日本でも多くの企業が注目している「心理的安全性」

心理的安全性は、Googleのプロジェクト・アリストテレスというチームの研究によって世界的に有名になりました。Googleは自社のチームについて、あらゆる観点から分析した結果、チームを効果的に機能させ、収益性を高めるためには、心理的安全性が最も重要であると結論づけました。

心理的安全性とは「メンバーが、お互いに何でも率直に言い合え、安心して前向きに挑戦できる」ことです。Googleは、もう少し学術的な言い方で、「チームメンバーがリスクを取ることを安全だと感じ、お互いに対して弱い部分もさらけ出すことができる」と、表現しています。

これはよく考えてみると、とても難易度の高いことを言っています。
気心の知れた友人や、学生時代の部活動の仲間などとの親しい関係をベースに、心理的安全性が高いチームの経験をした人は少なからずいるかもしれません。しかし、会社の人間関係は自分で選んだわけではない「他人同士」であり、その組織には序列や利害もあります。その中で、「リスクを取っても安全」「弱い部分をさらけ出すことができる」という安全状態をめざすのは、現実にはとても高いハードルになるのではないでしょうか。

「仲の良いケンカ」にこだわってきたスコラ・コンサルト

私は約15年前にスコラ・コンサルト(以下、スコラ)に入社したのですが、入社初日に終日行なわれていた「みんなの会議」という全社員会議の光景を今でもよく覚えています。なんの議題について議論していたのかは覚えていませんが、一見したところ、まるで喧嘩をしているような、または炎上しているような熱気とエネルギーで話し合いが行なわれていました。
前職では比較的“行儀が良い”会議しか経験していなかった私は、そのギャップに驚いたのです。

その熱量あるぶつかり合いに度肝を抜かれつつも、同時に、そこで目にした光景をとても好ましく思ったことを覚えています。当時の印象を今の言葉でいえば、メンバーが上下の意識なく、自分の想いを解放して、ありたい姿を実現するため、互いに意見をぶつけ合うことができる、そういうフラットで活気のある組織文化が形成されているように見えました。

後に知ったのですが、スコラでは「仲の良いケンカをしよう」ということを大切にしており、メンバーが健全にぶつかり合うことが推奨されていたのでした。
時を経て、心理的安全性という考え方に世の関心が集まるようになった今日、私はスコラがずっと取り組んできたこと、あの日に驚いたスコラの組織文化は、まさに心理的安全性の概念につながっていたのだと感じています。

日々の「小さなアクション」が組織文化をつくり、持続のためのメンテナンスになる

私がスコラに入社してしばらくは、このような楽しいカルチャーショックに遭遇する毎日でした。そして、組織になじんでくると、こうした組織文化を維持するためのさまざまな「小さなアクション」やルールを、個々のメンバーが意識して日々実践していることがわかってきました。

たとえば、次のようなことです。
「少し元気のないメンバーがいたら、声をかける」
「新入社員が入ったら、全社員と面談し、互いの人となりを知り合う」
「話の内容だけでなく、その時々のメンバーの気持ちや違和感に目を向ける」
「『何をすべきか』だけではなく『何がしたいのか?』を聞き合う」

一つひとつは小さなことですが、こういうアクションを多くのメンバーが日々の習慣として大事にすることで、組織文化が色濃く維持されているのだと実感しました。

職場を心理的に安心できる環境にしていくためには、組織メンバーがみずからやろうと意識して動く「小さなアクション」の積み重ねが大切です。
通常、心理的安全性というと、どうしても部下に対して“上司がつくるもの”と考えてしまいます。たしかに上司の影響力は大きいのですが、一方で、上司だけがいくら頑張ってもなかなか心理的安全性の高い職場チームにはなりません。そういう「空回り」状態に悩んでいる上司の方も多いのではないでしょうか。
心理的安全性は、あくまで集団、周りの人たちとの「関係性のあり方」によるものです。上司と部下の双方が、そしてメンバー同士が互いに働きかけていかなければ安心できる関係性はつくれません。

そういう意味で、本当に心理的安全性の高い組織をつくるためには、上司だけではなく、すべてのメンバーが他者との関係において“相互性”を意識し、意思を込めたアクションを続けていくことが大切です。その日常的なアクションが、集団の関係性にポジティブな変化を起こします。そうやって、さざ波のような変化を積み重ねていくことで、心理的安全性が高い組織文化が少しずつ形成されていくのです。