部店のマネージャー層に組織開発スキルを実装する
三好:先ほどお話があったように、大企業では組織風土をつくることがマネージャーの役割の1つです。みずほFGの場合、まず部店のマネージャー層に組織開発のリテラシーを身につけてもらうところが展開戦略の特徴となっていますね。
増田:部店のマネージャー層が組織や風土、カルチャーに大きな影響力があることは私たちのチームの共通認識でした。われわれは、マネージャーの役割は業績数字を上げることだけではなく、人と組織を育てる役割もあると考えています。そして「組織を育てる」ために必要なマネジメント・リテラシーとして組織開発を位置づけています。人と組織を育ててくださいと言われても方法がわからないマネージャーたちは少なくありません。具体的な支援ツールやプログラムが必要になります。

人材開発の施策として、部店長になる人、マネージャーになる人向けのマネジメント研修はあるので、そこに組織開発のパートを組み込んでいます。組織開発という考え方があって、社内でこんな実践事例があるということをセットで伝えています。
三好:特に大企業にとって、組織開発を広く普及し組織に根付かせるためには、職場のマネージャー層に組織開発の基本スキルを持ってもらうということは効果的な戦略だと思います。
自主的な手挙げ方式の展開
三好:あと、みずほFGのような大企業では、組織開発の展開を促進するために全社一律一斉に「やらせる」やり方をとりがちなんですが、そうではなく、自主的な手挙げをした部店やメンバーをサポートするというやり方をされていますね。
渡邊:組織開発チームが発足した2022年度は、まだ現在の形でエンゲージメントとインクルージョンのサーベイを実施していませんでした。もちろん、中計の数値目標にもなっていませんから、当時は、組織開発そのものや、私たちの役割と活動を知ってもらうことが重要だったんです。

なので、組織開発に興味をもった部店に実践してもらい、取り組みの成果を好事例として発信することで、草の根的に広がっていくだろうと当初は考えていました。人事グループから「組織開発をやってください」と言ったとしても、アレルギー反応が起きてかえって逆効果だという見方もありました。本部起点ではなく、思いを持った部店とともに作るほうがいいと判断しました。
増田:銀行や証券など会社ごとにカルチャーの違いがありますし、同じ銀行でも営業部門と事務部門では仕事の仕方自体も攻めと守りで違います。職場の雰囲気、社員の育ち方はさまざまなので、各部店や職場の実情と「どういう部店にしたいか」ということに合わせたボトムアップ型の自発的な取り組みの方が私たちには合っていると考えています。
三好:強制的に指示を出してやらせるのではなくて、自主的な取り組みが起こるようなグループ内環境を整え、具体的な取り組み関してはノウハウやスキル、ツールや情報を提供してサポートするというやり方に徹しているということですね。
これまでの取り組みで感じられる成果
三好:これまで組織開発に取り組んでこられて、手ごたえはいかがですか。
五十嵐:中計の非財務指標の目標について、2024年度では、エンゲージメントスコアが62%、インクルージョンスコアが67%です。ただし、組織開発だけでなくさまざまな施策によるものだと考えています。

増田:業績や財務面での定量的な成果との因果関係を示すことができない点が悩ましいところです。「組織開発のおかげで支店の粗利が2倍になった」ということの実証が難しいのです。ほかの施策も同時並行で進んでいますし、組織開発は成果が出るまでタイムラグがあるので判定は難しいですね。私たちとしても、成果確認の点は現在の課題です。
一方で、「職場がよくなった」などの定性的な評価はたくさんあります。
渡邊:これも定性的ですが、個別支援プログラムに参加したほとんどの部店が7カ月の個別支援が終わったあとも活動を継続していることは評価の1つだと思います。部店長も含めて異動が相応にあり、コアメンバーも入れ替わりながら、それでも組織として継続しているのは大きいと思います。
五十嵐:私は今4部店の個別支援を担当して、週1回の対話会に継続的に参加しています。こういう活動に意味を感じている部店長やメンバーがいるところは活動が継続し、成果を実感できるまでになっています。初めは停滞ぎみだったのに、ある瞬間から議論が活発になる部店もあって一概にいえないところはありますが、ただ、実際に活動してみれば組織開発に意味があると認識してもらえる点は共通していると感じています。
三好:これまでのお話から、みずほFGの組織開発の取り組みには、
・経営戦略のなかに組織開発がしっかり位置付けられていること
・しっかりした専任事務局体制を構築し、情報・ツールやプログラムの提供と同時に部店の伴走支援を行なっていること
・サーベイを起点にした組織開発展開であること
・部店単位の組織学習方式を基本としていること
・マネージャーにマネジメント・リテラシーとして組織開発スキルを実装する戦略をとっていること
・自主的な手挙げ方式とボトムアップ方式をとっていること
など、たいへん参考になる特長があることがわかりました。大企業における先駆的な展開事例といえると思います。さらに今後の展開に注目ですね。
本日はありがとうございました。
