本企画の開催は、昨年から始めて2度目となります。私たちスコラ・コンサルトのメンバーは、事例紹介のモデレーターや会場設営・運営をサポートし、私も一会場でタイムキーパーを担当しました。日頃は、社員の間でもプロジェクトが異なると担当組織内の雰囲気まではなかなか共有できないものです。それが、このような場では登壇された組織の変革実践者の方々から直接取組み内容を聞くことができ、また、モデレーターとなったプロセスデザイナー(以下PDという)との掛け合いを通じて、組織内の雰囲気や変革実践者とPDとの関係性を感じ取ることができますので、とても貴重な機会となりました。
そこで、今回私なりに印象深く感じた各事例に共通する3点を紹介させていただきます。

(1) なぜ、何のためかを話し合う場をつくる

時代の変化が激しくなると、組織は存続し続けることが予定通りには成し得なくなってきます。それとともに、社員にとっては、どうすることが組織にとって本当によいことかの確信を得ることが難しくなっているのだと思います。そのため、社員が心に不安を抱え、社員どうしの関係にも不安定さや不信感を生じてくることがあるのではないでしょうか。

そんな中、時代の変化を敏感に感じ取り、先行く時代を見通しながら、自分たちの組織にとって何が一番大事なのかを考え、自分たちがなぜ、何のために存在するのかの目的や意義を話し合う場が折に触れてあることは、とても大切です。これは、自分たちの立ち返る原点を見直し、確かめる機会となるものです。そして、組織内にぶれない判断基準を共有することが、相互の関係に信頼の軸を築くもとになります。

このような場は、実は役員層や部門長ほど求められている、ということが事例を通じて感じ取れました。役職は重くなるほど、責任を背負う重さと同時に先行き不透明な環境への不安も抱えているものです。それでも、経営幹部は、組織への影響力の大きさから、心の不安をうかつには言葉にできません。「それぐらいわかっているだろう」という体裁や、過去の成功体験に裏付けられた自信から自己否定がしにくくなっていることもあります。組織の目的や意義を話し合う場がなかなか持ち切れない現実があるようです。

だからこそ、経営幹部たちがこのような場をつくり、互いの結束を見出していくことは、組織にとってとても重要だということが再認識できました。

(2) 当事者として、あるがままの“自分”と向き合う

組織の原点を確かめる一方で大切なのが、そこで動き始める主体の存在です。どんな変革もそれを行う当事者の存在なくしては始まりません。

当事者が一歩を踏み出すことにかける思いには、その人が自分の人生とどのように向き合っているのかということを表していることがよくあります。そこで、私たちは、変革のプロセスの中でオフサイトミーティングの場を活用し、“ジブンガタリ”をする時間をたっぷり設けています。
“ジブンガタリ”からは、それを語る本人にとっては、自分自身を知る、自分に気づくことがあるものです。同時に、それを聴き取った人には、それ以上でもそれ以下でもない、あるがままのその人を受けとめる機会となり、語った人と聴き取った人の間に確かな共感と、信頼関係が築かれていきます。

ジブンガタリを通じて人と人の間に共感によって紡がれた糸は、幾重にも重なるとやがて組織の中のセイフティネットとなり、何を言っても受け止めてくれる“心理的安全性”を生み出します。心理的安全性は、甘さやゆるさではなく、自分に正直に、自己責任を持ち、自分と向き合う、切磋琢磨につながるものです。それゆえ、事例発表してくださった方々に共通していたのは、いかにうまくプレゼンするかより、いかにあるがままの自分を伝えられるかに価値を置いた姿勢でした。その誠実さは、市場の中での競争力の源泉が、競合他社との戦いよりも今の自分や自分たちをいかに超えられるのかの挑戦にあることを表しているようで、敵を感じさせない強さを感じました。

(3) いつ、何にでも即応できるニュートラルな状態をつくり出す

組織の目的と方向を共有しながら、変革の当事者たちが、あるがままに事実実態を受けとめ、立場・肩書によらず信頼してつながっている。このような組織の状態は、まるでスポーツをする前に柔軟体操を終え、肩の力が抜けて、深く呼吸をした後の身体の状態のようでした。過去に縛られず、未来に向けてこんなニュートラルな組織状態がつくれれば、いつでも、どんなオーダーにも、即応できるのではないでしょうか。

苦境に立っても、チャンスに遭遇しても、スピードが求められる時代です。環境の変化に対していかに柔軟にギアチェンジでき、ハンドルを切れるか、エンジンを吹かしてスピードを効かせられるか。即応して動ける組織か、抵抗を抱えて摩擦が大きい組織かでは、成果に大きな差がついてきます。
事例紹介された組織のみなさんは、どれもまだまだ道半ばという表現をされていましたが、あせりがあるわけではなく、どこかに余裕を感じられる面持ちでした。それは、とてもニュートラルなポジションをつくっておられたからだと感じられました。

他方自治体においては、全国一律一斉、総花的な施策展開から、ようやく抜け出し、“戦略”を取り入れ始めた段階にあります。しかし、それはまだ、首長が掲げたマニフェストをもとに、地方創生の成果を出すために、政策を優先づけ、KPIを追いかけることを目的化した状態にあるようです。

トップダウンの戦略志向のままでは、言われた成果を出すだけの一過性に終わりかねません。ここからもう一歩進んで、より自律的に柔軟性を持った行政組織の反応力をつくっていくことが、今後の課題となってきます。2020年からは、私もそんな役所の組織風土づくりに挑んでみたいと思えました。