作法」や「思考・行動パターン」として刷り込まれています。
暗黙知的に記憶されているため、それを変えることは他人任せにできるものではありません。一人ひとりがそれに気づいて自覚的に行なう必要があるのです。

それと同時に、これらの組織プロセスは、その組織のメンバー全員で共有されています。
それに対して、組織パフォーマンスに悪影響を及ぼしていると思われるものや、本来必要なはずなのに欠落しているものなどを、メンバー同士で話し合いをしながら顕在化させ、修正または新たにプロセスをデザインし、再ルーティン化していきます。

このように、環境やビジネスモデルの変化、事業戦略や企業の“ありたい姿”に合わせて組織プロセスを再構築し、組織能力を高めていく方法論を、私たちは「プロセスデザイン」と呼んでいます。

日本企業が持つ強いダイナミック・ケイパビリティを呼び覚ます

高度経済成長をもたらしたチームワーク力や、日米貿易摩擦に対するさまざまな規制への柔軟な対応力などを見てもわかるように、もともと日本企業の組織は強いダイナミック・ケイパビリティを持っていると言われています。

しかし最近は、DXの推進やジョブ型雇用の導入、テレワーク勤務へのシフトなど、一方では“組織の分断”に拍車がかかり、組織能力を減衰させるような変化の波がひたひたと押し寄せてきています。
組織のあり方や仕事の仕方が大きく変化しようとしている今、日本企業の持つ柔軟性という強みを失わず、それを変化対応力の基盤として戦略的に強化することは急務です。
そこで必要になるのが、従来の組織開発をアップスケールした「組織能力開発」の方法論や技術なのです。