4大経営指標の半分が人・組織関連の非財務指標
三好:2023年度にスタートした中期経営計画(中計)を拝見すると、「ビジネス面における注力テーマ」と「経営基盤強化」にそれぞれ5つの課題が掲げてあります。「企業風土の変革」は、「経営基盤強化」の1つに位置づけてありますね。
また、4つの経営指標のうち非財務目標としてエンゲージメントスコアとインクルージョンスコアの2つが掲げられ、それぞれ2025年度に65%をめざすと明記してあります。
中計や戦略で企業風土の変革を基盤として明確に位置づけていることや、4つの経営数値目標の半分を組織や人に関わる指標としているのは、「グループとして本気で企業風土の変革をしていくんだ」という強いメッセージ性が感じられます。組織開発チームの役割は重大ですね。
1. 基本方針
お客さま、社会の課題に対し、様々な挑戦を繋ぎ、新たな解を創造する3年間
~サステナビリティを軸とした、メリハリある事業展開により経営資源を最大限に有効活用
お客さま、社会とともに、その先の持続的な成長、豊かさへの礎を築く
2. ビジネス面における注力テーマ
①「資産所得倍増」に向けた挑戦
②顧客利便性の徹底追求
③日本企業の競争力強化
④サステナビリティ&イノベーション
⑤グローバルCIB(コーポレート&インベストメントバンキング)ビジネス
3. 経営基盤の強化
⑥企業風土の変革
⑦人的資本の強化
⑧DX推進力の強化
⑨IT改革の推進
⑩(上記①~⑨を支える)安定的な業務運営
4. 目標
連結ROE(注1) 2025年度 8%超
連結業務純益(注2) 2025年度 1~1.1兆円
エンゲージメントスコア(注3) 2025年度 65%
インクルージョンスコア(注3) 2025年度 65%
(注1)その他有価証券評価差額金を除く
(注2)連結業務純益+ETF 関係損益(みずほ銀行、みずほ信託銀行合算)+営業有価証券等損益(みずほ証券連結)
(注3)社員意識調査におけるエンゲージメント及びインクルージョンに関する各4設問に対する回答の肯定的回答率(1~5の5段階で4,5を回答した割合)
渡邊:中計のなかで、財務目標は連結ROEと連結業務純益、非財務目標はエンゲージメントスコアとインクルージョンスコアで示してあります。
私たちの組織開発チームが寄与するのは、経営基盤強化にある「組織風土の変革」と「人的資本の強化」だと自己定義しています。
三好:他社では組織開発が「経営や事業とは別モノ」の活動になってしまっているケースをよく見受けるのですが、みずほFGでは経営のなかにしっかり位置づけられていますね。
エンゲージメントサーベイを起点にした組織開発展開
増田:サーベイは、やっただけで終わってしまっては意味がありません。組織開発チームでは、各部店でエンゲージメントサーベイの結果を起点にして、組織開発の取り組みを職場で始めやすくできるよう働きかけています。
五十嵐:中計でエンゲージメントサーベイの結果を経営数値目標としたことが風土改革や組織開発の動きにドライブをかけていると思います。数値目標を掲げることには賛否があって、数字を追いかけるのはよくないという意見がある一方で、数値目標がないと意識を向けない管理者がいることも確かです。きっかけは何であれ、「みんなで対話して、部店をよくしていこう」と動きだしてもらうことが大切だと思います。

三好:いきなりマネージャーが「組織開発に取り組もう」「みんなで対話しよう」と言っても、メンバーのほうは
「何それ?」「余計な仕事を増やさないでほしい」という反応になることが少なくありません。職場で組織開発や対話を始めるのは現実にはけっこう難しいものです。
そのようなときに、サーベイの結果を活用して、自組織のことにメンバーの関心を向け、職場が抱える問題について率直に思っていることを話し合い、課題を共有して、それぞれができることで協力しながら組織をよくする取り組みをスタートさせるということは、非常に有効なやり方だと思います。「このようなサーベイ結果が出ているんだけれども、職場や仕事の仕方について日頃感じていることや思っていることを皆で率直に話し合ってみよう」ということであれば、対話の場もつくりやすくなります。
具体的には、サーベイの結果をどのように活用しているのでしょうか。
五十嵐:いくつかある施策の一つに「組織開発スタートアッププログラム」があります。手を挙げた部店の部店長や管理職を対象に、サーベイフィードバックの手法や組織開発の実践ノウハウを習得してもらい、各部店内で「サーベイ結果を起点にした組織開発」を実際にやってみてもらう内容です。月1回の集合セッションと職場実践で3カ月のプログラムになっています。2023年度にスタートして、2024年度までに約110部店が参加しています。
その他に、私たちのチームで「サーベイ対話ガイド」を作成して提供したり、サーベイ結果が出る時期にはエンゲージメントスコアの高い部店の取り組み事例を発信したりしています。また、サーベイ結果をもとに自職場のことについて対話ができるように、対話ファシリテーション研修も実施しています。おもに管理職層に推奨していますが、希望者は誰でも受講できます。
三好:部店長や管理職がサーベイの結果に注目し、自部店での組織開発につなげられるようなサポートをされていることがよくわかりました。
エンゲージメントサーベイは大企業の多くが人的資本経営の一環で実施しています。ただ、人事部門がデータを収集して、そのデータを統合報告書やサステナビリティレポートで公表することだけに使っている企業も少なくありません。
また、部課長クラスまで結果をフィードバックして「スコア向上の施策」を提出させて、実行は部課長に任せきりというケースも多くみられます。
高いコストをかけたサーベイの結果が、マネジメントや組織能力向上に活かされないのはもったいないですよね。みずほFGのようにサーベイ結果を組織開発の具体的な動きにつなげている企業はまだまだ少ないのが実態だと思います。
サポートツール提供とプログラム展開の2本柱
三好:サーベイを活用した組織開発展開のほかにはどのような取り組みをされていますか?
渡邊:私たちの活動は各職場における実践をサポートするツールの共有とプログラム推進に分けられます。サポートツールの共有は、組織開発の理解促進のための情報やガイドブックのほか、職場で活用できる対話ツールなどを共有しています。プログラムは、先ほどご説明したスタートアッププログラム、ファシリテーション研修、個別支援プログラムなどが中心です。
増田:情報発信は、グループ内のSNSや掲示板を利用したり、部店長が集まる会議などで説明したりと、さまざまな形があります。例えば、『組織開発 虎の巻』という資料を作成してグループ内イントラネットに掲載しています。資料を見た部店のメンバーが興味をもち、部店長に組織開発の取り組みの提案をして部店内の活動を始めるという流れも見られます。
部店の活動事例は、私たちがまとめたものだけでなく、部店の方たちが社内SNSなどに活動報告として投稿してくれることもあります。組織開発に関するコミュニティがあって、自由に発信して拡散してもらえます。私たちも発信の場をつくるなど戦略的な仕掛けに努めています。
三好:プログラム展開のなかの「個別支援プログラム」というのはどのようなものですか?
五十嵐:個別支援プログラムは、部店ごと10人前後のメンバーによって構成された組織開発推進コアチームを対象にして、7か月の期間をかけて集合型のワークショップと各部店での職場実践を繰り返して、組織開発の基本スキルの習得と職場の課題解決に取り組むというプログラムです。年に一度募集があって、一回のプログラムに10部店ほどが参加しています。部店ごとのコアメンバーは、手挙げで募る場合もありますが、部店長が指名するケースもあります。7か月の期間中は集合型のワークショップの定期開催だけでなく、私たちが各自の担当部店で対話の場に参加したり、コアメンバーと一緒に作戦を立てたりするなどの伴走支援を行ないます。

三好:これまで約800部店のうち、どれくらいの数がこのプログラムに参加しているのでしょうか。
五十嵐:個別支援プログラムは2024年度まで75部店近くです。少しずつ着実に増えているという形です。
三好:プログラム展開には、数回のワークショップを実施するだけで職場実践は参加者にお任せというプログラムが多いのですが、みずほFGの場合には職場実践への伴走支援がセットになっているのが素晴らしいですね。
部店を単位とした「組織学習プログラム」
三好:みなさんの取り組みでユニークだと思うのは、部店長や管理職、コアメンバーそれぞれの個人の組織開発スキル養成ということだけでなく、部店単位で丸ごと組織開発に取り組む方式をとっていることです。みずほFGの取り組みでは、本来「自分たちの組織を自分たちでよくする活動」である組織開発が部店単位で進められ、「部店の組織学習」ができているように見えますね。
渡邊:組織開発に「ホールシステム・アプローチ」というのがありますね。ある課題やテーマについて、すべてのステークホルダーやその代表が一緒に考えて解決していく方式です。
ただ、100人の部店で全員を集めて研修したり対話したりするのは現実的ではないので、その組織の縮図になるようなコアチームをつくって、そのメンバーを中心に活動する形にしました。縦は部店長からメンバー層まで、横は部店内の各チームや課からできるだけ広く集まって、チームを組成します。

部店長と一部の管理職が頑張っても、メンバーの共感を得ながら推進し、部店の変化につなげることが難しいケースも見てきました。かつてある部店で独自に組織開発に似た活動を進めたとき、部店長と課長のペアで進めたことがあったそうです。二人だけが頑張って、他の人たちを巻き込む図式なので二人の負担がとても大きいとわかりました。そこでもう少し範囲を広げて、「コアチーム」を作る発想につながりました。
三好:中計の数値目標にエンゲージメントスコアとインクルージョンスコアがありますから、部店長の皆さんも組織づくりに取り組みたいとは思っていても、どうやっていいかわからないということもあるでしょうね。
渡邊:自組織のカルチャーを育むことは、部店長の役割の1つとして部店長会議などで社長から発信されています。ただ、何をやったらいいのかわからないとか活動がうまくいかないとかいったケースもあるので、人事グループが推進するプログラムを活用してくださいということも併せてメッセージを出しています。
増田:約800の部店は50ほどの部門に分けられるので、部門の方たちと連携して人事グループから能動的に動くこともあります。サーベイの結果を見て課題が多い部店に対しては「組織開発のプログラムがあるので参加してみませんか」と勧めることもあります。
