プロジェクトリーダーは、営業企画課のシンボリックなリーダーと言われる課長でした。他の参加メンバーは、各課から課長もしくはベテランの実力者が指名され、計6~7人が集められていました。
私たちは、事前に相談を受けたとき、メンバーの選定にあたっては、現状に問題意識を強く持っていることや、実現に向けて評論家ではなく自ら主体的に取り組む意欲があることなどを要件として伝えました。しかし、具体的な選定プロセスには関わっておらず、チーム形成後のグループディスカッションから支援を始めました。

プロジェクトの会合は定例化されており、半年後に本部長へ企画提案する流れとなっていました。メンバーは、皆さんまじめで、熱心に議論を重ね、時には議論が深夜に及ぶこともありました。現状の問題を出し合い、構造化して課題を整理し、これをもとに対策を組み立てていく進め方でした。
提案には、営業部員が新しいスキルを習得するための教育体制の整備、販売会社における目標達成に向けた商品ごとの施策の強化策、他部門に対して新たな連携を図る必要事項などが打ち出されました。

確かにこれによって今ある問題は改善することができそうです。しかし、果たしてこの取組が「革新」と言えるものだろうか、わざわざプロジェクトなど立ち上げなくても、通常の会議で十分進められる内容ではないのか、そんな疑問がふつふつと湧いてきました。

なぜなら、話し合いの中では、自社が大事にしなければいけない顧客は誰か、営業部門は何のために存在するのか、今行なっていることは本当に販売会社の役に立っているのだろうか、他部門との信頼関係は築けているかなど、営業のあり方の前提について何ひとつ語り合えていなかったからでした。

もちろん、時折これらの話題が出ることはありました。
しかし、「ウチの現場では取り扱うのが困難だ」
「これまでも幾度かやろうとしたことはあるがモノにならなかった」
「本格的にやるには自社だけでなく販売会社を含めた体制が必要」
「それは経営の根幹に関わること、部門の範囲を超えている」
など、「それは〇〇だから」というできない理由を持ち出して、深掘りされず話題はすぐに蓋をされてしまったのです。

私たちは、「これでは革新プロジェクトと言えないのではないでしょうか」、そう疑問を投げかけ、これまでタブーとされていたネタをまとめて、本質的な革新に取り組むために今一度プロジェクトを組み立て直すことをプロジェクトリーダーに提案しました。しかし、プロジェクトリーダーからは、「本部長に一旦原案を提案してみて判断いただくことにします」との回答を受け、提案はそのまま提出されることになりました。

その後本部長からは、この取組には本部長自ら本気で臨むというメッセージが付されて発信されましたが、本格的な革新に向けて組織風土改革に取り組むことはなく、私たちはプレコンサルティングの段階で幕引きすることになりました。この経験から、陥りがちな落とし穴が見えてきます。

まじめな優等生に根付いている既存の価値観

組織の中でキーポジションについている人には、それなりの実績があります。その功績が自他ともに認められているからこそ、今の地位が得られているわけです。しかし、それはこれまでの組織において重視されてきた既存の価値観に基づくものに過ぎません。
今後価値観が大きく転換されると、これまでとは異なる価値観が重視される可能性が出てきます。それは既存の優等生たちの経験にはないものです。また、彼らにとっては、今までのように高評価を得られなくなってしまう危険性を生じるものでもあります。それゆえ、話題に上がったとしても議論が進みにくい状況となります。

指名により選ばれたメンバーは、精一杯自分たちにかけられた期待に応えようとまじめに議論をすればするほど、彼らがこれまで大事にしてきた価値観に根付いた提案になっていくのです。

過去に詳しいほどできない理由に縛られる

優等生も、実績を得る過程では、さまざまに苦労したことがあったはずです。そのため、何を変える必要があるのかという話をするときには、過去の障害について話題が出てきます。
しかし、対策を考えるときに、これらの障害がなぜ発生したのか、その要因を深堀りして真因を探り当て、その発生要因を取り除くための根本的な解消策を考えるのか、障害に遭わないようできるだけ回避する対処療法を考えるのかには大きな違いがあります。

前者の発生要因からとらえるならば、過去の失敗は当時の環境下における障害によるものであり、将来の環境下ではその前提条件が大きく変わっていることが考えられます。もしかしたら発生要因はすでに変化していて、実はもっとチャレンジングなことでもやれるチャンスが出ているのかもしれません。それでも要因は一つではなく複雑に絡まっているため、うまくいくという保証はありません。メンバーは、自部署の一つの商品についてであれば、自らの責任の範囲内でリスクを見極めつつ一点突破する新しい企画に挑む提案をすることはできたかもしれません。しかし、組織全体に及ぶ施策として考えるとなると、会社全体を不安定にするわけにはいかず、後者のリスクを避ける防御策を並べることになりがちです。

過去の延長線から離れられない

最近では将来の施策を考えるときに、バックキャスティングといって将来のありたい姿を自分たちの意志として描き、そこから逆算して今から何をしていくかを考える方法論が出ています。しかし、これまでは過去の延長線で将来をとらえる、フォアキャスティングであるべき姿を考えていくことが当たり前でした。各種の計画は、現状とあるべき姿とのギャップをとらえ、この問題を解決する対策を立てています。
今後は、これら二つのアプローチをどう組み合わせていくのかが、革新に取り組むうえでの組織運営上の課題になってくるのではないでしょうか。

特に、企画・管理部門は、既存の計画に基づいてPDCAサイクルを回して、検証する立場にあります。
それだけに、既存の計画とは異なるバックキャスティングから生み出した施策や目標について、両者が折り合う接点を見出して説明をつけていくことが難しくなってきます。
各種の計画は、関係機関を巻き込んで展開しているだけに、対外的にも説明をわかりやすく、理解されやすいように収めていこうとすると、どうしても過去の延長線から離れ難くなってしまいます。

地域の変革などで革新的な取組をするときに、誰を巻き込むかについて「よそ者、若者、馬鹿者」という言葉があります。その背景には、このような落とし穴があるというわけです。
みなさんの組織でも、革新的な取組に向けてプロジェクトチームを立ち上げたはずが、思うように機能していないというときに、これらの落とし穴があてはまることはないでしょうか。こういった事態に陥らないための具体的な実施方法については、またの機会にお話をさせていただきます。